第4話 それでも舞美が妹最強かと思うのはオレだけか?
兄貴と言うものはハッピ―野郎では務まらないものだ。
いくら昨日の夜少しばかり仲よくなった気でいても、それは単なる『妹の』気の迷いなのだ。
なので『兄貴』初心者なら恐らく昨日のノリで『マイちゃん』などと呼んでしまうだろう。
それは明らかな間違いなのだ。妹という生き物の生態をまったく理解してない『ビギナ―兄貴』が往々にしてやらかす失敗なのだ。
『ドンドンドン!!』
ほら、これでわかっただろ。妹さまはなんかわかんないけど不機嫌なのだ。
それが証拠に朝っぱらから
一瞬でも仲よくゲ―センに行けると思った自分にイエロ―カ―ドを出したいトコだ。
「お兄ぃ、何してるの。入るよ! もう! 早く脱いでよ! シップ貼らなきゃでしょ! もう、貼ったげるから早く起こしてよね! 知ってるでしょ。私、朝苦手なんだから~~」
あろうことか、あれだけ寝起きの顔を見られるのを嫌がる舞美が、おでこ全開で現れた。
しかもそこそこの距離からオレのベット目掛けジャンプ。
『びよ~~ん!!』と跳ねるベットに朝から『ケタケタ』と声を上げて笑ったのだ。
まさか舞美の部屋に『笑い茸』が生えてたりしないよな……
「ほら、お兄ぃ! 運動部でしょ、きびきび動く! なに恥ずかしがってんの? そういう小芝居は夜にしてね、朝は付き合ってらんない~~! はい、貼れた。んじゃ、後でね! バイバイ~」
あっ、賢明なオレはすぐに事態を掌握した。そう、これは夢だ。
夢の中の舞美ならワンチャン優しいかも知れない。
オレはもう一度布団にもぐり何もかもやり直すことにした。
「お・に・い・ちゃん~~」
「うわっ!!」
「『うわっ!!』じゃないわよ、なんで妹差し置いて自分だけ2度寝するかな!」
「ゆ、夢かと……」
「は? 意味わかんない。早く目覚ましてよ、ったく世話の焼ける……」
こんな世話焼き女房みたいなセリフを、オレはどこで聞かされてるかといえば……自分のベットの上。
そして舞美はいたずらぽくオレを押し倒した風にしている!?
(近い、近い!! か、髪の毛が顔に!!)
「早く!!」
それだけ言うと何もなかった感じにベットを跳ねて降りた。
ちょっとした体操選手だ。
そしてオレはようやくこの一連の朝の出来事の先にある罠に気付いた。
オレの部屋をすたこら去ろうとする舞美の後ろ姿に、どうしようもない違和感を感じたのだ。
いや、回りくどい。舞美のスカ―ト、もちろん学校の制服なんだがスカ―トの後ろの裾があろうことかパンツに挟まり捲り上がっていた。
つまりパンツ全開なのだ。
なるほど、神様。さぞ何回もサイコロを振り直してオレを狩りに来たな。
さっきも言ったが制服のスカ―トだ。
もし、このまま気付かずに学校に行こうものなら、舞美のパンツはいろんなヤツに見られてしまう!
これは断固『ノー』だ! シスコンとかそんなこと以前の問題だ。
家族が恥をかく事態を見て見ぬ振りなんて出来ない。
母さんや父さんが気付けばいいが気付かなければそのまま……それは絶対ダメだ。しかし――
パンツ見えてるぞ、そんな指摘をしようものなら『生ごみ等価』案件と言っていい。
いや、むしろ生ごみの方がバイオマス的な観点に置いて上位扱いされかねない。
「マイちゃん。ごめん、パンツ見えてるわ。その…後ろ」
「あっ……ホントだ。見た?」
「ごめん、見た」
はい、終わった。所詮我が家で兄妹が仲よく暮らす未来なんてないのさ。
でも、どこの誰ともわからん男に舞美のパンツを見られることだけは防いだ。
それだけで十分だろ? オレ。
「お兄ぃ、なんて顔してんの。びっくりするわ」
「だってほら……」
「パンツ? なに言ってんの私が悪いんじゃん。それに兄妹でしょ? そんな気まずい顔は――そうね、私がパンツはいてなかったらしてよ! いやむしろパンツもスカ―トも忘れてたらか? さすがに相当気まずいよね、相当シュ―ルな『絵』になるわ……なんてね、早く起きてよ?」
そう言い残して舞美はバタバタと一階に降りて行った。あれ…命あるよな?
