第42話 有害図書!? エロくねえし!

「これって『ハグ案件』よね。頑張った私に!」


 実のところ校門で死角になる場所で小競り合いが続いていた。ちなみに今の発言は小暮さんのモノで、それを受けて浅倉さんが『ゴミを見る目』で小暮さんに対抗した。


「はいはい、ハグね。仕方ない私がしたげる、嫌だけど。斎藤君の代わりに浅倉お姉さん、犠牲になるの覚えててね〜〜!!」


「いや、こっちだって嫌よ。若い子ちゃんがいい!」

「斎藤君。この人…って君にとっては有害図書エロ本。お姉さんが代わりにボッコボコにしとくから、先帰って」

有害図書エロ本よ、助けてもらったクセして。まぁ、確かにモデル系スレンダ―女子ですから若者には刺激強めかもね」


「貧乳をスレンダ―とか。便利な世の中ね。言葉置き換えても乳デカくなんないわよ?」


「はぁ? デルモ体型! デルモよ? わかる? あと若者前で『乳』言うな、!」


「いや、今どきの若者『!』とかドヤ顔されてもわかんないし…因みに私は年の離れた姉がいるからギリわかる程度、ごめんね。言い過ぎたわ、態度がなってなかったわ、お姉さま! あと乳牛言うな! でもお姉さまに比べたらホルスタインいなめないよね?」


「は!? 誰が年上よ? って言うかアンタ『どこ中』よ? ホルスタイン否めないってなに? 否めよ、そこは!」


「『どこ中』関係ある? 今『何年生まれよ』なタイミングだよね? どうした? 私はいつだって答えれますが?」

「うぅ…」


 う―ん。どうも浅倉さんの方が少し年下のようだ。大人の年齢ってちょっとわからん。いや、この低次元の喧嘩もわからんけど……


 窮地を脱したオレはこんな比較的『どうでもいい話』がホッとして、なんていうか安心出来た。そんなオレが呑気そうに見えたのか、浅倉さんがキリッとした顔で――


「斎藤君、スマホ!!」

「え? あっ、はい」

 オレは慌ててポケットからスマホを取り出し、指紋認証して手渡した。


「どうしたんですか」

「ちょっとね…私の電話を『お気に入り』にして……さっき聞いた『なんとかっていう有害図書エロ本』のライン、ブロックしたげる」

「お―い、ちょっと待てや! っていうかアンタ『ゆうこりん』を『有害図書エロ本』に変えんなや!」


 まぁ、そんなこんなでオレたちは別れた。別れ間際にオレは小暮さんにお礼と、ひとりで無理しないで欲しいと伝えた。


「うん、ありがと。でも罪滅ぼしだから」

「罪滅ぼし? なんの」

「あのね、私。君のこと『ろくすっぽ』知らずに退学になった子だから不良クンだと思ってた。ほら警官の榊原の話聞いた後でもよ。でも、うん。安心して、コソコソ嗅ぎ回ったりとか危険なことはしない。何より今日はめっちゃ忙しくなるし――ん、じゃ、バイバイ!」


『――しかし、これが笑顔の小暮さんを見る最後になるとは、その時の知らなかった……』


!! なに勝手に変なセリフ当ててんの! !! いい? 斎藤君寝てるとことかとつらないこと! 」


!! 偶然を装ってお風呂覗くくらいよ。もちろん私半裸だけどね? もう、これだからアラサ―ゆうこりんは!」

「おまっ、今『アラサ―』ったな? あと、アンタが『ゆうこりん』言うな! 一応言っとくけど私のアラサ―基準『30歳から39歳』な? 29歳とかアラサ―ちゃうからな!!」


 小暮さんのアラサ―基準が下に厳しく、上に緩いことを確認したオレたちは我が家に凱旋することにした。凱旋と言っていいだろう、無傷でなのだ。十分だ。


 □□□□


「栞ちゃんの音声デ―タってどんなの?」


 父さんが運転するクルマに撮影クル―と乗り込み自宅に帰る途中浅倉が口を開いた。

「ん……っ」

「わかった」

「え?」

「だから、わかったって。君が口ごもるレベルの内容ってこと。言えない、言うのがツライことは言わなくていい。それくらい、お姉さんなんだからわかる。それに――」

「それに?」


「身を持って知ったから、さっきね」

「謝るの、変だとは思いますが―」

「じゃあ、謝んないで。そういうのって、積み重ねたら『』出来ちゃうものよ? まぁ、それでも言いたいなら『』かな」


「ハ―ドル高いですね『アイシテル』ですか、言ったことないです、だけど『アイシテル』ます」


「え〜〜? 撮影クル―かぁ……でも、うん。それはそれでウレシイ。いや、今日のはむしろそっちの方かな?」

 浅倉さんは撮影クル―の皆さんと拳を合わせ、健闘を称えた。すると撮影担当の男性がニンマリして言った。


「浅倉ちゃん、作戦成功だな?」

「そうね、百点よ、百点!」

「そっちって何なんですか?」

「あぁ…実は浅倉ちゃんと相談して…あるをね」

「仕掛け…ですか?」

「誘い水みたいな? いや、私ら粋がって退職したものの、フリ―になるにも機材的なもんがいまいちでさぁ」


「あっ、待ってください。嫌な予感しかしません……」

「そう? アレよ? サッカ―とかで大袈裟に痛がるのと変わんないわよ、ちょっと大袈裟に、ちょっと旧式で、ちょっと最新式のカメラ欲しくて、ちょっとド派手にカメラ床に叩きつけただけよね?」

「そうそう、最新式のカメラ軽いから〜楽しみだなぁ〜」


「あぁ…流石、浅倉さんのクル―ですね、たのもしい…」

「そう?『受領ずりょうたおるる所に土をつかめ』って言うじゃない?」


「ここまでの『土』の話じゃないと思いますが……それ『土』じゃなくて『砂金』クラスです」


 そんなオレの言葉なんて聞かずに、クル―3人は新しいカメラをネットで物色し始めた。頼もしいやらなんやら…



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