第20話 共に歩む者。

斎藤兄妹おふたり、ご一緒ではどうでしょう」



 オレたちは、思ってもない提案に戸惑った。確かに舞美を言い訳に辞退しようとしているかもだが…




 しかし、この申し出は、すごくありがたいと思いかけたが、いつものことだ。はさっそく難癖をつける。





「あの、お言葉ですが、お断りします。いえ、言葉足らずは謝ります。でもですね、いくら、お兄ぃと離れたくないからって『』はマジ勘弁なんです。これでも私アイデンティティって、もんがあるわけです。自己同一性と申しましょうか、えぇそうです、つい最近付けたばっかの、付け焼き刃の知識ですが?」





「あの、いくらなんでも、な方にお誘いするほど私、甘くありませんが?」



 あ―っ、どうしょ。女子同士の言い合いが始まりつつある。面倒くさいなぁ、正直なところ仲裁役なんて、向いていんだよな




 百害あって一利なしって、まったくそうだよ。そもそも、オレは退学になったとはいえ高校生。舞美に至っては中学生。何の役に立つというのか。



「その…オレはともかく、舞美までナイト…護衛官っていうんですか、危ないのは、ちょっとなんです」




「説明不足でした。舞美さまは『護衛官』ではなく、お嬢様の『政策担当次官候補見習い』としてどうですか。二個一扱いしてるわけではありません」

「――政策担当次官候補生…見習い?」




 ふたりは顔をまたしても見合う。言葉の堅苦しさや重みが半端ない。まさに官僚候補と言っても過言ではない。中学生だぞ、舞美は?





「実は、前々からお嬢様の『政策担当次官候補生見習い』を探してました。肩書から、多少想像は付くかと思いますが、将来はシルヴェ―ヌさまのブレ―ン担当のひとりになります」



頭脳ブレ―ン担当…」





「えぇ。先程順一さまをお誘いした時の、舞美さまの解釈――舞美さまは言われました『事実は隠さず真実で覆い隠す』――この回答を瞬時に答えれる……秀逸としか。もし、仮に順一さまがナイト就任の件をお断りになったとしても、舞美さまには『政策担当次官候補生見習い』のお話は受けて欲しいという思いです」




 つまりは二個一ではない。しかも危険を伴う『体を張る』感じではない。何よりこの肩書――としている、舞美にとってこの上ない進路に思えた。



 日々、舞美の手の混んだ屁理屈に、付き合わされているオレだから、わかることだ。



「お兄ぃ……どうしょ。私―」



 向いている。明らかに舞美は、ジェシカさんのお誘いに、魅力を感じている。そもそも、こんな大層な肩書の仕事に就くには――日本で官僚になるしかない。しかし、その為には並外れた努力が必要だ。




 ラ―スロ公国でも、それは変わらないはずだ。それが証拠にあくまで候補生見習いなのだ。チャンスは与えられても、そこから先は本人次第。それはナイト就任のお誘いを受けている、オレも変わらない。しかし、日本で普通に生きていて、与えられるチャンスではない。




「ここで、返事をすればいいんですか」

「いいえ、ただ意思表示だけ頂けたら」

「マイちゃん、どうする? オレは受けようと思う……理由はうまく説明できないけど。マイちゃんはどうする? その候補生見習いの話」




「えっ、お兄ぃ決めたの⁉ いつも、あんなに優柔不断が、服着てる人なのに⁉ うそ、どうしょ⁉ どうしたらいいと思う⁇」



「どうしたらって、やっば自分で決めないと」

「わかってる! わかってんだけど…めっちゃ急だし。いや、急じゃなくても、判断つかないレベルの話! お兄ぃ、なんで、そんなスグに決めれんの⁉」





「ん? なんでだろ。よくわかんねぇけど、何時だって、なれるもんじゃないと思う。そのナイトっての。何年か後に『やっぱなりたいです!』は通用しないなら、今かな? そう思った」





「お兄ぃ。これって、もしかして、決断力試されてるってこと? いや、いい。試されてるからって、自分変えたくない。ジェシカさん」



「はい。答えは出ましたか?」

「やります! やらせてください。やりたいです、仮にお兄ぃ…いえ、兄が受けなくてもやってみたいです!」





「とはいえ、舞美さまは中学生。みたいな感じになりますが」



「構いません! それから『さま』はもうやめてください。お兄ぃ……兄の身内という扱いじゃないなら!」

「わかりました…では正式な手続きが終わるまでは『舞美さん』とお呼びします。その後は『斎藤候補生』と」





 舞美は、武者震いを隠すことなく『ぶるっ』とした。微笑ましい、なんて感情に酔っている暇は実はなく、意思表示をした途端、ジェシカさんの無茶振りが始まった。ジェシカさんは、まだ続くシルさんの『黒歴史構築』に、終止符を打つべく歩き出す。





『コツコツ』とヒ―ルの音と共に、シルさんに耳打ちをする。シルさんは驚きの表情と共に口元を抑える。



 そしてジェシカさんとマイクを気にしながら小声で打ち合わせをし、ジェシカさんは頷き前に出た。





『これより、重大な発表があります』

 ジェシカさんは、まずは自国語で、そしてその後に日本語で話す。考えてみたら凄い才女だ。




『それでは、改めて紹介します。この度、我らのシルヴェ―ヌ・フォン・フェイュさまを身を挺して守り、負傷された斎藤順一さんと、その妹君舞美さんです。おふたりは、事となりました』



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