第2話 数年に一度の不幸

「先生方、落ち着いて聞いてください」

 校長の言葉によって、重い空気が流れる。

「…今朝、黒田先生が亡くなられました」

 教員たちがどよめく。

「今回はうちの学校なんですか!?」

「まだわかりません。ですが、その可能性が高いです」

「なんせ、この市は寿命以外で死ぬ人は滅多にいませんからね」

「どうしてこの学校が…」

「とにかく皆さんは、気を引き締めて生徒達を守ってください。もちろん自分自身もですよ」

「はい…」

「これで、緊急職員会議を終わります」



「さっきまで雨降ってたのに、もう止んでる…」

「天気は気まぐれだからね」

「あ、夕汰」

 彼の名は、野村夕汰。このクラスで数少ない、俺の友達だ。

「あはははは」

「あいつら…バスケしてるのか?」

 体育教師が来ていないためか、気づけば皆、校庭で自由行動していた。

 野村くんが微笑む。

「じゃあ俺たちも遊ぶか」

ゴロゴロゴロ…

「雷鳴ってる」



「前川先生、あなた一時間目担当じゃないんですか!?」

「早く生徒達をみてきてください!」

「いません!生徒達がいません!」

 涙目の前川先生は息を切らしながら口にした。

「もしかして、外じゃないだろうなぁ!」



「雷?」

「そうだよ。夕汰、教室に戻ろう」

 何か嫌な予感がする。

「えーっ、サッカーしようぜ!俺がゴールキーパーするからさ」 

 どうにかして、野村くんの気持ちを変えなければ。そう言えば…!

「ゴールコートってさ壊れてなかった?先生が修理が終わるまで近づくなって…」

「何だよー、光一。急に優等生ぶっちゃってさぁ」

 雷と共に雨も激しくなってきた。

「ちぇ~」

 野村くんが空を見上げながら、ゴールコートにもたれ掛かる。

 そのときだった。

ドーーーーーーーーーーーン

 耳をつんざくような爆音が、日常を裂くような断末魔が、全身に響き渡った。

 何があったんだ?

「キャァァァ!!野村君がッ!」

 甲高い声が後ろから聞こえた。…野村?夕汰がどうしたんだ。だって夕汰はここに…

 黒焦げの大きな塊。それが夕汰の代わりにあった。

「夕汰が…死んだ?」

「うわぁあぁぁぁあぁぁああ」

 絶望が入り混じったような悲鳴を出したのは、俺ではなく、同じクラスの四宮彰吾だった。

「今回はうちの学校なんだ!皆死ぬんだ!」

「な、なんだよそれ?」

「ぼ、僕、聞いちゃったんだよ!先生たちの話を!」

「おい!どこ行くんだよ!」

 気づけば、四宮は全速力で走っていた。

「もちろん逃げるんだよ!僕は死にたくないもん」

 一瞬振り向いた、その顔は恐怖で染められていて、俺の顔など見えていなかった。

 四宮が校門から出た、そのときだった。

 「四宮!!」

 時間が止まったかと思った。やけにゆっくりと見えた死の瞬間は、鮮明に脳裏に焼き付けた。

 四宮彰吾が死んだ。大型トラックに轢かれて、ぐちゃぐちゃになって死んだ。

 普段ならば、こんな山奥にトラックなんて来ないだろう。やっぱり呪われているのだろうか、この学校は。

 

 四宮のその言葉が頭で渦をまいていた。



 






 






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