いや、命は大袈裟にしても……全然変わんなくない?
パンツ見たんだよ、オレ。
いや、ここは最低でも『死ね、ボケ!』でしょ……罵倒ワ―ドなしとか……逆にめっちゃ嫌われたのか!?
□□□□
「もう! お兄ぃ、明日からちゃんと起こしてよ、じゃないとシップ貼ったげないからね?」
「あ…っ、うん。わかった」
「――部活、しばらく休むんでしょ?」
「うん、母さんが連絡してくれてる。抜糸するまではなぁ…」
「そうだよね、縫ったんだもんね」
そう言うと舞美はしばらく、しょんぼりとしたままだった。
なんて言っていいかわからないから『すぐ治るから』とか『ホントすぐだよ』とかしか言えなかった。
だけど前までのオレからしたら大躍進のはずなんだが……
「マイちゃん、あれ。友達じゃね?」
オレは信号待ち。横断歩道の向かいで、手を振るふたりの女子を見ながら言った。
「お兄ぃ、外で『マイちゃん』はやめて」
「あ……ごめん」
「べ、別に怒ってないんだけど。恥ずいから。そうね…『舞美』か『マイ』ベタだけど……あっ!『マイマイ』がいいかも!」
「マイマイ!?」
「そう、仲良さげでしょ?」
「う、うん」
「あのね、時間ないから黙って聞いて。右の娘、おさげの。ほら、今! ワザとらしく笑ってるでしょ!! 前からお兄ぃ紹介してってしつこいの! 私的にはツレとお兄ぃが付き合うなんて、ぜっ~たいの、絶対ナシ!! いい? 覚えててよ? もし、約束破ったら一生妹いないことになるよ? 特に!! あの娘はダメ!! いい?」
「うん、それはいいけど…マイちゃん?」
「マイマイね?」
「あっ、ごめん。マイマイ」
「なに?」
「約束守ったら、そのしゃべてくれるの?」
「う…なに言ってんの恥ずぃなぁもう……普通にしゃべりますけど? あっ、ちょい待って、お兄ぃ。今から何してもびっくりしないで。いい? 演出も大事なの」
そう言って舞美は深呼吸してあろうことか、オレと腕を組んできた。
いや、これは腕に抱きついてきたレベルだ!!
びっくりするなと言われてなかったら飛び上がってたろ、たぶん。
「な、なに? その…マイマイ?」
「演出よ! お兄ぃと付き合うなら『私がセット』っていう告知ね? 宣戦布告とも言うけど、最近では」
そう言い残して信号の変わった横断歩道を渡り切り、飛び切りの笑顔で振り向いて胸元で手を振った妹は――
「それじゃあ、兄さん。舞美、行ってまいりますぅ!」
飛び切りの笑顔で『兄さん』って……それ黒髪ロング限定のセリフだからな…『舞美、行ってまいりますぅ』ってどこにお嬢様だ?
まぁ、かわいいっちゃ、かわいいが……
オレは自分自身の顔が赤くなるのを感じた。演出か……しゃあないなぁ、もう……
オレは少し小さくなった妹の背中に声を掛けた。
「気を付けてな、マイマイ!」
「――兄さんも!」
笑顔の舞美はオレじゃなく『おさげの』ツレを見て笑った。
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