ギャルは夢とお金を天秤に

ねぇキミ、あたしに勉強教えてくんない?


ごめーん。いきなりでびっくりするよねー。


実は今度のテストヤバくてさー。あ、となり座るね。

休みの日に図書館で勉強してるなんて絶対頭いいし、その教科書、あたしも同じの使ってるんだ。

それで学年一緒だと思って。


(男子が高校二年生と聞いて)


ほらやっぱタメじゃーん! よろしくー。


(男子が周囲を気にする様子を見て)


だいじょーぶ。『図書館では静かに』でしょ。

こう見えても……協調性? とか知ってるんだから。


(男子がいろいろ混乱している様子を見て)


とにかくさ、あたし次のテストで良い点取らないと、すっごい困ることになるんだ。

もう後がないの~。


最初は自分で頑張ってたんだけど……あたしバカで要領悪いから、一夜漬け以外に勉強の仕方わかんなくて。


(友達に頼まなかったのかと聞かれて)


ダメダメ、周りに頭のいい友達なんていないもん。

成績のいい奴に頼んだりもしたけど……みんな逃げてくんだよね。まともに話聞いてくんない。


やっぱしゃべり方? それとも見た目かな? そんな遊んでるように見える?

ぜんぜん遊んでないんだけどな……。

まあ今日は制服じゃないし、ちょっとオシャレしてるけど。


そうそう、これ見て! ネイル!

ばちばちに可愛くない!? キレイくない!?

お母さんもすっごい誉めてくれてー!


これぜんぶ百均で揃えたやつでやったの。ぜんぜん見えないでしょ。

やっぱ百均しか勝たんわー。

高いの使わなくても頑張ったら映(ば)えるんだから。


でもぉー! ちょっと聞いてよ!


さっきここ来る途中、駅前で偶然学年主任に会ってさ。

「貴重な日曜日に何やってんだ!」って注意されてー。

ついでに服装がーとか、ネイルが化粧がどーのこーのって……休みの日にどんなかっこしたっていいじゃんねー! 息抜きぐらいさせろっての!!


(近くの人の視線を感じて)


あ、さーせん。


それで……あれ? 何の話だっけ?


そうそう、図書館だったら頭のいい人いそうだし、勉強教えてって頼んだらワンチャンあるかと思って……それでキミに声をかけたわけ。

いやーツイてたわー。


(まだ引き受けたわけじゃないと返されて)


いや、もちろんお礼はするって!


例えば?


うーん……なんか奢るとか?

あんま高いのは無理だけど……あ、クレープはどう?

放課後たまに友達と行く店があるんだけど、くっそ上手いの。


しかも毎月七のつく日は学生証見せたら三百円! すごくない!?

ってか待って今日じゃん! 行かなきゃ!

ね!? よくない!?


(クリームとかあんまり食べれないと言われて)


そっか、甘いの苦手なんだ……。


じゃあ……えー? 何すればいいの?

思いつかないよー。


ねぇーおねが~い。あたし何でもするよ。

勉強教えてくれたら、あたしのこと好きにしていいから。


(男子の顔が赤くなるのを見て)


あっ……ちが、その、違くて!

そういう意味じゃなくて!


でも、キミがそうしたいなら……。


どのみちテスト悪かったら進学できないし、高校卒業したら水商売? とか、そういう……夜の仕事しようと思ってたから。

いまのうちに予行練習? みたいな?


うそうそ、ははは……。


(男子に「さっき言ってた困ることって……」と聞かれて)


あたし、保育士になりたいんだよね。

弟とか妹見てると、子ども好きだなーって思って。


それで資格取るために進学したいんだけど、うち貧乏でさ。

学費は奨学金借りる必要があるんだ。


バイトはしてるよ。かけもちしてフルでシフト入れてる。

でもそれは家族の生活費だから。


奨学金って学力審査もあるから、今より成績落とせないの。

そのへんは学年主任にも言われてて、厳しくしてもらってる。


今はなんとか成績保ってるけど、次のテスト範囲広いから一夜漬けじゃヤバくてさ。

時間もないし。


勉強とバイトと、あと家の仕事もか。

全部両立するのヘタなんだよね。

ほら、あたしバカだから。


お母さんは「お金の心配しないでいいよ」とか「もっと青春しなさい」って言ってくれるけど、これ以上無理させられない。

身体つらそうなの知ってるから。


本当は学校辞めて働かなきゃなんだけど……あたし、自分勝手でわがままなんだよね。

悪い子なんだ。


お金がないと夢見ちゃいけないのかな……。


えーと、なんの話だっけ?

あはは、忘れちゃった。


ごめん。急に絡んで変な話しちゃって。

こういうの、周りに言えなくてさ。ちょっとスッキリしたかも。

聞いてくれてありがと。


ほんと、邪魔してごめんね。じゃ。


(男子が手を掴む)


えっ、なに?


(自分でよければ力になると言われて)


勉強、教えてくれんの?

迷惑じゃない? 今さらだけど。

うそ? マジでいいの?


ありがと~! 神~!


よかった……頼れる人いなくて……自分じゃもうどうしようもなくて……。


いやいや、まだ助かってないよね。

これから勉強して良い点取んなきゃ。

先生、どうかよろしくお願いします!


え、先生とか恥ずい? いいじゃん。

キミみたいな優しい先生、理想だけどなー。


そうだお礼。何すればいい?

お金かからないやつだったら何でもいいよ。

夢を救ってくれる恩人だもん。


(男子の耳元に近寄って)


キミがあたしにしたいこと、全部してあげる。


【終】

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竹乃子椎武 シチュエーションボイス台本 竹乃子椎武 @takenoko-shi-take

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