第59話 共依存はどうでしょう?
「きっとね『お前にはこんな桜の下で平和に暮らしてほしい』って。兄はね、こう言いたかったんだって……不器用なんだからね、ホントに……ホント、不器用。嫌になっちゃう」
そう言って目元を袖でゴシゴシ拭いて、無理矢理に笑った。その笑顔がいつもと違ってて、何かほんの少しだけ年上の先輩みたいに見えた。なんていうか…謎めいた3年の大人系マネ―ジャ―みたいに。
浅倉さんはすっかり泣き止んだ。泣いてスッキリした顔を見て、なんでか5歳くらいの時の舞美を思い出した。スマホを見て浅倉さんは『なんと、まだ3分も残ってる』と攻撃的な上目遣いでにじり寄って来た。
「ねぇ、順一ぃ。私ブラコン。今のでわかったでしょ? それで変だけどずっと年下の君に『兄の面影』重ねたりね、してる。それでもって君は根っからのシスコン。わかってないでしょけど、君は時折、私の中の『妹』見てるの」
あ…っ、どうしょ! 浅倉さんの言ってる意味――めちゃくちゃわかる! ヤバいくらいわかる…そうなんだ、年上だから姉貴肌だからついつい甘えてると思ってたけど違う! 浅倉さんの中にどうしょうもないくらい『舞美』がいて…庇いたいやら、構って欲しいやらがごちゃまぜな時がある。
「でも、君。舞美はダメよ、明らかに兄妹よ? 傍から見たらクリソツだもん。まぁ、言葉にしなくてもわかってるか。ごめん、今のナシにして。そうね…私は君の中に『兄の面影』を追い求めてる。それで君は私の中に最愛の『
浅倉さんはオレの鼻先を指で、ポンポンと叩きスマホの画面を見た『あと30秒か、もったいないけど…』そう呟いて背中を向け、スライドドアのノブに手を掛けた。
オレはその時なんでか、置いてけぼりを食らった気分になった。どこかで、ちょっとムッとしたんだろう。オレは離れていく浅倉さんの背中に近づき、徐ろに、浅倉さんの頭に手を。そして軽く『ポンポン』とした。なんだかなぁ、とは思ったが…
「――英子。頑張ったよ、お前は―」
浅倉さんはオレの言葉に驚き軽く跳ねて、固まった。固まりながらゆっくり振り向いて呟いた。
「ホント? お兄ちゃん…ごめんなさい。私…」
オレは浅倉さんの涙腺崩壊させてしまった。浅倉さんは泣きながらオレの頭とか顔を『ポコポコ』と殴った。そして恨めしそうかな顔して『年下のお兄ちゃんに泣かされた』とべそをかいた。
□□□□
「うわっ、英子さん! 大丈夫ですか!?」
なんやかんやでオレと浅倉さんは約束の15分フラットで、ワンボックスを出た。そして浅倉さんに、撮影クル―の女性が駆け寄る。
「大丈夫よ、なんで『アルバイトちゃん』?」
「英子さん、いい加減名前覚えてくださいよ」
「あっ、ごめん。覚えてるわよ『
「いや、勝手に風を感じないでください『
「ん? そうだっけ? じゃあ『スズ』でいいか!」
「いや、覚える気! まぁ、良きですが。それより大丈夫なんですか『ツケマ・ゼロ』ですよ!『ゼロ・ツケマ』ですけど! ツケマ命の英子さんが!」
「へ?」
浅倉さんは固まり一瞬でオレとの距離を詰め、ゼロ距離からの――
「おい、順一。アンタ…ノ―ツケマな私の顔見たな? のっぺり顔の私の素顔……もう、決定な! 入籍な! 文金高島田な!」
「英子さん、いくらなんでも暴論では!? 斎藤君高校生ですよ? それに『ツケマ・ゼロ』はゲンさんも見てるし!」
「ゲンさんはいいの! 家庭不和だから! 家帰っても子供たちしかいないから! 大学生でお小遣いで釣らないと、口きいてくれない娘さんと息子さんしか!!」
「何故に俺の個人情報をここで? しかもディスり気味で……」
撮影クル―のカメラ担当…『ゲンさん』っていうんだ。あと『アルバイトちゃん』はスズさんか。名前聞くタイミング外して聞きにくかったから、よかった。
オレは盛り上がる撮影クル―を置いて、戻るべきトコに戻った。舞美と栞が待つ場所に。ふたりは総理官邸の隅にある手頃な庭石に腰掛けていた。オレの姿を見て舞美は胸元で小さく手を振った。
「お疲れさま。マイたん」
「兄さん…気付いてたの。そう、嬉しい…かな?」
「あの…乙女な感じのところ悪いんですけど、私のデ―タにある『マイたん・ヤンデレ』バ―ジョンはどうなったんですか? なんちゃってヤンデレですか?」
「違うわ。栞さん…兄さんが―最近の兄さんは私を安定させてくれるの。だから、ヤンデレ要素出す余地がないの。幸せに満ち溢れてるの」
「幸せを語るヤンデレなんて最早ヤンデレ要素ナシですね。ヤンデレの風上にも置けないですね」
「あら、そういう栞さんだって。兄さんのこんなに側に。スト―カ―としてあるまじき行為ね、栞さんってスト―カ―要素なくなったら……あら、兄さん。どうしましょう。存在感、めっさ薄い…」
「あのあの、マイたんさん。存在感薄いってスト―カ―的には最高の褒め言葉ですから! ステレス性能高いのスト―キングに有利に働きますからね?」
「兄さん…どうしましょ…そんなスト―カ―について熱く語られても…マイたん、たいして興味持てないし…さりとて、放置は不憫だし…」
「いやいや、マイたんさん! 興味持とうよ、そこは! 確かマイたんさんが話振ったんですからね、あと『さりとて』ってなに? 古語? 古典なの?『放置が不憫』なら構ってよ!」
「兄さん…栞さんに全部に突っ込まれても……私疲れてしまう……そうだ、兄さん。兄さんから栞さんに『やんわり』注意して差し上げて『キモいぞ』って」
「お言葉ですが『キモいぞ』は全然やんわりじゃないですよ? 聞いてますか? なにワザとらしく儚げな空気出してますか〜?」
そんなふたりと浅倉さんのワンボックスで帰路に着くことにした。
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