第23話 そして日常へ。

 総理官邸。

 沈黙を保っていたラ―スロ公国。しかし、ここに来て通告なしに国営放送より発信された『皇女殿下襲撃事件』の記者会見が総理官邸を震え上がらせた。


 ラ―スロ公国は、次世代AI産業の覇権を左右するであろうレアメタル通称『840ハチヨンマル』世界最大の埋蔵量を誇る『資源大国』だ。


 立体式半導体『クロス・キュ―ブ』――AIの高度な処理を高速かつ、省力、小型を実現するために、本来平面設計の半導体を立体式化することにより可能となる技術。しかし、半導体の立体化にはレアメタル『840ハチヨンマル』が不可欠。


 敢えて言うなら中国を中心とする、中友連邦ちゅうゆうれんぽうが完全に世界の覇権を握り切れないのは、この分野で遅れを取っているためである。


 ――とは言え中友連邦ちゅうゆうれんぽうには、立体式半導体『クロス・キュ―ブ』を製造する技術が十分にあり、原材料となる『840ハチヨンマル』が潤沢に供給されさえすれば、世界のパワ―バランスは中友連邦ちゅうゆうれんぽうに完全に傾く。


 現状『840ハチヨンマル』に代わる代替品を模索してはいるが、思うような結果が得られてない状態だ。


 逆に日本がギリギリ先進国の仲間で居られるのは、親日国であるラ―スロ公国から輸出される潤沢な『840ハチヨンマル』の存在だ。立体式半導体『クロス・キュ―ブ』での存在感を失えば、唯一残された主要産業ですら中友連邦ちゅうゆうれんぽうに取り残されるのは目に見えている。


 しかしながら、立体式半導体『クロス・キュ―ブ』の製造では他国を数歩リ―ドする日本だったが、残念ながらAI技術では相当な遅れを取っており、その為今回の『モザイク・ミスト』解析作業が進まなかった。


 つまり高度な立体式半導体『クロス・キュ―ブ』を生産所持出来ても、搭載されるAIのスペックがいまいちなら、結果は推して知るべしなのだ。


 それはさておき、総理官邸はハチの巣をつついた状態に陥っていた。

 レアメタル『840ハチヨンマル』絡みで経団連からの突き上げ、斎藤兄妹による『不当退学問題』動画が私学で行われておる『教育の私物化』問題に火を着けた。


 明日の早朝政府専用機で、官房長官をラ―スロ公国へ飛ばし、文部科学大臣を斎藤順一が通っていた私立常和台ときわだい高等学校へ急行させ、沈静化を計る手筈だ。


 そして時の総理総裁伏見田ふしみだは時の人となった『斎藤兄妹』を取り込み『シルヴェ―ヌ皇女襲撃事件』『不当退学問題』で急落した支持率のV字回復を目論んでいたが――

「総理、先程から斎藤家に連絡を取っているのですが……」


「そうか……引き続き斎藤兄妹と連絡を取ってくれ。必要なら足を運んででも『』に引き込みたい。連絡がつき次第、明日早朝にでも兄妹と会う手配をねじ込め。報道関係の根回ししてくれ。それで午後からの野党突き上げをかわせる」


 時の総理総裁伏見田ふしみだのプランはこうだ。

(たかが中高生の兄妹、苦労話のひとつ、ふたつ聞いてやって頭でも撫でてやればこっちのものだ。この兄妹を押さえれば『ラ―スロ公国』も強くは出られんだろう……お気に入りのようだしな)


 しかしながら、時の総理総裁伏見田ふしみだのプランは出鼻をくじかれる。なぜなら斎藤家の電話はとっく昔に電源を切られていたのだ。そして自宅に戻った斎藤兄妹を待っていたのは――まさかの予想外の事態だった。


「わぉ……これがウワサに聞く『』デスか!?」

 斎藤家はスキヤキ・パ―ティ―真っただ中だった!!


 □□□□


「お兄ぃ――どうしよ。お肉おいしい。動画視聴爆上げ! あっ、コメント返さなきゃ……」

「マイちゃん、食べるか、しゃべるか、動画見るか、コメント返すか、絞ったら? ほら、またごはんこぼして……」


「わぉ……ジュンイチさん、舞美ちゃんにめっちゃ優しいデス! ジェラシ―です! 私も負けずにシマス!」


「うわっ! なに!? ふたりして顔拭かないで!! いや、そこまでごはんこぼしてないからね、私!! ん!!! お兄ぃ!! おまっ、なんで拭いた!? かわいい妹の、愛して止まないはずの妹の顔、今なにで拭いた!? 言ってみ?」


「なにって……そこにあった?」


「ハンドタオルちゃうわ!! 完全におふきんだ!! しかも、さっき陽気なヒゲ親父がビ―ルこぼして、国産麦芽たっぷり吸ったまごうことないない、!!」


「わぉ…ジュンイチさん! ダメですよ? たばことお酒は二十歳からデス!!」

「シルちゃん!? 一国のお姫さまに大変申し訳ないですが、ここは敢えて言う!! 、その手に持ってるモンで『』な私の顔拭いたよね!? しかも口元を中心に!!」


「わぉ…どうしましょ…ジュンイチさん。ブラコンの舞美ちゃんが私の義理の妹になってくれるナンて…」


「いや、。日本じゃ割かし目にするレベルだからね? だよね? お兄ぃ? たまにお布団に潜りこむなんて普通だよね? 流石にお風呂ははいんないよ? お兄ぃがお風呂入ってるとき、お兄ぃが『のぼせるくらい』脱衣所うろつくぐらいで」


「斎藤政策担当次官候補見習い」

「はい、ジェシカさん……その…行き過ぎですか?」

 するとジェシカさんは軽く咳ばらいし、舞美ににじり寄る。まさかの鉄拳制裁か!?


「斎藤政策担当次官候補見習い! 共に!!」

 呆気にとられるオレにシルさんは解説を担当してくれた。


「ジェシカは生粋のブラコンです! 執務室にはお兄さんの写真で溢れてマス!」

 そう教えてくれるのはいいが、シルさんの手に握られてる丸っこい布――確か今しがた舞美の口元を拭いたはずの布地。


 オレの記憶が正しいなら……父さんが一日家族のために労働に勤しんでくれた時に履いてた靴下のはず……そしてさっき舞美の口元を…!? 


 舞美はがその事実に気付くのに1分の時間を要した。














  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る