第53話 タレ目女子は色っぽい。

「当初の予定では政府関係は出来るだけスル―するつもりだった。でも逆にガッツリ前のめりで関わろうと思う。浅倉さんの話だと内閣支持率……よくわかんないど、話題になるようなことをしたいみたい。だから、利用したいなら、こちらも利用しょうかと」


 先ほど浅倉さんが対応してくれた総理大臣からの電話。退学処分の取り消しの報せと、会って今回の件を話をしないか、みたいな提案だった。一旦浅倉さんは保留にし、オレの意志の確認をした。


 今その経緯と結論を口にした。浅倉さんからは校長に関しては悪い報告は受けてないものの、事務長派の成宮監督と担任の林田先生に関しては、耳を覆いたくなるような報告だった。


 栞の音声デ―タのおかげで心の準備は出来ていたが。そして事務長派の3名に徹底抗戦するために――事務長による女子生徒の被害者をこれ以上増やさないためには、有耶うや無耶むやにだけはさせない。


 校長は『普通の人』という浅倉さんの報告を疑うつもりはないが、校長と事務長は夫婦だ。土壇場で闇に葬られない保証はない。警察に相談するにしても、決定的な証拠が手元にあるとは言い難い。なので、政府を後ろ盾とし完全に逃げ道を塞ぐことにした。そのためには舞美と栞のメディアへの露出が必要となる。特に栞だ。


 そう、目的がに進んだ。オレが高校に戻ることに関しては達成された。しかし『常和台ときわだい高をぶっ潰す』とは『事務長派をぶっ潰す』が含まれなければ意味がない。


 現段階では彼らの悪行の噂なり、証言はあるものの、どれも彼らを追い詰め罪相応の罰を与えるには、確実な証拠、物証がない。


 注意深い事務長は『ヤバい』ものは示談に持ち込んでいる。つまりは一定の解決を得ているのだ。下手をすれば合法的に事務長派全員が残りかねない。それは看過出来ない。


 栞は我が家で保護して以来学校に行ってない。事務長たちのタ―ゲットにされたまま行かせるわけにはいかない。事務長派は栞が、オレたちと行動していることは知らない。


 もし万が一、事務長派のひとりでも学校に残る道が出来てしまったとして、栞が政府と関わりがあることを示して置きたい。同じようなことをしたら、どうなるか考えるまでもないように。


 保険や攻める手立ては多い方がいい。手詰まりになってる場合じゃない。一気に攻め込んで、事務長派の詰まらない言い訳を崩し去らないと栞は安心して学校に通えない。


「秘書の方が迎えを寄こすって」

 オレが政府のお誘いを受ける意志を浅倉さんが伝えてくれた。

「よくわかんないけど、一刻も早く来てほしいみたい。なんか思惑があるみたい。それはそれで、ぎょしやすいかもね。思惑が一致したってことだし、ところで順一」


 さっきから浅倉さんがオレの事を『下の名前』で呼び捨てにする。何というか、女の人にされたことないので、新鮮だし、嫌な気はしない。


「どうしました?」

「人選どうする? はっきり言ってリスクは避けたい」

「リスク、ですか?」

「全員で行かない方がいい。事務長派の出方がわからない現状、自暴自棄になって、とんでもない手段に出られたら」

「つまり…移動を狙われるかもと?」


「ない話じゃない。でもアンタと舞美、栞は行かないと、でしょ?」

「はい。実のところ舞美はオレ的には残したいんですが、政府側は舞美の参加を望んでますよね」

「御名答。動画での露出が多いからね。その時の苦労話を聞いて涙してる『絵』が欲しいの。アンタ的に栞は外せない」

「はい。事務長派に釘を刺さないと」

「お母さま、ヒゲのお父さん。ごめん、お留守番して貰えます?」

「了解〜〜」

 母さんは間延びした返事をした。父さんも端から表舞台に出るつもりはない。しかし……狙われるのは移動だけか?

「浅倉さん。どう思います? すごく身勝手だけど、ジェシカさんに頼めないですかね」

「ここの警備でしょ? ヒゲのお父さんには、防犯カメラ置いていくって言ってたから。なんか引っかかってんじゃない。頼めば何人か貸してくれるでしょ、私連絡しとくわ」

「助かります。浅倉さんたちは?」

「行かないわけないでしょ? 大本番よ。アンタたち3人は政府が用意したクルマに乗って。決めつけはダメだろうけど、流石に政府のクルマに突っ込んだりしないでしょ。警備も付くだろうし」


 事故を装うとなると、どうしたもんか。素人のオレでは手の打ちようもない。状況に任せるか……一瞬思いかけて嫌な予感がした。これ絶対釘刺さないとだ。


「浅倉さん。約束して欲しいんですけど『カッコつけて』自己犠牲とか洒落になんないんで」

「カッコつけて、じゃなくて天然でカッコいいんだけど。心配してくれてるわけね…ふ―ん…わかった、アレでしょ? 突っ込んで来たクルマにうちらのミニバンで間に入る、みたい? バレたらしょうがない。はいはい、に心配掛けないようにしないとね」


 どこまで本気かよくわからないが、浅倉さんのタレ目は妙に色気がある。狙っているならまだいいが、普通がコレならどうしたらいいやら。


 そんなタレ目で流し目をしながら、ジェシカさんに警備依頼を済ませ、撮影クル―に出発の指示。それから、どれくらいで、迎えのクルマが到着するか秘書の方に確認した。


「どうかした?」

 オレの視線に気付いた浅倉さんは、挑発気にアゴを少し上げた。

「知ってましたけど、出来る系でなんか、かっけ―です」

「知ってる。あっ、でもワザとだからね? ほら、演出よ演出『年上も悪くないかも』みたいに思わせるあざとさよ。まぁ、ネタバレしちゃうから、ナンダかねぇって感じでしょ? まぁ、出来る系ではあるけど、そればっかじゃないわよ?」

 浅倉さんはあざといウイングで締めた。









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