第28話 純情スト―カ―の恋物語。

「この白のボトル。斎藤君のシャンプ―だよね」

「白のボトル……あっ、そうだけど。なんでわかる?」

「ん? ! 何か上がる!」

「そ、そうなんだ」


 おかしい。確か三崎さんひとりになるのが怖いから脱衣室にオレがいる訳で、その為にオレは舞美に舌打ちまでされたはず。


 だが実際フタを開けたらのは、…オレは若干逃げた方がいいんじゃないかと、その方が身のためだと思い掛けたその時、三崎さんの遠慮がちな声で言われた。


「斎藤君、疑って――ないの?」

 三崎さんがスト―カ―であることは疑いようのない事実だ。しかし、そんなことを今聞くわけがない。そうなると何を疑うのかと言えば――


「なんか、って思わないの?」

「それは……うん。思ってない」


 少しの沈黙の後『ガラッ』と浴室の扉が開いた。オレの心臓はどうにかなりそうなくらい高鳴った。幸い三崎さんは顔を出しただけで、出てこようとはしない。


 よかったブラにホンの少し触れたのはバレてない……


「なんでないって思えるの…私のこと知らないよね? イメ―ジとか噂なんてあてになんないよ」

「三崎さんってスト―カ―でしょ」

「ん…そうだけど、キモい?」


「スト―カ―ってある意味、一途だからなるのかなぁって。一途な子だから信用したんだけど…あっ、別にけど!」


「あっ、そう? あ…ありがと。あのね…実はギリギリだったんだ。斎藤君に疑われたくないから……我慢しなきゃなのかなってなってて。くれるならって……でも、どっかで信じたかった。斎藤君を好きな自分を。直接謝ってダメだってら……よね、になった。偉いと思わない?」


「思う。偉い、三崎さんは」

「でしょ? 私意外と強いの。考えてみたらさっきからコクりまくりじゃない? 好きだ、好きだって。でもこの勇気は斎藤君がくれたんです」


「オレが?」

「そう、バス停でに立ち向かったり。妹さん――舞美ちゃんだって、あんなに、ふたり共なんか『めっちゃ、かっけ―』く見えて。私も負けてらんないになって……私、陰湿なコトなら誰にも引けを取らないはず!」

「三崎さん、ちょいちょい自虐的だな」

「恋するスト―カ―ですし?」

「でもいいの? こっちに付いたとなったら常和台ときわだい高。最悪居れないかも」

「いい。だって私スト―カ―だよ? スト―キング対象がいない高校なんて、つまんない! だから付いてく君にどこまでも」


 三崎さんは笑った。こんな声で話すのも、こんな開けっぴろげで自虐ト―クするのも見たことない、出会ったことない三崎さんだ。


 とりあえず、ウチに来てすぐ土下座してた時の三崎さんはもういない。オレは脱衣所の外できっとジト目をしながら待っている舞美のところに戻ることにした。


 □□□□

「シンプルに行こうか」

 浅倉さんは意見が出尽くしたところで、まとめた。下手に凝ったことして玄人感出すより、あくまでもアマチュア色の方がいいと見ていた。


「下手に分析とか考察なんか入れたら臭っちゃうだよね、。私も含めて敏感なのよ、そういう変化。心情に訴えるなら。そこ、気を付けないとね」


 その点において異論はなかった。実際のところ朝の情報番組などで手を替え品を変えやってくれるだろう。オレたちがしないとなのは、オレたちしか知りえない情報を提供すること。そうすることでメディアは考察や分析をしてくれる。


 話題提供。言葉にすると安っぽく、計算高い。しかし、きれいごとを言ってる場合じゃない。だけど、何でもかんでも情報発信すればいいわけではない。下手な情報を出せば足をすくわれる材料を提供するようなものだ。


 関心事がなにで、何を知りたがってるかだ。


「私ですね」

 来た時より数段顔色がよくなった三崎さんが、すぅ、と手を上げた。元々整った顔が決意と共に凛とした。


「私も三崎さんだと思います」

 舞美も同意した。浅倉さんは何回か頷き、ジェシカさんは無反応だ。オレたちに決めさせようとしているのだ。オレは考えをまとめるべく、舞美に質問をする。

「なんでそう思う?」


「なんで、か……そうねぇ。学校側が出してる情報は大きくふたつ。ひとつは『加工したバス停の動画』もうひとつは『警察署に入る時の写真』元はうちら家族が写ってたのが、お兄ぃひとり警官に連行されてる『絵』になってる。そこに付きまとうのが『』三崎さんなんだけど、学校はプライバシ―保護のため、それ以上は言えないって一点張り。筋は通るよね、ある意味」


「私が動画に出て、私が渡した動画が加工されてるって言えばどうですか? 写真も。私が『』ですって。伝わりませんか、その……反響あると思います!」


 三崎さんは力強く、熱く語る。さっき脱衣所で聞いた通り『私も負けてらんない』精神だ。だけどこのやり方には危険が伴う。


「ジュンイチさん。気付いたマスか?」

 シルさんは変わらない明るい表情でオレを覗き込む『ひょい』と言わんばかりに。

「気付いてるし、それは三崎さんもだと思う。このやり方にはリスクがある。そしてそれは事務長か校長かわからないけど、罠だ」

「そうですね、罠デスね。具体的にはどんな罠デス?」


 オレはちらりと三崎さんを見た、どこかで三崎さんは罠さえも『承知の内』そんな表情をしている。

「オレたちが三崎さんの証言を、前面に出して反転攻勢に出た瞬間。学校が出してる動画、写真が加工したものでオリジナル版を示した瞬間に発表するはず『我々は女生徒に騙された、渡されたのは加工済みの物だった』と。学校は三崎さんに罪をなすりつける気です。三崎さんの顔出し動画は、あまりにリスクが高い」


 何となく感じていた事だが、改めて言葉にすると重みが増す。リビングの空気はどうしようもなく重い。それぞれの胸にあるのは恐らく同じ――に危険な思いはさせたくない。


 この沈黙を破るものなど、現れないだろう。正直オレはそう思ったが違った。それは突然に、高らかに、騒がしく舞い降りた。


!! 私の決心見せつけてやります!! その暁にはやんよ! だって斎藤君のこと、大好きだから!」


 高笑いと共に宣言したのは三崎さんだった。彼女はとんでもない『男前』だった。覚悟を決めた三崎さんを阻むものなどない、そう感じさせたはずだが、意外に近くにいた。


「盛り上がってるとこ、アレなんだけど……」

 母さんはテレビを指さした。そこにはヤンデレ系妹マイたんの『仕組み』がさく裂の時を待っていた。流石、我が軍師だ。しかし、その方向性は望んていたのとは違っていた。






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