第52話 私のプラン。
オレはリビングにいた面々にハグやら、握手やらをしてまわった。父さん、母さん。浅倉さんと撮影クル―のおふたり。そして栞と舞美が抱きついてきた。いや、抱きつかれに行ったんだ。
オレは舞美と栞の頭をくしゃくしゃになるまで撫でた。
「じゅ、順兄ぃ〜! 私、大型犬ちゃうから〜!」
あまりの雑さに舞美は笑顔で反論する。仕方ないので、本格的に『大型犬』扱いした。首下を両手で
実際はどうかわからないが、栞がなんか羨ましそうな目をした(ような気がしたので)舞美に輪をかけるようにしてやった。意外にもそこそこ迷惑そうな目をした。これがツンデレと言うヤツか。
スト―カ―でツンデレとか、成立するんだろうか『私、アンタの為に尾行してるんじゃないんだからね! 勘違いしないでよね!』とかなのか? なんか新しい。新ジャンルの確立だ。
「はいはい、皆さん〜
「はい」
「アンタ、この着地点で満足なの?」
少しタレ目の浅倉さんは蔑むように、試すように、からかうように、言った。きれいな形の唇がいつにも増して艶ぽく、ツンとした。
「いえ」
「そう? 欲張りなの? 強欲なの? それとも駄々っ子なの? もう十分じゃないの? 引き際も肝心よ?」
浅倉さんの益々見下す視線。わざとかなぁ、ご褒美にしか見えないけど…オレはソファ―で舞美と抱き合う栞を引き剥がし、浅倉の前に――みんなの前に連れ出した。栞はわけ分かんない、みたいな顔でオレと浅倉さんを交互に見る。
「浅倉さん、オレは強欲です」
「ふっ、どの辺りがなの?」
「まだ、ゴ―ルじゃない。こいつが栞が流した涙が乾いてない」
「そう? お姉さん、歳かな? 忘れちったけど? なんだっけ? 栞ちゃんなんかあったっけ?」
「あの、斎藤君。私のことなら全然よくって……」
「じ、順兄ぃ! 私も―私もよくない! 違う! このままじゃ、嫌っ!」
「―で、斎藤順一。何がどう、強欲なの? お姉さん教えてほしい」
「まだ終わってないからです。オレのは、まぁ…こんな感じかもですけど。栞の叫びがなんていうか、まだ耳に残ってて。コイツのこと『一瞬でもヤレる』って思ったヤツ――事務長派をぶっ潰す」
「――覚えててくれたんだ」
「なに言ってんの、オレにとっちゃ、こっちがメインだからな」
「あ――…ごめん」
「栞。なんで謝る」
「いや、斎藤君とは違くくて…舞美ちゃん――ごめん」
「え…? 私に?」
「――おっほん。本日はお日柄もよく、皆様には私、三崎栞のファ―ストキスの立合い人になっていただき、誠に感謝しております! 本日の予定ですが、このあと斎藤順一さんとファ―ストキスを
「なに言ってんの、栞ちゃん。まさに『天国』に送るんだもの…おかしな子ね。私の順一に手を出そうなんて…そうそう、お母さま〜」
「なに、浅倉ちゃん」
「あの、この間お願いしました件。順一の妻になります。もっともっといい男に育てます。もう、そこそこ十分ではありますがお願いします」
「オッケ〜ちょっと待ってね、と。あった。浅倉ちゃん、ジュン。外国じゃ16で結婚出来る国あるみたいよ? 移住する?」
「移住!? お母さま、わざわざ調べて?」
「そうよ、善は急げってね」
「お、お母さん!! 全然『善』じゃない!! 私のプラン崩れるじゃない」
「舞美、プランって何?」
「順兄ぃ、聞いて。ちょっと先の話だけど、まず、順兄ぃが大学進学で家を出るの。じゃあ私も大学進学で家を出る! みたいなことになるとする。でもきっと『どっかの』ヒゲが『ダメ〜』になるわけよ、まぁ、私、可愛いから仕方ないとして。それじゃあ『順兄ぃと同じトコ住む』みたいなこと妥協ぽく言うわけよ、なんか渋々感だして。そしたらヒゲは言うわけよ『なら仕方ないなぁ…4年だけだぞ』って。でも順兄ぃはふたつ学年が上なわけじゃない?」
「まぁ、そうだなそこからは一人暮らしだな」
「そう。でもね、ヒゲは言うわけよ『心配だ〜心配だ』って。そこで我が家で唯一父親想いの順兄ぃが『じゃあ、大学の側で就職するわ』になるのよ。そしたら、私も大学出たらそのままそこで就職する。月日が流れて『なんか部屋狭いなぁ』なんて事をどちらからともなく口にする。引っ越した先のハイツで挨拶に行くわけよ、ご近所に。そしたらもちろんふたりとも『斎藤』なわけ。そうなるとご近所さんは『あら、お若いご夫婦ね』になる! そして敢えて『ご夫婦』を否定しない! 兄妹発言禁止!! こうして正式に斎藤兄妹から斎藤夫婦にジョブチェンジするわけ! そして我が策は成る!」
「長いわ!! 話もだけど、計画も長いは! でもまったくなくはないなぁ…」
「でしょ、順兄ぃ。まさに
「あの…盛り上がってるところ悪いんだけど、舞美ちゃん。それ今言ったら『ヒゲのお父さん』に全力阻止されない? あと三崎栞の存在忘れてない? この子バカだから絶対隣に住むわよ? ハイツの壁ぶち抜かれるわよ? まぁ、私もそこに一緒に住むけどね」
「あっ、いきなり私にル―ムメイト出来ましたか。ヘッドロックする凶暴なルームメイトですけど」
栞は舞美の計画を残さずメモ取りしていた。スト―カ―さんてマメなんだね。
そんなことを言いながら、オレたちは最後の計画に取り掛かる時が近づいていた。
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