第51話 呆気ない幕切れとリスタ―ト。

 昼間から舞美と栞とイチャついた後。今後の方向性を考える事態に直面した。それは一本の電話からだった。


「ジュン。何か、わかんないけど、フシミダっていう、おっさんみたいな声の友達から電話」


 夕方にはまだ早く、しかし昼はとっくに回った時間帯。そんなひと時に掛かってきた電話。母さんからそう告げられたが、友達ならケ―タイに掛けてくるだろう。


 なんか、勧誘的なもんか? それとも最近何件か問い合わせがある『高校編入』のお誘いか。なまじ名前が売れたせいか、客寄せパンダ的な役割を期待され私学からの問い合わせがある。


 ありがたいことなんだけど、今じゃない。まだ、片付いてないことが幾つもあった。そんなわけでオレは玄関先にある固定電話を取った。


「もしもし、お電話代わりました」


『どうも、君が斎藤くんかい?』

「えっと…はい。どちら様ですか?」

『私はフシミダといいます! 君にサイコ~のお知らせが――』


(ツゥー…ツゥー…)


「どうしたの?」

 偶然通り掛かった浅倉さんに声を掛けられた。クリクリとしたタレ目の目元がイタズラな仔猫を連想する。年上に仔猫とか…どうなんだろ。


「浅倉…何かイタ電かなぁ…『君にサイコ~のお知らせ〜』みたいな?」


「何それ? 占い? いや、待って……アレだ!!」

「アレ?」

「――小暮某よ! あの暇人事務員さん、寂しいからって斎藤君に持ち前の『構ってちゃん』スキルの発動してんのよ!」

「小暮さんですか? 声…男の人でしたよ?」

「アノ女『だみ声』だったじゃない? それと初登場、思い出して。事務長、騙くらかした時。無駄に芸達者だったでしょ? まぁ…宴会芸の範囲だけど」


「そうかなぁ…」


「そうよ、いいわ。次掛かってきたらお姉さんがとっちめてやるわ」

「はぁ…」

 浅倉さんは腰に手を当て胸を張った。浅倉さんはスタイルがいい。そんなポ―ズされると、目のやり場に困る。いや、見てないフリしてチラ見。


 さっきの栞といい、浅倉さんも…オレは何か胸ばっか見てないか…いや見てる。オレは迂闊うかつにも露骨に目をそらせた。勘のいい浅倉さんに対して。


「あれ〜? ? ? 斎藤君、お姉さんのドコ見て目をそらしたの? 顔真っ赤だよ? あら〜お姉さんも捨てたもんじゃないのかな〜?」


「あの、その…えっと…ごめんなさい…」

「ごめんって、君――認めちゃうのね? お姉さんの胸――おっぱい。そこ誤魔化さないんだぁ? へ――っ。そうなんだ…どうする気? お姉さん変に自信つけちゃうよ?」

「おっ、おっぱいですか!?」

「あっ…ごめん、!」

「わ、わざと…なんですか?」


「ごめんね。でも、からかってないよ? 反応かわいくて、ついつい。ふふっ、あっ…空気読めない小暮め…『自称スレンダ―モデル』から電話ね、任せて! 怒りの鉄槌を振りかざしてやるから!」


『モシモシ? 斎藤くん? 切れちゃったね? 緊張したのかい?』


「なんでアンタ相手に緊張しなきゃなの?」

『あれ? どちら様? 斎藤くん―お姉さんいたの? 妹さんじゃなかったけ?』

「お姉さん? まぁ、年上女房には変わりないけど? それより何? 思ってたより随分上手いじゃない、誰のモノマネよ?」

『モノマネ…? いや、本物なんだけど、一応…』


「はいはい、じゃあ誰の本物よ? こっちは暇じゃないんだけど?」

『えっと…私は暇な感じなのかなぁ…えぇ…私―フシミダです』

「伏見稲荷? キツネさん? 確かにアンタ、キツネ顔だわぁ…いや、あれか? キツネにつままれた的なやつか?」

『あの、お姉さん…何を仰っているか……私は―…』


 □□□□

 立ち聞きもなんなので、オレは一足先にリビングに戻った。仮病に飽きた舞美はソファ―で足をぷらんぷらんさせていた。


 栞は…なんかわかんないけど、スマホのマイクだかカメラを入念にチェックしていた。おそらく『スト―キンググッズ』の手入れだろう。見たことのない真剣な眼差しだ。


 栞と一瞬、目があったがそらされた。あたふたとする仕草から恥ずかしいんだろう。オレはこの子の眼の前で今しがた、本人の下着を触ってたんだ……改めて考えるまでもなく変態だ。


 近くを通り過ぎると、指先をちょんとこっそり触れてきた。誰だよ、スト―カ―怖えぇなんて言ったやつ。ウチのスト―カ―は激萌えだぞ……


 手持ち無沙汰なので舞美の座るソファ―の隣に座った。こっちもこっちでそっと顔を耳元に寄せて――

(順兄ぃだぁ)

 と囁きボイス。ああ! もうコイツ妹枠じゃねえわ! 後付で血が繋がってないことに出来ねぇかなぁ! オレ病院で取り違えられた設定になんないかなぁ!


 まぁ、こんな風にひとりモテ期。通称『エア・モテ期』を満喫しているところに浅倉が戻った。


「浅倉さん、小暮さんでしたか?」

「小暮? 誰? いや、あのハイテンション事務員じゃなかったわ」

「そうなんですか…」


 そう言って浅倉は『すぅ』と息を吸い込み、ゆっくりと手を叩いた。


「はい、皆さん注目〜〜! 次から次へとだけど、来るときが来ました! 今の電話――」


 視線が自分に集まっていることを確認して浅倉さんはゆっくりと、口元には自信満々の笑みを浮かべて言った。


「内閣総理大臣、伏見田総理からです!『総理官邸で会えないか』です。結論から言うと文部科学大臣が常和台ときわだい高の古堂ふるどう校長と面談。全面謝罪し、退学の取り消しを約束したそうです!」


「えっと…それって…」

 舞美の声が震えた。その声がオレに何かを実感させた。

「呆気ないけど、完全勝利―かな?」

 浅倉さんはさっきと同じポ―ズで胸を張った。オレの視線に気付いた彼女は『めっ!』の顔をした。イタズラなタレ目な仔猫をみたいに。




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