第19話 黒歴史対決。
「
オレの隣に立つ、ジェシカさんは現状を諦めたようだ。現状とは、自分の主人が壮大な、黒歴史を築きつつあるのをなんとか、阻止するという、ささやかな願いであり、望みを諦めたのだ。
「実をいいますと、主人のセルフ地雷原構築を容認してでも、お伝えしないといけないことが、おふたりにあります」
オレと舞美は、顔を見合わせた。こんな疲れた顔した、ジェシカさんは初めてだ。めっちゃいい顔で語り続ける、シルさんを誰も、止めることは出来ないのだ。
オレたちは、壁際に集まり小さな円を作った。ジェシカさんは大きく息を吸い込み、気持ちを入れ替える。アスリ―トなら、ここで自分の顔を『パンパン』と叩いて、気合を入れるところだろう。
「何度かお嬢様が申し上げているかと思いますが――」
「はぁ……」
「その…『私のナイトさま』とか…その、恥ずかしめな言葉で…」
ジェシカさんは自分が、言ったかのように、モジモジしてる。こんなジェシカさんはきっとレアなはず。
「はい…何度か。それが?」
「実のところ『ナイトさま』という、メルヘン的は響きはさて置き、ラ―スロ公国の王族、つまり要人警護担当と、申しましょうか、ナイトという役職がございます『主席護衛官』と、申し上げればわかりやすいかと」
「はい。えっと…それが?」
「他の護衛官に関しましては、専門のスキルを有した者が、選ばれるのですが、主席護衛官――ナイト職に関しましては、護衛のみが職務ではなく、
「なるほど……」
「つきましては、わたくしジェシカ・ロレンツィオは、順一さまにお嬢様――シルヴェ―ヌ・フォン・フェイュさまのナイト就任の打診に、上がった次第です」
ジェシカさんは胸に手を当て、軽く頭を下げ、オレに対し敬意を払った。オレは戸惑いながら、舞美を見る。舞美もまた、目を丸くしてジェシカさんを見るばかり。
「でも、その…ジェシカさん言いましたよね? ご本人の――シルさんの意志で任命されるって」
「はい、申し上げましたが?」
「いや、その…シルさんにはまだ…なんというか……」
「あぁ……順一さまにこれ以上ないラブコ―ルを、国民に向けて晒している主にこれ以上は……酷かと…許してやってください…もう、何と言いますか、私の方が穴が、あったら入りたいくらいで…」
ジェシカさんは、頭を抱えてカタカタと震えた。しかし、疑問が残る。それ程公私に渡る身近な存在となると、適任者は明らかにジェシカさんだ。その疑問を投げかける。
「ご心配なく。私はお嬢様の『
いや、上目遣いで言われても……確かに、ジェシカさんの『ダメ?』は、攻撃力抜群なわけで……
あっ……ここに来て『妹さま』は、ジト目ですか、そうですか。ふ――ん、相変わらず、兄に厳しいですね。ちょっとくらい大人女子が、かわいいと思う瞬間ありますが? はいはい、悪うございました。
オレは、舞美の手前この申し出を断るつもりだ。舞美を理由には実際はしないが、オレはただの高校生――退学になったとは言え。
ゲ―セン帰りに、舞美から同じ高校に行かないか、誘われたばかりだ。先に誘われたからと、義理立てするつもりはないが、反故にも出来ない。
それに、実際オレが舞美と同じ屋根の下で、兄妹やれる時間は、そんなに残ってないかも。それは両親に対しても同じだ。場合によっては、進学や就職で同じ空間で生活することは、二度とないかも知れない。
オレも舞美も、シスコンやブラコンである前に『ファミリ―・コンプレックス』なのだ。ひとり離れてなど考えられない。
聞いたことはないが、シルさんの主な生活圏がラ―スロ公国なら、遥か離れた異国だ。申し訳ないが、考えただけでホ―ムシックになりそうだ。
しかし、口を開いたのは意外にも、いや意外過ぎだろ……舞美が完全にそっぽ向きながら、まるで『ぷいっ』と言わんばかりに口を挟んだ。
「お言葉ですが、お断りします。私シルちゃん好きです。ホントに唯一この人なら、ギリ認めてやってもいいかなって思ってます。シルちゃん、言いました。お兄ぃと『三日離れて寂しかった』って。私に言わせたら『三日も』平気なんだ! へ――っ、です! 自慢じゃないですが、私一日たりとも無理です。ええ、けっこうですとも、ブラコンの
おい、舞美。いくらシルさんが母国相手に、壮大な黒歴史を形成してるからって、黒歴史競争しなくていいからな?
そもそも、お前そんなにオレのこと、大事にしてないよな? そこそこ、こき使うよな? 考えてみたら、きのう今日ほんの少し、仲よくなっただけかも知れん…
いやいや、何より、兄妹はどこまで行っても兄妹だ。でもここでシルさんのナイトの申し出を断ったら、相手は一国の皇女。会うどころか、電話すら出来ないかも…
「では、どうでしょう。そんな、お兄さま大好き過ぎて、私ムリ!! 舞美さまに、スペシャルな提案があります!!」
「お兄ぃ、勘違いしないでよね。確かに離れるのは寂しい、とは言ったけど『ここまで』のテンションちゃうからな?」
「お、おぅ…」
そう答えたものの、この方向性がまったく見えない。話はどこに辿り着くのだろう。そして何時まで、シルさんはカメラでおのろけを続けるのだろう……
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