第10話 ナイト・オブ・ザ・プリンセス(おまけあり)

「シルヴェ―ヌさん、さっきも言いましたが『』ありで時間がないの。お兄ぃにネタバレしておきたい。ダメかしら?」

「おォ…舞美さんは何をご存じなんでショウ。私は構いません、だけど…します!!」




 シルさんは手を胸の前で組みお祈りを捧げるような仕草をする。確かきのうも同じような仕草を見た。

 まるでシスタ―のようだ…



 ん? ネタバレって、もしやシルさんは本物のシスタ―とか!? いやいや、もしそうならハマり過ぎでしょ、お祈りされたい!



「お兄ぃ、なにニヤニヤしてるの? お兄ぃの想像、丸ハズレな自信がある……まぁいいや。見てこれ…」

「ん…スマホ…なに?」



「これ、シルヴェ―ヌさんの国――『ラ―スロ公国』正確には『ラ―スロ公国・フェイュ朝』人口約二百五十万人――」




「マイちゃん、その…『フェイュ朝』って…」

 確かシルさんの名前は『シルヴェ―ヌ・フォン・』だっけ…フェイュっ朝て…?




「あら、意外。こんなスグにお兄ぃが感付くなんて…じゃあ、この写真、誰だ?」

 舞美は、自分のスマホの記事の写真を、拡大してオレの方に向けた『じゃん!』みたいな感じで。



 そこには貴族だろうか、王様を中心に数人の姿があり、男性は軍服だろうか、女性は白っぽいドレスを身に纏っていた。

 そしてその中のひとり。とりわけ目を引く、女性の写真を舞美は指さした。




 結われた濃い目の赤茶けたブロンズの髪に、銀色に輝く上品なティアラ。控えめな視線――どこか日本人じみた女性。




 えっ? 濃い目の赤茶けた? 日本人ぽい……オレの思考は完全にフリ―ズ状態に陥った。

 舞美がなにが言いたいのか、オレ自身なにが思い浮かんだか、頭の中でまるでかみ合わない。




 オレは混乱したまま、混乱した言葉を口にした。




「このきれいなお姫様みたいな人……?」

「わぉ…ジュンイチさん!! きれいなだなんて!! これはアレです、馬子まごにも衣裳デスから!!」



 ん? 最後のピ―スが見つからない。舞美は呆れて肩をすくめるし、シルさんは耳まで真っ赤に染め上げて恥ずかしがっている……?



 呆れて? 恥ずかしがって? まさか…

「えっ? え~~~~~~っ!!」



「今更? 鋭いんだか、鈍いんだか。そうよ、まぁ私も警察署での待ち時間に『ラ―スロ公国』ってググったの。そしたら『フェイュ朝』って。どこかで聞いたな~何だっけ? みたくなって調べたらの。そしたらね」




「はぁ……」

「『はぁ』じゃない! シルヴェ―ヌさん、シルヴェ―ヌ・フォン・フェイュさん。ラ―スロ公国、殿――よ?」




「舞美さん!!『さま』はやめてクダサイ! でクダサイ!」




 シルさんは舞美の肩を照れながら『ポコポコ』叩いた。

 舞美はと言えば楽しそうにそれを受けている……なんだこれ? ニセ舞美じゃねえだろうな、もしや。



 舞美はシルさんの地味な攻撃を受けながら、更にオレを『攻撃』した。



「――つまり、お兄ぃは知らず知らずに『ラ―スロ公国』第三皇女殿下シルヴェ―ヌさんを助けたの」



「第三皇女殿下を助けた? オレが?」

「そうよ? 元々『ラ―スロ公国』は親日国。国民がこの事実を知ったら大騒ぎでしょうね」





「マイちゃん、そのこと何時から?」

「言ったでしょ? 警察署での待ち時間。ふと気になったの。ラ―スロ公国の大使館員のジェシカさん。いくら熱心な大使館の方でも、ひとりの国民に対してどうなのって。けどシルヴェ―ヌさんを『』とか、とか変じゃない? それで」





「あ…っ、そうなんだ」

 ――とは答えたが、なに言ってるのかわからない。

 オレは、たまたま居合わせたバス停で、偶然助けた外国の女の子。



 たまたまおじいさんが日本人で、少したどたどしいけど日本語が話せて……オレのこと『ナイトさま』と呼んで――



「あの…間違えてたらなんだけど。シルさん」

「何でしょう、ジュンイチさん」

「さっき『』と言いましたよね?」



「はい! 言いました! 私、一日千秋の思いで待ってます! 気分はもう千秋楽せんしゅうらくです!!」




 ん? 千秋楽……ちょっと意味違うくないか? 両国国技館関係ねえよな、たぶん?




「えっと……何回か言ってくれましたよね『』って。それって……」

「はい! まさに私が本国のお父さまにお願いしてマス! ジュンイチさんを私のナイトさまにお願いするする許可を! です! ジュンイチさん、差し出がましいですが、お願い出来ませんか? 私のナイトさまになってクダサイ! お願いシマス!」




 お姫様の騎士ナイト・オブ・ザ・プリンセス? オレが!?

 ――ってか、なにそれ?


 ◇◆◇◆


【おまけ】斎藤兄妹のありふれた喧嘩②



「もう、知らない!! お兄ぃなんて絶交よ!!」

 ばたん!!

「あ………仕方ないここはプリンか?」



 ぎぃぃい…

「普通のプリンで機嫌なおると思うなよ~~!!」

「ひっ…! ごめんなさい!」



【コンビニ】

 ちゃららららら~♪ ちゃら~ららら~♪(注意:ファミマの音)



(マイちゃんの好きな『喉ごしすっきりプリン』…のプレミアム!? ホイップ増し増し!! これだろ!)



 コンコン!

「マイちゃん…『喉ごしすっきりプリン』のプレミアム…ホイップ増し増しなんだけど……」




「ひどい! お兄ぃ!!」

「え、なんで?」



「だって、ホイップ太るじゃん!」

「ふ、太るって…マイちゃん痩せてるじゃん……」



「ほんと?」

「うん」

「あっ…とね、お兄ぃ…かわいい猫ちゃんの動画見つけたの。一緒に見ない?」



 怒った原因が何だったのか思い出せない舞美。そして、今日も元気にブラコンしてる。










  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る