第45話 誇りを持ち続けるが為に。

「それはどのような」

「うむ、以前より気掛かりな面があったのは事実だ。その……貴国との連携を考える上で、看過出来ない問題を貴国は抱えておられる。先程ご自身が言われたAIによる『防衛』『情報セキュリティ』問題だが実のところここに『軍事』も加わると考える。我が国として友好国日本に対しに対し協力する準備がある、どうかな?」


「その分野のAI技術と考えてよろしくのですか」

「方法は後程として、概ねそのように考えている」


 嶋津は目を丸くした。当初目的としていたレアメタル『840ハチヨンマル』の禁輸措置だけは避けたかった。数量制限を落とし所と考えていた嶋津にとっては願ってもないところではない。


『防衛』『情報セキュリティ』そして口にこそ出さなかったが『軍事』に於いて自国産のAIでは太刀打ち出来ないところまで来ていた。


 しかし『中友連邦』の素性が不確かなAIなど採用出来るわけもない。何より『中身に』何が仕組まれているかわかったもんじゃない。


 もう一方の同盟国アメリカも……『アメリカ・ファ―スト』の名の元に金儲け主義に舵を切ったままだ。これ程莫大な費用負担するくらいなら、自国開発出来る。だが『防衛』『情報セキュリティ』問題は国是こくぜと言ってよく、待ったなしだ。


 しかし、一度この分野でアメリカの介入を認めれば、この先数十年に渡り、本国よりスペックの低く抑えられたAI押しつけられる。これはこれで避けたい。


 世界が唱える『AIの世代』とラ―スロ公国の唱える『世代』は明らかに次元が違う。ラ―スロ公国が手放しかけた『第一世代』ですら世界では現役であり、主力AIなのだ。


「手始めに『第一世代初期型』なら使用を限定し無償貸与しても構わないと考えている」

「む、無償貸与!?」

 嶋津は余りのことに立ち上がり、座っていた椅子を倒してしまった。それほど衝撃的な提案だ。

「とはいえ、旧式ではあるが国家機密。ブラック・ボックスにはなる。メンテナンスも我が国で行う。こちらの費用で我が国は利益を得る、というのはどうか? 通常では考えられない安価で我が国のAIシステムを配備出来る――最初で最期の機会だ」


「最初で最期とは――ここで即答を?」

「うむ、そうなる。私もある程度の権限を与えられこの場に挑んではいる。次期国王ミカエル兄上の許可も得ている。しかし、持ち帰れば官僚どもの手直しが入る。どこの国もそうだろ? 貴殿も全権を与えられてるのだろう? それとも持ち帰り、官僚どのも顔色を見るか? 邪推にはなるが『既得権益』とでも言おうか? アメリカの耳に入れば面白くなかろう? お得意様を二束三文でのだから」


 嶋津は本能的にわかっていた。ここで決めてしまわなければ、内外の有象無象に台無しにされる。しかし、下手をすれば『売国奴』のそしりは免れまい……


 ラ―スロ公国とは永きに渡り友好的関係を築いてきた。日本の唯一の主力産業となったAI搭載可能な立体式半導体『クロス・メタル』製造に欠くことの出来ないレアメタル『840ハチヨンマル』はその実に9割以上ラ―スロ公国に依存している。

 つまり、唯一残る先進国としての足場をラ―スロ公国が守ってくれているとも言える。


 ラ―スロ公国の狙いは幾つかあるだろうが、明確な目的は『対中友連邦』連合だ。ラ―スロ公国と『軍事』『防衛』『情報セキュリティ』面でこれ以上関係を深めると『中友連邦』と真っ向対峙しかねない。


 嶋津個人としても『中友連邦』友好議員を敵に回すことにもなる。中には長老株も多くいる。内なる敵を抱えるのは中々厳しい。


 その時彼の視界に姪の大内藍が入った。幼い日より見ていた利発な姪。我が子とも思えるほどに、愛してやまない姪っ子。


 そんな姪っ子に保身した姿なんて見せられるか。今この時が、この時の為に議員生活をおくってきた。苦渋だって何度も何度も飲んだ。目的だって忘れ掛ける日だってある。


 単に総理総裁の椅子に座るが為、そう言われても仕方ない行動も取ってきた。総理の座に就きたい。


 嶋津は自問した。


 何でだ? 理由はなんだ? 偉いからか? 歴史に名を刻めるからか? 確かにそうだ。間違いない。


 でも昔からか? 今の藍の歳の時、そんな詰まらない理由で議員を目指したのか?


 違うだろ。


 違う…誰がなんと言おうと違う…力を望んだ、力を欲した。何のためだ?


 フッ…青臭い。正しいことをしたいからだ。この世界を自分の正しさで埋め尽くしたい。わかっている、正しさなんて立ち位置によって変わる。


 変わらない正しさ…この先この藍が生きる日本が、日本人が埃を持ち続ける世界が正しさでいいじゃないか。


 中友連邦の恫喝に怯えて傘下に入るのか、アメリカに搾取され続ける道を選ぶのか。


 この世界に、これから歩みだそうとする子供たちに日本はたった二択しか準備してあげることが出来ないのか、それを決めるのは、いや選べるチャンスを残すと決めるのは、決めることが出来るのは現時点で俺だけじゃないか。


「日本政府を代表し、ラ―スロ公国の申し出をお受けします。我々は常に貴国と友でありたい」


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る