第27話 私ってなまじスト―カ―だから…

「ジェシカさん、待って――その…この件は、民間人の前で話しちゃダメなことでは」

「あ……」

 ジェシカさんは慌てて口を塞いだが、聞きたくて聞いた訳じゃない面々に気まずい空気が流れる。


「ぷぷぷっ、ジェシカ怒られマシタ! 口は禍の元デス! わぉ…ジェシカ暴力反対デス! 自分が悪いの私のせいにシナイ!!」


 オレは『民間人』と言ったが実際は『浅倉さん』を指していた。ラ―スロ公国からすれば彼女は他国の報道関係なのだ。浅倉さんをチラ見すると運悪く目があった。


「斎藤君、!! !! 君ったら今気にしたんでしょ? 。その感覚素晴らしいわぁ! 教えられて付くもんじゃない。因みに私たち『スリ―チャンネル』退社したの、何でかわかる?」


「――ラ―スロ公国と契約した、とかですか?」


「おっと…想像以上だなぁ、こりゃ。あのね、斎藤君。? ちょっとのことじゃ怒んないし、包容力抜群! おイタだってそこそこ許しちゃうし…まぁ、考えてみて! それはさて置き――情報にも色々あるじゃない? ネット上だけじゃないでしょ? デマも多い。足で集めないと無理なのもあったりで。表向きはフリ―のジャ―ナリスト。しかしてその実態は――シルヴェ―ヌ殿下のメディア担当。ここだけの話よ? バレたらお姉さん怒られちゃう!」


「浅倉さん。その…そのネタについても、そこそこ民間人いるここじゃ、マズくないですか?」

!! なので今の事は忘れて! あっ、でもとだけは覚えること!」


 んっと、どうなんだろ……それこそ、いらない情報な気がする。オレはジェシカさん待ちになってる『タスクフォ―ス』から三崎さんを借り、少し話をすることにした。……を要求されたってことだろ。オレに出来るかわからないが、精神的なケアが必要なはず。


 彼女にとって、今は立ち止まる時かも知れない。

『全面戦争』を切り出したのはオレだけど。オレは先に舞美に声を掛けた。

「どうしたの」

「あ…三崎さんに……なんていうか」

「そ、だね、うん。そんなこと大人に言われたらキツイよね」

「うん…聞くの同性じゃない方がいいような気もして」


 オレに確信がある訳ではない。だから自信なんてない。逆に同性が話を聞く方がいいかも知れない。でも何となく、オレは等身大の同世代の異性の方がいいような気がした。しつこいが確信はない。


 オレは三崎さんに声を掛け、制服のままだとなんなので着替えたらと提案した。三崎さんのご両親が先ほど、ボストンバックふたつに詰め込んだ着替えを持ってきてくれた。中身はわからないが部屋着みたいなのがあるだろ。制服はなんやかんやで疲れるだろうし。


「舞美の部屋で着替えたらいい。アイツの部屋、カギあるし」

「あ……ありがと。その…」

「どうした?」

「あの、私しばらくお泊りかなって」

「そうなるかな。ここだとほら、手出し出来ないし」

「あ……じゃあ。厚かましいかな。お風呂借りていい? 着替える前に汗流したい」


「あっ、ごめん。そこだから使って。シャンプ―やらボディ―ソープ。母さんのやら舞美のあるから使っていいよ」

 風呂場に案内して立ち去ろうとして気付いた。三崎さんの指先がオレのシャツの裾を握っていた。


「えっと、どうしたの?」

「その…怖くて。。脱衣所」

「え……っ?」

 情けないことに、オレの脳裏に浮かんだのは舞美の蔑んだ顔だった。


「ちょ、待ってて。すぐ戻るから」

 オレは小走りで舞美に状況の説明をし、軽く舌打ちされたが許可が出た。いや、なんで舞美に許可を取ってんだ? そう思うが後々のことを考えると生命維持のため、欠かせない行動だ。


 さすがに『覗くなよ』とか『脱ぎたてパンツ触るな』と釘は刺されなかった。家の中には父さんも母さんにいるわけだ。いくら思春期男子とはいえ……しないと思う。滅多なことは、たぶん。


 □□□□

 脱衣室でオレはシャワ―の音を聞きながら体育座りしてる。オレは三崎さんのことをほとんど知らない。なので、三崎さんに悪意(からかう的な)があるのか、はたまた天然由来成分でわからない。


 ただ、はっきり言えるのは、三崎さんが怖いからいて欲しいと言った我が家の脱衣室には、風呂上り着るであろう部屋着の上にパンツとブラがきちんと並べられていて……几帳面と言えば几帳面なんだが。思春期男子への配慮を著しく欠いた行為ではある。仮にブラのとしても、オレが悪い訳じゃない。そう、社会が、政治が、時代が悪いのだ……はいはい、触りませんよ。


 シャワ―に打たれる音の隙間から三崎さんの声がする。

「斎藤君、いるよね?」

「うん、大丈夫。いる」

「そう、よかった。最近はお母さんに頼んでて。私って…スト―カ―心理がわかるっていうか…このタイミングは盗撮だろ? とか。変だよねふふっ……」


 三崎さんには悪いが、確かに変だ。こんな娘だっけ? 自分がスト―カ―だとカミングアウトしてからの三崎さんの『スト―カ―あるある』が、一般的じゃないです! 共感しずらいし笑えない。でも、まぁ…三崎さんが笑ってるってことは少しはリラックスできてるのかも。


 ひと安心仕掛けたオレに三崎さんの声。

「このブル―のボトルのボディ―ソ―プってもしかして、斎藤君の?」

「そうだけど」

「使っていいかな」


「いいけど、メンズだから乾燥しない? ピンクのボトル、舞美のだから」

「ヤバい……これ、。私、斎藤君の匂いになってく……」


(三崎さん……ごめん『』は完全にオレのセリフだ…)

 オレはひょんなことからスト―カ―を我が家に招き入れてしまった。






 



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