第22話 息をするようにウソをつく。(おまけあり)

 ジェシカさんの配慮でシルさんはじめオレたち兄妹は会見場を後にした。


 正確にはシルさんを守るためだった。実のところ先程まで行われた記者会見は、比較的表向きのものだったのだ。


 つまりは政治色を極力含まない内容に終始した。シルさんは王族である以上、政治に無関心では居られない。しかし、未成年であり政治の表舞台にまだ立っていないシルさんは、まだ象徴的存在なのだ。


 言い換えるなら、この先――オレたちが退出した会見はある意味『正式な会見』になる。つまりラ―スロ公国が日本政府に対して遺憾の意を表明することになる。


 別室に移動したオレたちを待っていたのは、モニタ―越しに見る別人のようなジェシカさんの今回の事件の経緯の説明だった。


 美談で覆い隠す方向性には変わりないものの、ラ―スロ公国が日本政府のないわけではない。ジェシカさんの静かな怒りは、別室のモニター越しにも伝わってくる。何に対しての怒りか……


 事件に対しての怒りはもちろんある。しかしながら、シルさんに対しの警備が甘かった点においては、ラ―スロ公国側にも反省の余地はある。


 問題は事後対応だ。

 日本政府はあくまでも『一般人による暴力行為』で乗り切ろうとした。しかし、認識が甘かった。ラ―スロ公国は北欧の小国である。小国である以上、小国を維持するために並々ならぬ努力を重ねていた。その1つが諜報活動である。


 日本政府がラ―スロ公国に提供した情報の量や質において、ラ―スロ公国が独自に得ていた情報が圧倒していたのだ。


 ジェシカさんは言葉には出さなかったが、日本政府が情報開示に対して消極的だったのか、情報自体持ってなかったのかという疑念。ラ―スロ公国側にすれば、そのどちらか、もしくは両方だとしても問題だらけだ。


 今後の事を考える上で、情報を共有しない、持たない故に出来ないでは国と国との関係において重大な問題なのだ。


 ラ―スロ公国の根幹――それは高速AI『立体式半導体クロスキュ―ブ』製造において不可欠なレアメタル『840ハチヨンマル』の豊富な埋蔵と、クロス・キュ―ブの製造技術。そして小国を維持するためAI技術の積極的な軍事転用。


 今回ラ―スロ公国が知り得た情報の解析結果の公開に踏み切ったのは、情報版の『威力偵察』と言ってもいい。つまり自国の解析力を誇示したのだ。


 その1つが『モザイク・ミスト』の解析技術。オレにとっては、はっきり言ってちんぷんかんぷんだ。それは舞美も同じ。そんなオレたちにシルさんは説明をしてくれた。


「モザイク・ミストとは、そうデスネ……その技術を使うことにより、映像の記録が出来ないようにナリマス。正確に言いますとその技術を使いますと、その人はミストに包まれマス。モザイクのようなミストで人物の特定が困難デス」


 つまりは防犯カメラの無力化か…いや、特定される心配が大幅に減るということは犯罪行為を堂々と行えることになる。この場合の犯罪行為とは『政治絡み』のものだ。しかも、顔が割れないなら長期間の潜入任務もリスクも減る。


 今回、日本政府の正式発表が遅れたのは『モザイク・ミスト』の解析につまずいたせいかも知れない。この分野では確実に後進国なのだ。


 今回のシルさん拉致未遂も、記録の痕跡が残らないことをいいことに、街中で強行されたわけか……そんな浅い納得に対してシルさんは更に、その先の技術の説明をしてくれた。


「モザイク・ミストは軍事技術デス…なので解析されないようにしないとダメです。解析されないようにするためにがアリます」


「逆にわかる?」

「はい。モザイク・ミストは各国によりパタ―ンがあります。ですので解析すれば簡単にかわかりマス」


「つまりはどこの国が、仕掛けてきたかわかるってことですか?」

「そうなります。まぁ…解析するまでもなく『中友ちゅうゆう連邦』なのですが…」


 ん? 待てよ。それを解析した結果を公表してしまえば、ラ―スロ公国は『中友連邦』を公然と敵に回してしまわないか? しかしオレの心配など必要なかった。ジェシカさんは堂々した嘘を言って退けた。


『今回我々が入手した映像には、モザイク・ミストと呼ばれる、軍事技術による映像のジャミングが確認されました。モザイク・ミストは各国によりパタ―ンがあり、今回のパタ―ンは。つまりは、極めて悪質な行為。我が国と中友連邦ちゅうゆうれんぽうの仲を裂く離間に他ならない。我が国は激しく抗議し、解析結果の公表に乗り出します』


 つまりは、ジェシカさんは『パタ―ン』が中友連邦の物に似ていると指摘することにより、中友連邦に釘を刺し、且つ中友連邦がするであろう『言い訳』を先に持ち出し、危険な摩擦を避けた。表向き『中友連邦』をが『中友連邦』の『モザイク・ミスト』など我々に掛かればと誇示したのだ。


 それと同時に同じ手は通用しない、あるじには手を出させないと宣言したのだ。中友連邦にしてみれば、仮にシルさんに何らかの強襲を掛けるにしても、同様に失敗をすれば『合わせ技一本』になりかねないほどの痛手だ。


 下手に敵対せず、汚い手段を取り続けるリスクを理解させるだけで今回は良しとしたのだろう。これが政治的解決というのか。オレと舞美はとんでもない世界に足を踏み入れようとしているのかも知れない。


 後に知ることになるが、今回の『パタ―ン』の解析結果は全世界に散らばる『中友連邦ちゅうゆうれんぽう』のエ―ジェントを窮地に追いやることとなる。


『パタ―ン』の痕跡だけで中友連邦ちゅうゆうれんぽうのエ―ジェントだと名乗っているに等しい『中友連邦ちゅうゆうれんぽう』は急ぎ『パタ―ン』の変更を余儀なくされたのだ。


 ◇◆◇◆

【おまけ】シルヴェ―ヌのよいこの軍事講座①


「―というわけで『モザイク・ミスト』の『パタ―ン』公開は彼らにとって死活問題デス!『モザイク・ミスト』使用の痕跡だけで『中友連邦ちゅうゆうれんぽう』のエ―ジェントと名乗るも同然デスから! ここまでで、ご質問アリマスか?」


『いえ……ぷしゅぷしゅ…』(斎藤兄妹)


「わぉ……おふたりの頭から煙出てマス!! まさに『モザイク・ミスト』デス!! おふたり!!」


 兄妹仲よく知恵熱が出た。。。。







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