第9話 舞美の思惑と幾つかの仕掛け。
「忘れてたわ。兄さん。私、もう目星付いてるの。だけどね、犯人わかっても、ひっくり返さないと意味ない。だから『そっち』は後回し。泳がしてなんかないわ。必要ないし、たぶん逃げない。労せず馬脚をあらわすから心配しないで」
「わかった、お前を信じる」
「あら、素直。いつもこうでもいいのよ? まぁ、いつものあの娘はもっと大人気ないですけど」
ヤンデレ化した舞美は『姉的ポジション』を維持した。しかし、犯人がわかったって…舞美は早退届出してきただけだ。どうやって――
舞美は隠し事はするが嘘はつかない。それは普段もそうだし、きっとヤンデレ化した今も同じだろう。
元気つける為の嘘でもない。その場限りのことは舞美はしない。なら犯人の件は舞美に任せよう。
『ひっくり返さないと意味ない』ってのは、学校に間違った情報を意図的に流した犯人を特定するだけじゃ『退学処分』が
しかし、ここまで把握しているのなら警察に行く必要あるのだろうか『後々効いてくる』ってことだから、何らかの意味があるのだろうなぁ……
残念ながらオレの思考は舞美の遥か後方だ。背中すら見えない位置にいる。追いつけないが、走らないわけにはいかない。考えることを、行動することを諦めるわけにはいかないのだ。
□□□□
「アレだけでいいのか?」
オレは余りにもアッサリとした、警察訪問に肩すかしな気分だ。
「そうよ、今の段階では警察はどうにも出来ない。どうにかして貰おうなんて考えてもないけど」
「でも、流石に世間話ぽくないか?」
「そんなことないわ。バス停で起きた乱闘騒ぎの被害者なのに『退学になった、どうしょう!!』これでいいの。私が欲しいのは公的機関のエビデンス―つまり、今日相談したという事実だけ残して欲しいの記録として。意味は後で付け加えるから今はいいの」
「でも、先程の警察のヒト、学校にジュンイチさんのタイホなかったこと伝えてくれる、言いました! とってもイイ人」
「そうね、そこはうれしい誤算だわ『学校側に伝えたけど耳を貸さなかった』でもいいし、投げられたボ―ルを持ったままだと、人は心地悪いもの。聞き流すもよし、慌ててボ―ルを投げ返して失策を犯せば尚よし」
「トコロで、気掛かりなコトあります」
「どうしました?」
「妹さん、舞美さん――そんなに甘いモノばかり、食べれマスか?」
「え?」
言い忘れていた。
ここはコンビニでヤンデレ化した舞美は、コンビニに入るな否や、カゴいっぱいにスイ―ツやら、コ―ラ、チョコやアメ、和スイ―ツやらで満たした。なんでもヤンデレ舞美はフル回転で頭脳を使うため、糖分という名のガスがなくなるのだ。
「シルヴェ―ヌさん。日本では糖分が正義なの。正しい行いをしたいならまずは『糖分』それが日本文化に触れるということです」
「ナルホド! わかりました! 私も糖分しっかり、取ります! 糖分、イエイ!」
なんか間違った国際交流を深めているが、ここはふたりに任せよう。オレの記憶が正しいなら、ヤンデレ化した舞美は直接的ではないにしろ、普段より暴力的だ。言動や、行動がだけど。
それが、言葉が少しキツめではあるがシルさんに対してはごく普通に接している。いや、心を許しているようにさえ見えた。
余計な口出しはふたりの交流に水を差すだけと、遠慮することにした。
□□□□
シルさんの予定を確認して自宅に招くことにした。
オレと舞美は制服なんだ。昼間からウロウロするには人目を引く。それにヤンデレ化した舞美が糖分を欲しがるということは、ガス欠がもう目の前だ。完全にガス欠になれば寝てしまう。そうなる前に家に戻りたい。
リビングに3人で入るとシルさんは、日本の家が珍しいのかキョロキョロとしていた。舞美は大量の糖分たちをどさりとテ―ブルに置き、その内のひとつ『ダブルシュ―クリ―ム』をシルさんに分け与えた。
シルさんは知らないだろうが『この』舞美が糖分を分けるなんて、天地がひっくり返るほどの出来事なのだ。いや、普段の舞美もスイ―ツに関しては心狭めだ。
自分は『のどごしすっきりプリン』を飲み物のように飲みは干し、桜餅を口の中に投げ込んだ。シルさんは『はむはむ』とシュ―クリ―ムを口にし、オレはふたりに緑茶を出した。
先ほどから舞美がオレとシルさんを交互にチラ見している。何か言いたいことがあるのは見え見えなのだが、どうしてことか躊躇しているようにみえる。
オレは舞美にだけわかるように『どうした?』と首を傾げた。舞美は上目遣いで少し考えてが答えが出ないのか、乾いた唇を少しぺろりと舐め口を開いた。
「シルヴェ―ヌさん。私、ワケあって時間がないの。だから端的に聞くね。あなたは『個人』として兄に関わろうとしてるの? それとも公人としてなのかしら」
舞美は肘をついて顔を支え、悪戯な猫のような目をし、シルさんに問いかけた。オレも同じように聞いていたが舞美が何を言いたいかわからない。でもシルさんはわかったようで、返事をした。
「そのどちらもデス。ただ、本国からまで連絡がアリマセン。
「もし出来るなら――心強いです」
ニコリと笑う舞美だったが、オレにはさっぱり意味がわからない。しかし、今交わされている会話が、この先突き進むうえで、この上ない重要性を握るということをオレだけが知らないでいた。
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