第60話 ちっとも恋愛感情ないです。
押し掛けた報道関係。想像は出来ていたがオレたちは我が家に入るのにも、ひと苦労しそうだ。総理の秘書の方にホテルでの宿泊を勧められたが、父さんや母さんの顔を見たい。
所詮は親離れ出来てない子供なんだ、オレは。そして親離れ出来てないことは満更でもないのは舞美も同じだ。
ワンボックスの中で皆散々騒いだあと、寝てしまった。オレも運転してくれてるカメラ担当の『ゲンさん』には悪いが、くたびれて寝ていた。そんなオレは揺り起こされた。
(順兄ぃ、起きて)
(マイちゃん…ここは?)
(家の近くのコンビニ…入れないのよ、報道関係とかで)
(ゲンさんは?)
(コンビニ。トイレかな?)
(そうか…やっぱ素直にホテル行っといた方がよかったか。部屋取ってくれるって言ってたし)
(なんで断ったかなぁ…部屋残り少なかったから、うちら同室だったのに…
(悪いな。納得してたか?)
(そりゃね。自分も同じだもん、会いたいの)
オレは舞美の頭を軽く撫で、肩にもたれて寝ている栞を真っ直ぐにして、車外に出た。外はヒンヤリとして新しい空気を感じた。オレはスマホを取り出し、ジェシカさんに連絡を取った。
どうするか相談するためにだ。しかし、ジェシカさんにも妙案はなく『軽く相手しないと無理でしょう』になった。
戻ったゲンさんにそれを告げ、浅倉さんを起こす。浅倉さんの意見も変わらないが、知り合いの記者に連絡をし『一旦家に入れて貰えれば玄関先で対応する』と交渉成立した。
流石、出来る系女子だ。さっきまで報道関係者で埋まっていたガレ―ジ前は、ワンボックスが入れる位の間隔が空いていた。
本番『マイたん』と入れ替わって寝てた舞美は率先してメディア対応してくれた。元々舞美が目当てで集まった記者さんたちは、舞美の『ご近所にご迷惑が…』発言に取材を終えたら、魔法のように帰っていった。
家の警備をお願いしていた、ジェシカさんにお礼を言った。ラ―スロ公国日本側大使館では、そこそこの立場のジェシカさん。今日まさに日本政府とラ―スロ公国は歴史的な一歩を踏み出そうとしている、そんな時にこんな私的なお願いをしたことを謝った。
「順一さまがお嬢様に。我が国にしてくださっことを思えば――全然です」
「でも、あれは偶然だし」
「しかしもしあの時、お嬢様に何かあれば両国は、未来永劫修復不可能な関係に。それ程にアレでも国民に愛されております。なんでか知らんけど……」
なんだろ…最近シルさんと、ふたりきりになることが多いのだろうか。語尾やらにそこはかとなく、不満の匂いがプンプンする。
「ジェシカさん。その大使館に戻らなくてもいいんですか?」
「えっ? 私いたら邪魔ですか? 順一さま。私がいたら嫌だったりですか。出来れば羽根を伸ばしたいというか、正直『あの子』面倒臭くて…明日の朝まで顔合わせたくないといいますか……私にも命の洗濯が必要なんです。もうクタクタで。私、他の方と違い順一さまに恋愛感情はありませんが、もし朝までいていいなら、そんな感じの演技もしますけど?」
「あの、ジェシカさん。そういうのじゃなくて。ほら、今日大使館は大変かなって」
「全然大丈夫です。本国から専門の者が来てますし。警備も何時もより厳重です。お嬢様が脱走したくても無理なくらい。因みに大使館の警備は主にお嬢様対策です。抜け出しますので。外部からの侵入は無理です。それこそ重武装の20名単位の部隊でも投入しなければ。それ程する理由もありませんし。私にとってはむしろ外敵よりお嬢様」
なんだろ…ジェシカさん『お嬢様』と口にする度に軽く身震いする。長年の付き合いによる閉塞感みたいなのかなぁ…考えてみればシルさんだって、立場的に気軽に外出とか出来る訳でもない。ストレスが溜まってついついジェシカさんに辛く……想像できないけど。
「あの…もしよかったらなんですけど、シルさんの話相手でもしましようか、電話でなら…セキュリティ的に問題とかありますか?」
「えっ? 順一さま。あの、めっちゃ面倒くさくて『メルヘン国』のメルヘン姫みたいなお嬢様『グ―』的なもので殴れるなら、今月給料いららんわ! と真剣に思っちゃってるんです、私! そんな私に代わって相手してくれるんですか? 神ですか? 何が目的です? あっ、体ですね?」
「あぁ…せめてなんていうか、お友達からみたいにして貰えるなら、私もお相手がいるわけでもありませんし……考えてみれば『細マッチョ』は好物ですし。いや、待てよ。これってお嬢様に対しての絶好の『ざまぁ』なタイミングかも…」
「お友達から始めるとして『ざまぁ』見たさに『順序』変えてもいいかもですね。我が国では日本の殿方とお付き合いするのは、実はトレンドだったりで……」
「そう言えば思い出しました。順一さまったら私のパンツを覗いた経緯をお持ちの方。ははん、さてはふたりきりになるタイミングを見計らって、こう見えて純情無垢な私を手籠めにしようとなど、年下のくせにかわいいじゃないですか」
「いや、私とで女と生まれた身。女子枠が溢れに溢れている男子が結果私を選ぶなんて、萌えないわけないですね。まぁ、ちっとも恋愛感情ないですけど」
などなど考えてるコトがびっくりするくらいダダ漏れなジェシカはいい顔で言った。
「お願いします!」
いや、何をだ? オレはシンプルにシルさんの話し相手したかっただけなのに……確かにパンツは見たけど。覗いたわけじゃないからな?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます