第14話 反撃の狼煙を上げる。

 引き続き斎藤家リビング。

 斎藤夫妻、斎藤兄妹とシルさん、そしてジェシカさんの6人が顔を揃えていた。




「ちょっと待ってくれ、からって…」

「そうよ、なに? お兄ぃ?」

「いや、今朝校門で、成宮監督と林田先生が、校長を説得するって―」

「ワタシもそれ、聞きました! おふたりでした!」




?」

「だからって、だからふたりの説得を待っても……」

「お兄ぃ、悪いけど甘い。お母さんどう思う?」




「ん……どうかなぁ…『』くらいの支援はしてくれるかなぁ……」

 オレは小首を傾げながら、毒を吐く母さんを見た。実のところ母さんは、全く毒を吐いたつもりなどなく、冷静な分析の結果なのだ。





 我が家の役割として、舞美は軍師。母さんは分析官。そしてオレと父さんはガヤ兼アシスタントだ。情けないが……

 いつもながらの冷静な判断の母さんなんだろうが、いまいち納得いかない。オレは根拠を尋ねる。




「サラリ―マンだもの」

 それだけだった。いやいや、それでも約束してるし! そんなオレに手っ取り早くとどめを舞美は刺しに来た。




「お兄ぃ、序盤は情報戦を制すだけど? まあ手っ取り早くお答えします。最近はねぇ、若者だけじゃないの。ソ―シャルメディアで情報発信するの。お兄ぃの頼みの綱的な、おふたりもやってます。まずは成宮監督――娘さんいるのね、知ってた?」




「いや、知らない…」

「いるの、それで今年の春『薬科大』に進学したんだって。ほら、自分で書いて写真貼ってる。情報駄々洩れ。つまりお母さんの意見が正しいの」





「えっ? なんで?」

「つまり、薬科大に入学したってことは、そこそこ以上の教育費が、必要な訳。あと担任の林田先生。去年結婚して奥さんは、妊娠中だって。勤めてた銀行は退職、と。つまりは専業主婦ね。収入は旦那さんである先生のみ。因みに去年新築を購入だって。あとその写真に写り込んでる外車、なかなか高価みたい。若い割にそこそこの浪費家ね、こんなとこかな?」





「はい、お父さん。当てちゃって!」

「ん……? ふたりは家族思い?」

「う~~~ん!! 微妙に当たってなくもない!! 大当たりか、かすりもしないかにして! 中途半端感が否めない!!」





「つまりはアレですね! 訳デスね!」

「はい、100点! さすがシルちゃん! お姫様なのに家庭的!」

「わぉ…とっても嬉しいです!」




「じゃあ、なに? 成宮監督も林田先生も、ってこと?」




「お兄ぃ、そこまで言わないけど、お父さんならどうする? 仕事失って家族離散とまではいかなくとも。家族を犠牲にしてまで肩入れする?」



「しない!」



 即答かよ……いや、仮に監督と先生が、迷った末に職の維持を、考えても変じゃない。つまり舞美は『変に期待して』オレが、傷つかないようにしてくれてるのか……

 確かに時間が、過ぎるほどに、わらをもすがる思いになるかも。そうしたら……逆恨みや、裏切られた気持ちになる。オレのためにだよな。





「マイちゃん、わかった。ありがと家族以外に期待するのはやめとく」

「なんてことデス! ジュンイチさん! 私たちもお味方! 呉越同舟デス!」

「お嬢様。言葉の使い方、微妙です」

「ジェシカ、口うるさいデスね! 舞美さん、ところでどうやって打って出ますか、教えてクダサイ!」




「それはね…」

『うん!』

「なんと!」

『うん!!』



!!」



『し―ん……』



「あれ? 感じ?」

「わぉ……舞美さん!」

「どう? いい感じでしょ? シルちゃん!」




「おぉ―…なんていいましょうか…」

「どう?」

「そうですね……?」

「えっ!? いや、まぁまぁ、とか! 斬新でしょ? さ、なんかで発信するの!『皆さんの力が必要です!」みたいに? 涙ながらでかたりかけるわけよ、この私が!」




……」

「お、お母さん!! で! ダイジョウブよ!」

「舞美、言葉が片言になってる! になってるぞ!」




 そんなやや期待外れな、空気が漂う中、唯一ひとり眉間に、皺を寄せて考え込む人物がいた。ブツブツと独り言を呟き、リビングをウロウロした。





「どうかしましたか、ジェシカさん?」

「いえ、考え事を…………舞美さまの作戦」

「でしょ! ほらっ! 見てみなさい!! 持つべきものは大使館員よ!」

「―




「はあ? スベる? いや、ウケとか狙わないよ? ! 私たちは間違ってない! 信じて、力を貸してって! お願い、声を上げてって! 声の限りに伝えるの!」





「はい! 声の限りに真実を語ってください。その結果――くれればオッケ―です」

「いや、だから。ウケ狙ってないから! 真剣勝負よ! あぁ!! もう、いい!! 聞かせて、その作戦あるんでしょう? ジェシカさん」




「作戦はあります。しかし、それは今は言えません、舞美さまはプラン通り真剣に語り掛けて貰えればいいです。数日後効果が発揮されます。なので、仮にスベったとしても毎日発信してください。必ず実は結びます」





 舞美は、何とも言えない情けない顔して、オレを見た。反撃の狼煙を上げる顔では、全然なかった。












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