第6話 #理不尽デス!!

「どうだ、斎藤。ウチに来て一緒に全国目指さないか?『8番』を空けて待ってる、必ず来い! 約束だ!」

 中学サッカ―総体地区予選決勝前。




 オレはこの私立常和台ときわだい高等学校サッカ―部監督、成宮なりみやさんに熱心な誘いを受け進学を決めた。

 そして今、オレはその成宮監督に校門をくぐるのを阻まれていた。その隣には担任の林田先生の姿もある。




「た、退学処分……!? オレがですか!? どうして!?」

「昨日、お前がバス停で暴力沙汰を起こしてるのを見かけた生徒がいる」

「か、監督、オレ―暴力なんて振るってません!!」

「チョット、!! ジュンイチさんは私を助けてくれただけデス! 暴力はしてないデス!!」




「目撃した女子がいるんだ――」




「林田先生、オレは手を出してない!!」

「そうデス!! ジュンイチさん暴力してない! 理不尽デス!!」

「斎藤くん、君が警察署に入るところを写真で撮られてる」



「写真!? 誰がそんな……確かに警察には家族と行ってます! ケガさせられたんで被害届出しに。調べて貰えばわかることです!! 警察署に行くことが何か問題ですか!?」



「斎藤……オレはお前が試合中どんなラフプレ―にもれずに、我慢強く対処してるのは知ってる――お前がそんなことするヤツじゃないことは充分わかってる……チ―ムメイトもだ―――ここはオレと林田先生に任せてくれ。オレたちが校長を説得する、それまで待ってくれないか?」




「こ、校長なんですか、こんな…おかしいじゃないですか! 本人から話も聞かないで退学なんて」

(斎藤くん、すまない。ここは退いてくれないか……。成宮監督が言うよう我々に任せてくれないか。ここでの押し問答は事態を悪化させる……信じて欲しい、頼む)




 撮影!? ビデオ撮影? なんの必要が? 事情を知りたいならオレに聞けばいい。



 もしオレが信じらないなら、それこそ警察に聞けば解決じゃないか……それとも他に何か意味があるのか……

「―ジュンイチさん……?」




「すまない、シルさん。ここは一度引き返そう。下手に長居したらそれこそ警察を呼ばれかねない……むしろそれが狙いかも……」

 オレはシルさんを連れ、いま来た道を戻ることにした。



「――ジュンイチさん、私……」

「謝んないでください。シルさんが悪いなんて絶対ないですから……」

「アリガトウございます…ご自分が一番オツライのに……私はトッテモ無力デス」

「そんなことは……ないですから」




 オレはカラカラに乾いた口から、この言葉をしぼり出すのがやっとだった。

 オレは明らかに混乱していた。混乱した精神状態で、発した言葉がシルさんを傷付けないか、自信がなかった。




 オレは自分自身を鼓舞するために、何度かシルさんが言ってくれた言葉を口にした。

「オレはシルさんのナイトなんでしょ? 大丈夫ですよ、うん」

「わぉ…なんて勇ましい…はい! アナタはのナイトさまです!」



 不思議とシルさんの言葉に勇気が湧いてきた。オレはひとりじゃない……そうだ、オレはひとりじゃない!




「ジュンイチさん、これからどうされますか?」

「家族と合流します」

「ご家族と?」



 そうだ、オレはひとりじゃない。家族がいる。いつも父さんが言ってくれてたじゃないか――

『何時だって!』



 今がきっとその時なんだ。


 □□□□



「こんな時に不謹慎だと思うのデスが――」

 オレは恥ずかしながら、まず最初に合流したいと考えたのは舞美だった。

 あの傲慢なだけの妹さまの顔が浮かぶなんて、焼きが回るとはこういうことか…



「どうしました、シルさん?」

 オレたちはバスに揺られながら、自宅近くに戻ることにした。



 その車内で隣に座るシルさんが急にモジモジしだしたのだ。

「きのういた女のコ。警察でご一緒されてた、とってもキュ―トな女のコなのですが…」



「キュ―トな女の子…? もしかして舞美ですか?」

「おぉ…舞美サン言うデスか――お名前さえもキュ―トですね……」

「その舞美がどうかされましたか?」




「わぉ…私やっぱり、ハシタナイかもデス……その、舞美サンはジュンイチさんの――彼女サンですか? 私…きのうからソレが気になって眠れないデス」

「えっ?」



「ゴメンナサイ、こんな時に聞くことではなかったデス…反省シマス」

 隣に並んで座るシルさんは空気が抜けたようにしょんぼりした。

 シルさんが言うように『こんな時』なのにオレはシルさんにドキドキした。



「あっ、その舞美は…」

「あっ、待ってクダサイ! 聞いておきながら聞きたくナイような―」

「妹です」

「えっ?」



「だから、シルさん。舞美は妹です」

「妹さん? わぉ……私なんて恥ずかしい間違いデス!! ソウデスか、妹さんデスか、とってもキュ―トデスね!! 手放しでキュ―トです! 私、ホットしました!」



 オレは何ひとつ説明させることなく、退学処分になった。オレはあの時、校門でひとりきりだったら……どうなっていたろう。



 今だってそうだ。明るく振る舞ってくれているシルさんがいるからこそ、保てる冷静がある。

 そしてなんでだろう……あのとてつもなく生意気で、怒らせたら1週間でも口を聞いてくれない妹の舞美に……




 気の迷いだろうが、今すぐにでも会いたい――














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