第40話 突貫します!!

、関係者以外立ち入り禁止ですよ。斎藤くん――不法侵入。そう考えていいと私は思うのですが』


 オレたちに傾きかけた流れを、そのセリフと共に仕切り直しまで持っていったのは、初老の男性――河副かわぞえ事務長だった。想像していたより堂々とした態度。しかも周りが、状況がよく見えているようだ。


 他にも方法があったかも知れない。考えなしに突っ走った訳でもない。今ここで浅倉さんを庇えなければ、守れなければ何のために存在しているか、自信が持てない。存在理由――大袈裟かもだけど、自分のために行動してくれる――浅倉さんと撮影クル―の皆さんだけ窮地に立たせてどうする。オレには…この行動を後悔する理由なんて見当たらない。


 自然な形で浅倉さんと並んだ。

(どうすんの? 突っ込んだら目も当てられない)

(すみません)

(ふふふっ、でもね。なんだよ。死なば諸共ってね。幸い相手も出揃ってるし――)


 強がって見せはしているが、浅倉さんの声が少しだけ震えている。絶対的不利――そんな状況は正義の味方だけにしてくれ。


 □□□□

 うっ!? 何なの…この状況…なんで、なんで校長に取材に来た記者さんのカメラ――ぶち壊してんの!? サッカ―部の成宮監督と……一年の担任―林田先生!? ふ、普通じゃない!!


 なんで私こんな劇的な場面に遭遇した!? 私ただの事務員さんだから! いや、ちょっとイケてると男子学生から評判の『お嫁さんにしたい事務員さん』ランキングトップの私ですが!

 因みに女性で独身わたしだけだけど!


 申し遅れました私は―小暮こぐれ優子ゆうこ――自他ともに認める『ゆうこりん』ですが!


 これ…どんだけ控え目に見ても終わりだろ? 報道の自由ぶち壊してるしょ! わ、私が欲しいのは安定した職業ですから! このままじゃ、マジで失業待ったなし…


 、榊原の言ったとおりか?『なんか…変だ』カッコつけて言ってたよ! いや『なんか』じゃねえよ!『』も変だよ!!


 もしかして……退学になった子…ホントにはめられたの?


 でもしかし! 無理無理無理無理無理!! 私博愛主義だから! 暴力反対だから! ラブアンドピ―スな人だから!! 


 何より…ヘタレなんだよ…人の高価そうなカメラ平気で、ぶっ壊す現場に口はさめない……ごめん、見て見ぬ振りしかない――そんな目を背け掛けた私の隣を、一筋のキラキラした風がすり抜けた。


 男子生徒……包帯姿…まさか――


 私は人生で初めてかもの『固唾を呑んだ』こんな暴力的な現場に自分から……って待って。


 待って、待って。言ってたへっぽこ警官榊原……『相手が3人でも助けに入った』って。どんだけ根性あんの? マジかよ……


 しかも現れるなりに言い放った。


「さっき『ギリギリアウト』って言ってましたね。オレの目にはギリセ―フに見えますが」

 なに、この子天然でカッケ〜んですけど、おいおいケイセイ逆転だろう、頑張れ男子! 私はヘタレで影から見守るわ!


 あっ……安心したのも束の間。アカンわ……ダメだ。包帯男子、残念だけど詰んだ。親玉現れたよ!! 事務長! やっぱアンタ悪いヤツなんだ。


 やっぱりあの噂――『色白、黒毛のロングヘア女子』に見境ないのマジなんだ……あっ、でもゴメン包帯くん。事務長と言えば私の直の上司、尚更無理だ。

、関係者以外立ち入り禁止ですよ。斎藤くん――不法侵入。そう考えていいと私は思うのですが』


 い・ん・け・んだぁ〜〜!! 


 想像ついてたよ! ついてたけど! ココまでかよ! ココまで陰険かよ! 私ったら女子だけどチビるよ、たぶん。


『不法侵入』だ? いやいや、待て待て親方。その前にアンタの足元に転がるカメラ見ろや!『器物破損』だろ? それは無視な感じな! 清々しいくらい噂通りだわ!


 ん?『不法侵入』確かに退学したんだから『不法侵入』かもだけど、正当な理由だとしたら? いや、待て。ここで警察呼ばれたら確かに『不法侵入』かもだ……


 見たよ、見ました。包帯くんの妹の動画……胸熱だよ、なんて兄妹だよ。羨ましいよ。


 でも、今ここで警察呼ばれたらアウチだよ? 今まで妹さん頑張った苦労、水の泡だよ? なんで? わかりきってるじゃないの、バカなの?


 違う…バカなの私だ。包帯くん承知の助なんだ。リスクなんてクソ喰らえなんだ。そこまでしてあの記者さん御一行助けに来たんだ……


 関係ないけど! 聞いて! 私中高通して女子バスケのキャプテンだったの! 普通のチ―ムよ、強豪でも弱小でもない『ベスト16』行ったり来たり。


 ボロ負けだって何回も経験した。全国の常連校なんて、ハッキリ言ってバケモンよ。でも、言ったよね。ずっと、私―『声出せ』って、俯くな、負けてる試合こそ、声出さなきゃ。


 今、その時じゃね?


 部活で出来て、社会に出たら出来ないとか……あの時の頑張り全部…この時のためじゃね?


 ここは私じゃね? この究極、今世紀最大級のピンチ救えるヒロイン私じゃね? エンドロ―ルで抱き合うふたり――あっ、見えた。私だ……


 来てます! 来てます! 来まくりまくってます!!


 やってやんよ! 怖えけど! ままよ! すーはー…すーはー…よし!


!』






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