第16話 ここが踏み出す時。
父さんはオレに言った、ぶっきらぼうな言葉で。もし今回うまく行かなくて、退学処分が、取り消されなくても――
「親としてちゃんと別の道を用意してやる、だからマイちゃんと頑張れるだけ頑張れ。そしたら後は親の仕事だ」
父さんの条件はただ一つ。
「結果はどうあれ、ちゃんと顔を上げて胸を張れ」
そんな話があったことを舞美に伝えると、照れくさそうに、誇らしげに言った。
「流石、私達のヒゲ親父だけあるよね」
目の淵には、薄っすらと涙を溜めていた。父さんの言葉でその胸にあった重圧が和らいだのだ。
「――にしても『この子』強敵過ぎない? サイフ空っぽなんだけど!」
「オレもほぼ空っぽ…」
オレは舞美の腕に、抱かれた『抱ける感じのうさぴょん』に、デコピンした。
『ゲ―センデ―ト』
兄妹でデ―トってのもなんだけど、舞美の頑張りに、多少のリップサ―ビスがあってもいい。
「お兄ぃ。写真撮ろうか。これが最後の投稿『ふたりでゲーセン行きました、兄妹はなかよし!』みたいな? ツ―ショット、戦利品のうさぴょんとさ」
「ついでにさ、空になったサイフも撮るか?」
「ウケる! 自虐ぽい! うちらにピッタリだ。お兄ぃ、さぁ…謝ったりしないの?」
「謝る? 誰に? オレ別にお前のパンツ盗ってないぞ?」
「うわっ、ごめん…何か頭に映像きた…めっちゃ、想像出来んだけど? ホントに盗ってないか?」
「盗るときは前もって言うから」
「言ったからいいわけじゃないよ? そんなマジな顔で言われたら本気かと思うぞ? 誰得だよ、もう!」
「確かにな」
一応断っておくが、オレはパンツには手を出してない。しかしオレの部屋は家探ししないで欲しい。それなりにエッチな本とかあるので。
「謝るってのは、学校にか?」
「そう、不本意だけど」
「父さんが言ったろ?『顔上げて胸脹れ』って。やってないことで、謝っだら胸脹れないからな」
「じゃあ、お兄ぃさぁ。転校する感じ?」
「ん…考えたんだけど、面倒くさいかな。色々説明すんのが。だから来年受験しなおす、1年遅れだけど」
「そうなんだ…じゃあさ、帰ったら一緒に決めない? 受験する高校?」
「別にいいけど、なんで?」
「いや、その一緒の高校受験しようかなぁ、みたいな? 私、再来年だけど。ほら、2年一緒の学校になるでしょ? だったらカワイイ制服のさぁ……お兄ぃ。アレなに?」
「ん? なんだろ」
オレたちは自宅の前にいる大人、ショートカットのやり手な感じの女性が、明らかにカメラクル―とわかる男性を引き連れていた。
「舞美!」
「うん! うん‼」オレは舞美とハイタッチした。届いたんだ、誰かに! 舞美の頑張りが!
現れたのは地方のテレビ局の取材スタッフだった。舞美が寝食を忘れて、取組んだ『動画メッセ―ジ』――不当な、退学処分に対しての抗議。動画を目にして取材に来たんだ。
舞美は囲まれ取材に応じた。自撮りとは、言えこの数日スマホの前で、語りかけていたこともあり、本物のカメラの前でも堂々としていた。
取材スタッフを仕切っている、やり手な女性は浅倉と名乗った。雰囲気はなんだろ、1番若い親戚の叔母さんみたいだ。ズカズカ来る割には『デリケ―トな事だから』とオレへの取材時には、カメラを止めた。
「あっ、でも顔出しオッケ~な感じになったら、私からだよ? しゅ・ざ・い♡」そう軽く釘を刺す。笑顔で。益々親戚で1番若い叔母さんみたいだ。
「それじゃあ、順一くんに舞美ちゃん! ありがとね! 夕方のニュ―スで会いましょ―。なんか特ダネあったら教えて頂戴ね☆」
オレと舞美は、じっと顔を見合わせた。オレたちは言葉にしてなかったが、この何気にオ―プンで、底抜けに元気な親戚の叔母……いや、1番年上の従姉だ。1番若い叔母さんは、言い過ぎだ。1番年上の従姉のような、浅倉さんを好きになっていた。
惚れた、と言ってもいい。ここ最近の沈んだ空気は、自力で回復させたオレたち。浅倉さんは、夏の急な通り雨の後、晴れ上がった夏空に、連れ出してくれたような人だ。
「なになに? いきなりネタ持ってる顔ジャン? お姉さん、わかるの。そういうの? 言えないこと? 聞いちゃダメ?」
オレたちは、益々互いの顔を見た。こういう時兄妹は便利だ。いや、どこの兄妹もこうかは知らない。いや、今回の事件がなければオレ達だって顔見たぐらいで気持ちなんてわかってなかった。
(お兄ぃ。私、浅倉さん信用したいんだけど)
(オレもだ。ここって踏み込むとこだよな、アクセル)
(ブレ―キなんて、ぶっ壊していいんじゃない? シルちゃんわかってくれるよ)
(よし、電話する…あっ)
(どうしたの、番号知ってるよね?)
(いや、その…オレお前以外の女子に、電話したことない……かも)
(妹女子枠でいいの? はい! シルちゃんは、私の眼鏡に叶った初めての女子。早く電話したんさい! きまくれ妹の気が変わる前に)
『もしもし、シルさん…オレ。順一、シルさんにお願いあって。そう、今から……うん。聞いてみて、切らないで待ってる』
◇◆◇◆
【おまけ】斎藤兄妹の寝言①
「お兄ぃ!! 何時まで寝てんの! ほら、起きる!! 遅刻よ、ち・こ・く!」
夢の中で舞美に起こされる夢を見た。これは、そう。きっと夢でまだ3時間は寝れるはず……ぜったい……ZZZZ
「なっ! いい度胸ね? 私相手に二度寝とか…クリンチしてやろうか、クリンチ! ハ、ハグじゃないんだからね?」
「むにゃむにゃ…うっさいなぁ…『マイたん…』は…」
ぼふ……!
「に、兄さん!? このタイミング?? いや、別にいいんだけど…呼んどきながら、寝ないでよ……あっ、でも。ベットの端っこ空いてる。そ、添い寝じゃないからね?『この子』だってクリンチからハグしようとしてたし……」
ごそごそ…(あっ……兄さん…あったかい……)
「すぴ―すぴ―…」ふたりして寝坊した。目覚めたらお日様はてっぺんだった。
そんなわけで、今日も舞美はブラコンだった。
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