第11話 しばしのお別れ。

 舞美がシルさんに言っていた『個人』としての関わりか『公人こうじん』としてなのか。その意味がようやく、少しだけ理解出来た。

 お姫様の騎士ナイト・オブ・ザ・プリンセスというものがどういうものか、まったくわからない。




 シルさんの本国から、まだ連絡がない段階で、考えても仕方ないことだ。




 だけど舞美は乗り気のようなので、許可が出るなら受けるべきだ。そんなことを考えてると、舞美はふらつきながら立ち上がった。

「大丈夫か、マイちゃん」




「うん、流石にもう眠いわ。ちょっと待ってて。犯人探しは必要ないと思うけど、手掛かりはあるの『』が素直に出すとは思えないから、持ってくる」




 そうか。ヤンデレ化の舞美とは、しばらく会えないのか。かれこれ1年振りなのに残念だ。

 ヤンデレ化した舞美。いつもオレの厄介ごとのたびに顔を出す、もうひとりの妹。出て来ない時はどうしてるのか、そんなこと聞いたことがない。




 厄介ごとの度に、ホンの3時間ほど現れ、オレの抱えた問題を解決し、爆睡し元の舞美と

 姉のような妹。そんな妹は高速で、頭脳をフル回転させるため、大量の糖分が必要となる。



 テ―ブルの上の包み紙の残骸が、ある意味舞美の活躍のしるしとも言える。



「眠気が限界だから、力弱まってて『』にめっちゃ抵抗されたわ、よっぽど『これ』お兄ぃに見られたくないのね、まぁだもの」



 ヤンデレ舞美が戻った。スニ―カ―の空箱に詰められた『束』を小脇に抱えて。




「犯人探しからのアプロ―チは、出来たら手を出さないこと」

 そう釘を刺すように付け加え、手渡された箱の中身は色とりどりの封筒。

「これは?」



「これはね『』がお兄ぃの靴箱とか、学校の机、カバンからこっそり回収した――いわゆる…。お兄ぃ宛の」

「オレの!? なんで舞美が?」




「わかんない? ?」

「ヤキモチ焼き!? いや、知らない。初耳だ」

「そう? まぁ、いいわ。今回の退学騒動の犯人なのか。ともかく退学にまつわるエトセトラよ、この中の差出人のひとりがそう。間違いなく同じ高校に通ってる娘ね、それ以外は除外していい。でも、犯人探しは行き詰まってからよ? ら結果を見誤るから」




「わかった、そうする」

「怒んないであげてよ、良かれって思ってやってんの。あの子的には。ダメ……お兄ぃ、もう限界だ。寝るわ」




「うん、ありがとう」

「私頑張ったでしょ? ご褒美に膝枕してケロ?」

「わかった、また…しばらくは会えないのか」



「なに? 寂しいわけ。そうね、私も寂しいわ。ん…いいか。

「ズル?」

「そう。もしね『この私』に会いたくなったら『』って呼んでみて。運次第だけど来れるかも。じゃあ…おやすみ、…」




 そう言い残してヤンデレの舞美は眠りについた。スウスウと膝の上で寝息をたてる舞美の頭を何度か撫でた。




 シルさんは、そんな舞美の寝顔を、僅かに笑みを浮かべ見ていた。母親のような眼差しだ。30分くらい経過した頃か、微妙に動き始めた。膝の上でうつ伏せになっていた舞美は寝返りを打って上を向いて目を覚ました。




「私…何年寝てた?」

「心配するな1時間も寝てない」

「あの子、久しぶりでしょ。?」

「どっちも好きだ」



「まぁまぁな回答。及第点きゅうだいてんをあげる、だから怒んないで」

「別に怒らない」

「ホント? を邪魔するヤツは――みたいにならないの」

「うん、一応理由だけは聞いとくか」



「あぁ…正直なヤツ? それともに考えた方?」

「言い訳考えてんのか、じゃあそっち」




「ケガ…したでしょ試合で大怪我。リハビリに集中して欲しくて、みたいな?」

「ふ――ん。こっちが建前か、じゃあ別。リハビリなんか」



「いやいやいや、リハビリはね。しっかりして欲しいよ、ちゃんと治してからじゃない? 色恋なんてさぁ…不謹慎でしょ、こんな弱った時に近寄ってくるなんてさぁ。まぁ…は」




「まぁ、そうかな。じゃあホンネは?」



「ん……中1でした、わたくし。生意気でしたけど、小学生の延長だったの! その……っていうヤツ? いいでしょ! これでも、ちゃんと言った方でしょ、私にしては!! 『』ペラペラ喋るんだもん、誤魔化せないでしょ、嫌になっちゃう、もう!」




 悪態をつくものの、オレの膝の上から、起き上がる気配はない。しばらくこうしておくか。ヤンデレ化は疲れると聞いていた。その疲れのせいか、今まで聞いたことのない舞美の内心を聞いた気分だ。




 オレは試しに、何となく頭を撫でてみたが、奇跡的に文句が出ない。やっぱりニセ舞美か!? そんな疑問が浮かんだ矢先舞美は叫んで飛び起きた。叫びと言うより悲鳴に近い。




「お、お、お兄ぃ! 、何この大量のスイ―ツの抜け殻……な、なんで止めなかった?『』は! 太るの私持ちなんだからね! シ、シルちゃん…このスイ―ツ…半分食べたよね? って言って!!」




「――舞美さん、ワタシ舞美さんに貰ったダブルシュ―ひとつ頂きました! 美味しかったデス! 残りは全部、舞美さん食べました! 言ってましたよ『《《もっ

と買っとけばよかった》》』って」 



「は!? まだ食べれんのあの子……」



 □□□□



 飛び起きてひと騒ぎした舞美は、冷静さを取り戻した。そして本領発揮する。




「お兄ぃ、お父さんとお母さんに、今すぐ帰って来てもらうよ。それからシルちゃん。ジェシカさんに連絡。どうせスマホの電源切ってんでしょ? 第三国でに音信不通なんて、とんでも姫さまね?」




 言い忘れたが、頭が切れるのは『ヤンデレ舞美』だけではない。どちらかと言えば『ヤンデレ舞美』の方が理性的だ。




 こっちの舞美は目的のためには手段なんてぶっ飛ばす――ん? 敵国の襲撃? バス停の件? 不良に絡まれてたんじゃ……あっ、シルさんの苦笑い…



 どういうこと!?












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