第47話 何やってだ『パート2』
「何やってんだか……」
オレは舞美の部屋を後にした。ドアを閉めようとした背中に舞美に呼び止められた。
「あっ…あのぉ」
(えっ…誰?)
掛け布団に顔を埋もれさせながら…恥ずかしそうに目だけで何かを訴えている。おいおい…この方、あの妹さまだよな…
ちょっとヤバい、かわいさ成分が含まれてるんだが……まさか…『マイちゃん』『マイたん』以外のどなたかいるとか、ないよな……そんな疑惑を感じてしまうほどに日々別人化していく舞美。そして今まさに変化の時を迎えつつあった。
「あのね…その…前から、チョイ前からだけど…そのね、呼び方」
「呼び方? オレの?」
「うん…なんて言うかなぁ…自分で言うのも変だけど、私って――し、思春期? は、反抗期だったりしたでしょ?」
なんて答えろと? いや、ここ何日間は違うよ。それは認める、可愛いし頼りになるというか、頼りにしてる。守りたいって気持ちも自分史上最高になってるのも認める。
だがしかし、妹さま史上自らの行いを『思春期』とか『反抗期』なんて…み、認めるのか!? いや、つい最近まで言ってたよな? ちょっと何か兄として言うだろ? 注意的なやつか。
ん……そう、ご飯食べながらスマホはどうかな? みたいな? そん時、おまっなんて言った?
『はっ? 関係ないし』『ウザっ…』『ウチがスマホ見たら、お兄ぃ死ぬの? いや、シネ』などなど……
よし、ここは試そう。いや、アレだ。初心に戻ろう。最近変だわ、どう考えても。舞美のこと可愛いし、とか思っちゃったり? 帰宅後すぐに舞美の顔見に行っちゃったり?
これアレだ。きっと『吊り橋効果』だ! きっとシルさん助けて、その絡みで色んなことに巻き込まれて、動画でオレを助けようとしてくれて、壁にぶち当たったりで、そう『吊り橋』ちゃってんだ! その効果ってやっぱ切れるもんでしょ?
そうそう、だってさぁ慣れないと。ある日突然前みたいに、ゴミ見る目になるかもよ? そうそう、淡い期待は抱かないで、ここら辺で前みたく戻るべく口滑らせとくか。
口滑らせて、なんて言うか舞美をイラッとさせて前みたいに毒吐かれるのに慣れとかないと。明日朝起きていきなり『男が朝からヨ―グルトとか、キモい』って言われたら……
事実、言われてたし! 先週平気で言われてたから! 全然平気だったけど! ちょっと自信ないかな! ここ何日かの舞美を体験した後同じこと言われたら! 立ち直る自信。
なので、夢は早いうちに覚めトコ! ここらで1回毒吐かれトコ! うん! いい夢だった! 降り止まない雨がないように、覚めない夢もないんだし! よし、レッツ誘い水! 舞美がキレそうな言い回し、行ってみよ!
――とその時…
「生意気…だったと思うの」
「え?」
「いや、わかってる。お兄ぃにね、甘えてた。生意気言って…今日ね、うん。学校に乗り込ませた、浅倉さん危ないって思って。でも危ないとこにお兄ぃ行かせる私って『なに?』って……心配で泣いてて」
あ……どうしょ『2回戦』か? それとも『延長戦』か? どっちにしても、ちょっと限界。理性的に。幸いオレは舞美の部屋のドアの外。
このドアを閉めて……ここは逃げよう。ちょっとムリ。オレだってあの緊迫感ある学校から無事みんなと帰って、舞美の顔見て理性が『グッナイ』な感じなわけ。
うん、ごめん。ヘタれなんで逃げるわ。オレは舞美の部屋の扉を閉めて逃亡しよう。だって兄妹だし! リビングに人いっぱいいるし! いや、いないとよかったなぁ、とか思ってないし! な、なんせ扉閉めよう、後で生ゴミ見る目で見られても!
『パタン…』
オレは思いを振り切るように扉を閉めた。これでいいんだ、だってしつこいけど、兄妹だし…
「お兄ぃ…?」
「アレ?」
「えっと、どうしたの?」
あっ!! やっちまった…やってしまいました〜〜!! 扉閉めたのはいい、トンズラするんだから! しかし、何やってんだ、オレ! なんで、なんで、内側にいんだ!?
いや、なんで舞美の部屋の中で扉閉めたんだ、オレ? これじゃむしろ『密室性』高まっただけだろ!! バカなのか? それともアレか? くどくど言いながらも舞美の側にいたいとか?
「あのさ…」
「うん…」
「その…兄妹だからさぁ言うけど」
「うん…」
「もう限界なんだ!! いや、もうめっちゃ、緊張感マックスなんだ! 今まさにオレ」
「うんうん!」
「その、緊張感に耐えられなくて逃げようとしたわけ、わかる?」
「うんうん!」
「―でだ! 緊張しすぎてなのか…扉閉めた、まではよかったんだけど」
「うんうん!」
「なんかいるよな、オレまだ」
「うんうん! いてくれる!」
「マイちゃん!『いてくれる』とか止めてくんない!? いや、言ったよね? 兄妹だから言っちゃうけどって! 緊張してるって!」
「お、怒んないよ」
「わっ、ごめん、怒ってない、怒ってないです! ごめんなさい!」
「ホント? 怒ってない?」
「怒ってないけど、上目使い止めて!」
「あっ、でも。私怒ってる」
「えっ、なんで!?」
「だって、やっぱさっきお兄ぃヘタれて逃亡するル―トなはずだよね?」
「うん…」
「でね、私残される訳よ。ひとり」
「うん」
「でね、パタ―ンよ? パタ―ン。テンプレ的には1人残されてクッション投げつけるワケ、扉に向かって」
「あっ、それあるあるだな!」
「でしょ? そんでもって『抱ける感じのうさピョン』抱いてロ―リングするの! 私それで言うの」
「な、なんて?」
「もうぉ…お兄ぃの、バカぁ…もう、しんないんだからぁ…みたいな?」
「か、かわいいかも」
「でしょ、でしょ? もう、妹の萌シ―ン返してよ〜〜順兄ぃのバカぁ!」
「じゅ、順兄ぃ…!?」
「そ、そうよ! もうね、卒業! 反抗期みたいでしょ!『お兄ぃ』って!『あの子』なんか清楚ぶって『兄さん…』とか呼んでない?『兄さん』の後の『…』なんなの? 幸薄げにしてるよね、明らかに! だから私は『順兄ぃ』って呼ぶの! かわいい系妹担当なの! か、覚悟してよね、言っとくけど『かわいさ』当社比2倍なんだから!」
オレは思った。2倍じゃ収まらないだろうって……
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます