第46話 すべては日本国国民のために。

「お、お待ち下さい長官!! このようなご決断はせめて閣議に――国会に掛けずに……伯父上!! 総理はご存知なのですか!」



「総理? 伏見田ふしみだか…知るわけないだろ」

「では伯父上、どう責任を…」




「藍……わかっていると思うが敢えて言う。責任を取りたくないから決断をしない。これはこれで決断だと思う。だが、



「ですか!! これ程のこと、閣議に、国会に――国民に問わずに決めるのは……まるで独裁!」



「そうかも知れん。しかし日本の未来を決める場面に於いて、俺は総理から『お前に任せる』と言われここに来た。俺は全権を得ている」



「しかし、今の支持率では―」

「支持率なんて関係ない。俺は伏見田に進言する――」

「進言……ですか」




!! 打って出る!! 俺たちは何時も中友連邦の顔色を伺い、アメリカに吹っかけられてきた、俺たちは、日本は、第三の選択肢を手にする時だ! 伏見田には言ってやる『俺を官房長官なんかにするからだって』な!」




 □□□□



 官房長官の嶋津はあらかじめ準備されていた書面にサインをした。ここに国と国との約束が成った。条約の内容は――




 1つは『軍事』『防衛』『情報セキュリティ』に関するAIの提供――ブラック・ボックスでの機密保持の規約。守られなかった場合の賠償。




 2つ目は両国間で著しく関係が悪化しない限り、レアメタル『840ハチヨンマル』の安定供給及び日本で生産された立体式半導体『クロス・キュ―ブ』をラ―スロ公国に優先的に販売する密約が交わされた。




 3つ目は日本国内へ要人警護のための『対人戦闘支援AI』搭載武器の持ち込み及び携帯の許可。そしてそのAIの『世代』の制限を付けないこと。




 4つ目はラ―スロ公国主導により『軍事』『防衛』『情報セキュリティ』のAI分野に於ける人材育成協力と人材交流の促進を強力に進める。




「しかし貴殿には驚いた」



「ふっ、私もです」



「そうか、貴殿自身もか。良いのですか、秘書どの……姪御さんはその…」

「すぐに立ち直ります。いや、拗ねてると言っていいでしょう」



「貴女は――オドレイさんはよろしかったのですか、よもやここまでとは…」




「思っておらぬよ。なのでロジェ…私の騎士なのですが。狼狽うろたえないことが取り柄の男が、あれ程狼狽うろたえるとは…愉快、愉快。さて、これからですぞ、貴殿は日本を纏められよ。私はラ―スロを」




「そ、そうですよ、伯父上!! どうします、総理になんて言えば……」



あい。気にするな。ラ―スロ公国と決裂したら、したで内閣総辞職は免れん。伏見田にはどうせ同じだと言えばいい。同じなら日本の未来のために…だ」




「そうそう、嶋津どの。馬鹿な姉の戯言とお笑いください。妹のシルヴェ―ヌを助けた日本の学生が、何やら難儀しおると聞き及ぶ。妹自身は彼に騎士位ナイトになって欲しいらしいのですが、どうもそでにされたようで――」



「袖に……振られたと」



「えぇ。それはよいのです。その学生が不利益にならぬよう、気を配って頂きたい。無理のない程度に」



「不利益……」



 □□□□




『なっ!? 調!? えっと……どんな調印? えっとラ―スロ公国から、軍事AIの提供? マジ? レアメタルの安定供給を……約束してくれた!? うん。えっと……AI運用の人材育成を手伝ってくれるの? えっ!? タダ? 要人警護のAI武器の国内持ち込み許可? それくらいは、うん。いいかな、いいよ!……えっ? 内閣総辞職…したほうがいいの? そう? そうなの? わかった。そっちとの時差7時間だよな、まだ時間あるから、やれることやるね。あっ、嶋津さぁ。なんか、いつもありがとう』



「えっ?」



「言ったろ?」



「えっ? 内閣総辞職ですよ? 総理軽くないですか?」



「あっ、あんなもんかな、うん。昔から」




 官房長官嶋津は、時の総理総裁伏見田とテレビ会議を終え内閣総辞職を進言した。国民に信を問う。その事は決して変わらない。




 政治家としての決断をした嶋津。後は国民が彼らとどう歩むか、決別するかを選ぶ番だ。惨敗すれば政治生命は尽きる。それでも嶋津は清々しい気分だった。




 正式な調印は既に終えていたが、政治的なパフォ―マンスは終えていない。特にラ―スロ公国には欠かせない。




 ラ―スロ公国には緩やかではあるが王政が残っている。説明義務はどこの国よりも厳しくあるべきと王族は捉えていた。




 なのでメディアの前で改めて調印式を行うことになる。そのタイミングだけは総理の伏見田が指定した。



 □□□□



 常和台ときわだい高から戻ったオレたちをしおりと母さんが出迎えてくれた。そこには舞美の姿はなく、不審に思いキョロキョロしてると『仮病でしょ』と教えてくれた。



 そうだった。なんちゃら大臣が来ても舞美が露出しないでいいように、嘘は悪いと思いながら『調子悪い』アピ―ル中の舞美。仮病と知りつつも何か心配になる、過保護なオレ。




『コンコン…』



 ドアをノックすると僅かに返事がした。数時間振りなだけなのに…これが妹に抱く感情か? カ―テンが閉められた部屋。カ―テンのピンク色に染まっていた。




「お帰り。お兄ぃ」

「うん」



「どうした? 何かあった? 誰かケガしたの?」



「それは…大丈夫」

「じゃあ、なに? 怪我したとこ痛む?」

「うん、少しは。違う…なんていうか、仮病なんだろうけど、何か」



「心配してくれたんだ」


「そうみたい…」

「最近さぁ」

「うん」



「変だよね、なんか…意識しちゃう。私だけ、かな」


「いや、その…オレもなんか。うん」




「ヘンだよね、兄妹なのにね。なんか仮病で寝ながら――浅倉さん助けに行っもらったでしょ、お兄ぃに。自分で頼んどきながら心配で……泣いちゃったかなぁ。あのね…いまお兄ぃがその…えっと―キス嫌じゃないかも」



「うん、その…オレもなんか色々あって、そのお前の顔見たらキス逃げないかも…」



『………………』



!! お兄い。ここはお兄ぃから来るトコでしょ?『あっ、私たち兄妹だし…』とか恥じらいながらそれでも目閉じちゃう私! みたいな? 少女マンガの流れ、鉄板でしょ?」




「いや、そこはほら『私会えなくて寂しかった…』って胸に飛び込んで来いよ『オレたち兄妹だろ、こんなことしちゃ』って言いかけたオレの口をお前が強引にだな……」




「お、お兄ぃの妄想……うん、なんか…センスいいね、そっちの方も好みかなぁ」

「いや、舞美の妄想の方が劇的っていうか、胸にぐっと来るというか…」

「ホント?」

「うん、お前こそ」




「じゃあさ、じゃあさ、お兄ぃ。こんなのはどうかなぁ」

「えっ、それむしろ斬新」

「でしょ? でしょ?」




 こうしてふたりは兄妹で、キスをするシチュエ―ション・ト―クを繰り広げるものの、結局キスはしないまま、なんか幸せな気分を満喫したのだった。









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