第5話 アナタに逢いたくて!!

 ついに、思春期の長いトンネルを抜けたかといえば疑問は残る。しかし今までと余りにも違い過ぎる――そんな妹舞美と別れオレはバスで登校する。



 少し考え事をしていたら着く距離だ。正直自転車通学で十分な距離なのだが、部活で朝早かったり、帰りが遅かったりするので父さんが自転車通学を許してくれない。




 許してくれないとは言うものの、心配してくれてのことなんで文句は言えない。強面こわもてのクセして過保護なのだ。

 サッカ―部の朝練に参加する日は、この時間帯のバスに乗ることはない。いつもは空席の目立つ、もっと早い時間帯のバスの車内だが、この時間帯はそこそこ混んでいた。




 実際座らないと疲れる距離でもないので、ガラ空きのとき以外は立っていた。そして今もそうした。いつもと違う車窓を流れる景色。

 乗客もよく見ると普段の顔ぶれと違う。そんな乗客の中に同じ高校の制服を着た女子がいた。




 座った彼女はじっと窓の外を眺めていた。何を見ているのだろう…特に意味もないのだが彼女の見る視界の先を目で追った。





(ん…? アレは…)

 流れる窓枠の景色の中に見覚えのある姿……

(きのうのブロンズ女子。確か名前は……シルヴェ―ヌさんだっけ?)

 彼女がこんな時間にこんな所で何をしているんだろう……もしかして…オレを待っている、なんてことないよな。




 彼女の国の大使館の方とは連絡先の交換はしたが、シルヴェ―ヌさんとはしていなかった。

 もしかしたら、何か用事…なのか? いや、きのう少しだけ接した感じからオレを気にしてくれているのでは……



 もし勘違いなら、とてつもなく恥ずかしいことなのだが、こと彼女に関してはオレの想像が当っているように思えた。



 オレは一刻も早く彼女の元へと、バスが停まる前に下り口に足を向けた。足を向けながら――




(そういえばさっきの同じ高校の女子……)

 見覚えがあるような気がして振り返るが、他の乗客に隠れて確認できなかった。

 まぁ、いいか。それよりシルヴェ―ヌさんが待ってくれてるのなら…オレは早足でバスを降りた。ふと背中に視線を感じたのだが、オレの興味はそこにはなかった。




!」

 いつもならこんなに積極的に声を掛けるのは苦手な方なんだが、あまりにはかない繋がりなので、手をこまねいていたらもう会えないかも知れない。




「わお……ジュンイチさん!」

「どうしたんです、こんなところで…もしかしてオレですか?」

!! 私ジュンイチさんの連絡先聞くの忘れてマシタ! お怪我、痛みマスか?」




「えっと…昨日より少し大丈夫です、それより何時から待っててくれたんですか

 ?」

「えっと…そのジュンイチさんに会うには、このバス停だけが頼り。連絡先、ジェシカに聞いたのデスが、迷惑になると教えてくれまセン……なので6時くらいからキマシタ」




「そんなに早くに……なんかすみません」

「イイエ! !」

「あっ、でもオレ今から学校なんでそんなには……」

「問題アリマセン! そのつもりでキマシタ! ジュンイチさんのハイスク―ル見てみたいです~」




 言葉が片言っぽい日本語なのでダイナミックな感じがするが、上品で大人し目のゴシック・ファッション、そしてクセのないブロンドの髪がとても清楚な雰囲気を出していた。



「アノ、ジュンイチさん。私、デスか? ジェシカが言います『ガツガツ行ったら!』と、ドウデスカ?」




「は、はしたなくなんて、全然です! そのシルヴェ―ヌさんが来てくれなかったら会えなかったわけだし……」

「わぉ! その言葉ジェシカにそっくり伝えておきます! ところで。ジュンイチさん私の名前呼びにくくナイデスカ? よければ私のことは『シル』とお呼びください」



「いいんですか、馴れ馴れしくないですか?」

! ジュンイチさん。あなたは私のナイトさま。親しき仲にも礼儀アリですぅ」



 少し意味が違うような気がするが、得意げに話すシルヴェ―ヌさんはとても可愛らしい。そういえば昨日から『ナイトさま』ってよく言うなぁ…なんか照れくさい。



「じゃあ、お言葉に甘えて『シルさん』って呼びませね?」

「どうぞ、どうぞ! 甘えてクダサイ!」

「ところで、シルさん。日本語お上手ですね、日本は長いんですか?」



「先日来たばかりデス! 私の国『ラ―スロ公国』はとても小さな国。人口25万人デス。デモ大変な親日国、両国の交流はとても長いデス。学校でも日本語学べます!」



「じゃあ、シルさんも学校で勉強を?」

「あ……っ、イイエ。私のおじいさま、日本人デス! なので私はクォ―タ―になりますネ」



「そ、そうなんですか……」

「あっ!! ジュンイチさん! 今、アナタ『』って思いましたね!? ひどすぎマス!!」



 清楚な雰囲気とコロコロ変わる表情。大人ぽいのか、どうなのか。そんなところがシルさんの魅力かも知れない。おじいさんが日本人か……それが理由か、親しみやすい顔をしている。



 出会って間もないのに、シルさんと過ごす時間はとても楽しい。普通に話せる状況は実際これが初めてだ。なにせ出会ったのはあのバス停の乱闘騒ぎなのだから。

(もう少しシルさんと話がしたい……)



 そんなことを考えながら、すぐそこまで迫っている校門がうらめしくもあった。しかしオレとシルさんとの過ごす時間には『平穏』という言葉が無縁のようだ。



 なんでって? オレはこの5分後、自分が退になったことを知るからだ。





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