第24話 それ『あの子』の担当!!

『コンコンコン…』

「ん?」


 斎藤兄妹の父――通称『ヒゲ親父』最近口数が少なくなっていた、子供たちの起死回生の一撃に歓喜しないわけもなく、夫婦して仕事を早々に引き上げ祝勝会開いた。


 祝勝会とは気の早い話のように聞こえるが、斎藤夫婦にとって子供たちの笑顔だけで勝利なのだ。


 実際のところ、退学問題は何ひとつ進展していない。進展はしていないが、息子順一の転校による受け入れを打診してくる私学が数校現れた。


(まぁ、、学校のいい宣伝にはなるだろうがなぁ……)


 家族には心優しいヒゲ親父だが、名乗りを上げた私学の思惑が親切一辺倒な訳がない事くらい理解していた。何にしても今日の彼は、気持ちよくビ―ルを飲み、みんなでスキヤキを楽しめればそれでよかった。


 そんな彼がトイレに行った帰り、ドアを控えめにノックする音が聞こえた。斎藤家の電話とインタ―ホンの電源はとっくの昔に切られていた。ドアには『通報します♡』と彼の妻による報道関係への忠告の張り紙。それを掻い潜ってまでのノックとなると……


(知り合いか…)

 斎藤家の大黒柱。通称ヒゲ親父の目の前には、サラサラの黒髪女子が目元を腫らして現れた。


「――私…三崎と申します。その…斎藤くんと同じ高校の―」

 思い詰めた表情の女子。心優しいヒゲ親父は大声で順一を呼んだ。


 □□□□

「え…っと、……あの、どうしたの? 大丈夫?」


 オレは父さんの叫び声にも似た声に、我が家の玄関に。するとそこには見覚えのある制服に身を包んだ、見覚えのある女子――三崎さんがいた。


 見覚えはある。同じ中学で高校も同じ。中学時代から男子に人気の三崎さん。見覚えはあるが、話したことは、ほとんどなかった。その三崎さんが俯きながら現れた理由に『ぴ―ん』とこないわけもない。


『マイたん』が眠りにつく前に言い残した『手紙から犯人探しは下策』そう舞美が回収してまわった手紙の束に三崎さんの名前があった。マイたんが手紙からの犯人探しを禁じた、ということは目の前の三崎さんは、今回の退学に関して無関係。


 もとより責める気なんてないけど、こんな顔のまま、家に帰すわけにはいかない。


「三崎さん、上がって」

 三崎さんをリビングに招き入れると同時に、オレは舞美を自分の部屋に呼んだ。


「ごめん。あの人、三崎さんだよね?」


「マイちゃん知ってるの?」

「お兄ぃの周りでもっとも警戒してた女子だから。そのカワイイし…清楚?」


「警戒……」

「三崎さんからの手紙…最近まで知らなかったよね……私隠したから。ごめんなさい」

「謝って欲しいわけじゃないけど…どうしょうかと」

 何回かクラスが一緒だった。だから名前は知っている。話したことはあるんだろうけど、内容は覚えてない。少なくとも高校で話したことはない。


言ってたよね、手紙の束に犯人はいないって」

「うん。手紙から探すと間違えるって」

「じゃあ、三崎さんは」


「学校にじゃない。それに―」

「それに?」

「そういうことする子じゃない、あんまり知らないけど――優しい子だってよく聞く」


「お兄ぃ、どうしょ、ってめっちゃドスの利い声でんですけど…」

『代われ』ってことは『マイたん』だよな、このタイミングで何だろ。犯人探しに関係あることだろうか? 


 でも、実際のところオレ自身『犯人探し』の興味は最初からあまりない。下手に犯人を突き止めれば、追い込むことになる。後味の悪い結果だけは勘弁してほしい。


「普段は言わないのか、その代われって」

? 口癖のように言うわ、鼻歌交りで。でも今回は…だから代わるから! わ、私じゃない時にしないでよね! お兄ぃ!」


 ん…『妹さま』一応言っておく。心の中だけど。しません! するわけないだろ!? あのね、ウチ子連れ再婚同士でもなければ、生まれた時に病院で取り違えたとかでもない! ガチのマジで血が繋がってるの! 変なことってなに? それ釘を刺さないと信用ないの? ったく、もう…


「わ―ってます! しませんって! はいはい、代わってください。はい『マイたん』


「うわっ、なに? 雑すぎない? せっかく………」

 そう言い残して舞美はストンと尻もちをついた。まるで寝落ちしたかのように『ぐらん』となると、すぐに目を開けた。


 あきらかに『マイちゃん』と違う舞美がそこにいた。ヤンデレ系妹『マイたん』は中2とは思えない妖艶な視線でオレを見た。


(あっ、ごめん。マイちゃん……お前の忠告正しいわ…、妹の視線じゃないわ…)


[お久しぶり。。呼び方教えた割に呼んでくれないものね? 『あの子』に遠慮してるのかしら? だったら、いいこと教えたげる」


[い、いいこと?]


「そうよ、いいこと。あの子は私にけど、。だから……あっ、痛って! なに? デコピン!? 私そういうのされる、んですけど?」


「隠し事が出来ようが、出来まいが、お前はオレの妹な! 兄貴からかうならもっと子供ぽくっな!」


「はいはい、そういうことにしときま……ふ!? 何、兄さん! ほっぺた引っ張んないで!! そういうの『あの子』担当だから〜〜痛ふい」

 オレは強引な手段で軌道修正した。いくら妹とわかってても、あんな妖艶な目で見られたら身が持たない。


「それより、本題はなんだ? 用事があって入れ替わったんだろ?」

 するとマイたんは目をそらし少し俯いた。黙っててもしょうがないと思ったのか、渋々口を開いた。


「あの三崎って子だけは、私なの」

「えっ?」

「だから! は私が隠したの手紙。だから謝るのは私だし…『』記憶がごっちゃになってて、自分がしたって思ってるけど」

 オレは正直驚いた『マイたん』が、そんなヤキモチ的な行動に出るなんて考えもしてなかった。


 記憶がごっちゃになる……でも『マイたん』は隠し事できるって言ってたよなぁ…じゃあ、三崎さんのことなんで隠さない? 意味わからん。









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