第21話 嫌になっちゃうって!(おまけ付き)

「それではこれより質疑応答とさせて頂きます」


 ジェシカさんがそう宣言すると共に国営放送の記者と、唯一の日本からの報道関係者として浅倉さんが質問の舞台に立った。まず口火を切ったのは浅倉さんだ。


「スリ―チャンネルの浅倉です。本日はお招きいただき、ありがとうございます。先ほど斎藤兄妹に対し『我らと共に歩む』と言われてましたが、具体的にどういった意味なのでしょう?」


 先ほど舞美が使っていた同時通訳アプリで、そこそこ優れものだったのだが、会見に先立ち『AI』による同時通訳可能なヘッドセットを渡されていた。驚いたことにまるで違和感なく会話が出来る。


「我が国には王族警護の観点より『騎士位ナイト』があり、立場的には『主席護衛官』的な立場になります。しかしながら護衛官ではあるものの、公私においての相談役も兼ねるため、王族自ら任命する習わしになっており、今回シルヴェ―ヌ殿下は『斎藤順一さま』に是非にと、ご希望があり、順一さまがお受けされました。舞美さんには『政策担当次官候補見習い』――こちらはわたくしが推挙しました」


 質疑応答とは言うものの、2名だけしか質問者はいない。盛り上がりに欠けると思いきや、国営放送の女性記者は椅子を倒す勢いで立ち上がった。


「失礼しました。国営放送のセリ―ヌ・ベイナ―ルです。シルヴェ―ヌ殿下におかれましてはナイトご任命、誠におめでとうございます! では、同時にと理解してよろしいのでしょうか!?」


 ん? この空間にいる日本人、オレと舞美そして浅倉さん率いるクル―はまるで話について行けない。そう、みんな頭に『?』を浮かべた。あまりのことに浅倉さんが口を挟んだ。


「あの…失礼かと思いますが、それは…?」


 浅倉さんの問い掛けに国営放送のセリ―ヌさんが答える。

「あぁ。我が国の王族は『騎士位ナイト』とご結婚されることが多いです。古くはシルヴェ―ヌ殿下のおばあ様、お母上さま、ミカエル皇太子さま、おふたりの姉上様。ですのでシルヴェ―ヌさまもご婚約かと…」


 オレはいい感じにテ―ブルの下に隠れた足を、蹴り上げられた。もちろん『妹さま』にだ。知らないよ! オレだって今聞いたとこだし! オレはシルさんとジェシカさんを見た。ふたりは微妙に目を合わせない。


 確信犯……幸い空気をよんだ浅倉さんが『婚約される方がということですね』と添えてくれたので、ひとまず流した。


「しかし、日本のハイスク―ルの学生が『主席護衛官』の任は重くはないですか? その、シルヴェ―ヌ殿下をお守り出来るのか国民は心配するのでは?」


「私自身、その辺りは心配しておりません。事実、順一さまはシルヴェ―ヌ殿下を他国の王族と知らず身をもってお守りする勇気があります。条件は十分満たしていると考えます。それと同時に舞美さんも『政策担当次官候補見習い』も条件を満たす人材と確信しております」


「なるほど……しかし気掛かりなことにシルヴェ―ヌ殿下襲撃事件、日本政府からの公式発表がされてないようですが……アサクラさんはご存じでしたか?」


 セリーヌ記者は浅倉さんに質問する。この辺りになると、オレですら、この会見は『』であることを感じた。恐らくジェシカさんとセリ―ヌ記者の間に事前打ち合わせがあったのだろう。


 そのことを浅倉さんが見抜かない訳もなく、オレたち兄妹に援護射撃をしてくれることになる。


「いえ、報道に携わる身ですが『』を見るまでは知りませんでした」

「彼女の動画と言いますと……マイミさんのですか? それはどういった内容の?」


「内容はこうです『兄が女の人をバス停で不良から助けた。だけど彼の通う高校は聞く耳を持たず、彼を退学に。彼が起こした暴力事件だと決めつけて』舞美ちゃんは何度も『兄を助けて欲しい』そう訴え掛けていました」


「それでアサクラさんは取材に? どうしてですか?」


「どうして……? そうですね、うん。残念ながら、あまり見られてなかったからです。その動画……うまく拡散出来てなかった。だけど折れずに毎日配信する動画には、伝えたい気持ちが詰まってて。いいなぁ…兄妹って思う反面、恥ずかしいと言うか、思ったんです『何時から傍観者になったの、わたし?』って。こんな若い子がのに、大人の私は出し惜しみ? 嫌になっちゃうって! あっ…すみません。なんか語っちゃって」


「ではアサクラさんの目的は達成されたのですね?」

「目的? いえ全然です、私は何も出来てません」


「そんなことありません。あなたがご兄弟を訪ねなければ、ふたりはここには来てません。仮に来ていたとしても、胸の内は語られなかったでしょう。少なくとも我が国のですよ、必ず日本のネット民にことでしょう」


 セリ―ヌさんは間違いなく自国のネット民を煽って、舞美の動画にたどり着かせようとした。


 ◇◆◇◆

【おまけ】ラ―スロ公国ネット民、激を飛ばす!①


『シルヴェ―ヌ殿下の歴史的会見に…萌えた!!』

 清楚な御召し物で会見に挑む殿


 

 あなたは突然現れたのです。

 私の前にそして……

 私を後ろ手に庇い


 言葉はありませんでした

 いえ、言葉は必要ないのです


 あなたの眼差しはまるで

 春の嵐~

 私の心をかき乱して

 

 殿下たま、ご会見:引用>>


 1.名無しの国民さん

 萌えた…

 2.名無しの国民さん

 殿下たま、俺氏ランキングぶち抜く勢い抱かれたい…

 17.名無しの国民さん

 >>2

 いや、お前童貞だし―

 19.名無しの国民さん

 >>17

 童貞関係なくね!? 俺嫁いるし!

 22.名無しの国民さん

 >>19

 ――という夢をみた。


 こうしてラ―スロ公国ネット民は一晩中。残念ながらラ―スロ公国のネット民の激は『シルヴェ―ヌ殿下たま』オンリ―だった。

 そしてシルヴェ―ヌの『放送事故的黒歴史会見』は、思いのほかポエミーだった。















 





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