第1話  はじまりの朝

 朝日が昇る頃、一定に刻む電子音が部屋中に鳴り渡る。その音に気づき、俺は目を覚ました。

 「…おはよう」

 そう一言零してみるが、その声は誰にも届かず無に還って、独り言と化した。

 いつもと同じ繰り返し。


 リビングに向かうと、すでに母親は仕事に出ているようだった。ふと、ため息が出た。何でだろう。もう、寂しさなんて感じなくなったはずなのに。

 ダイニングテーブルを囲んだ、三つの椅子の中の一つに座る。ここが俺の席、母さんの横の席。そして向かい側にお父さんの席。最後にみんなで座ったのっていつだったっけ。

 カサッ 

「…なんだこれ」

 テーブルに置かれた、四角い、正方形の手書きのメモ。母さんからか?

 その質素なメモには、ただ一文、「さようなら」と書かれているだけだった。

 瞬時に俺の思考は答えを導き出し、自覚させた。

「ごめんなさい」

 母さんが出て行ったのは、俺のせいだ。心当たりがあった。

 俺は、母さん望んだ道に、高校に行けなかった。期待に答えられなかった。理想の息子に成れなかったから、母さんは愛想が尽きて、出て行ってしまったんだ。


「…学校行かなきゃ」

 自室に戻り、まだ着慣れていない制服を着る。机の上に置かれた、制服と同色のシンプルなスクールバックを手に取り、俺は家を出た。



 俺の通う学校、三岳南上高校は、俺の家から徒歩二時間ほどかかる。だからこんな朝早くから家を出なければならない。

 、それが三岳南上高校の渾名。

 まあ、あながち間違っていない、クラスには頭の悪い奴らばかりだ。それに学校には、クラスが一クラスしかないため、クラス替えが無い。卒業までの三年間、幸せハッピーでずっと一緒だ。

 築六十六年。それが校舎の年齢。おんぼろでいつ倒壊するか分からない。いや、いっそのこと今この瞬間に学校が倒壊して、今日学校が休みになってくれたほうが嬉しいな。

 まあ、そんな幼稚な俺の願望は置いといて、それぐらいヤバい外見の学校なのだ。この前なんか、他校のやつに呪われている、なんて噂されていた。馬鹿げてる。

 「…俺から言わせてもらうと、呪われてるのは、この三岳市だと思うけどな」

 なぜなら、この三岳市ではあまり大きな事故や事件が起きない。だが、裏腹に数年に一度、大人数の人が数日の間に死亡する事件が起こるのだ。

 この事件については、調べてもあまり詳しく載っていなく、いつまでも謎なままだ。

 まぁ、偶然かもしれないし、もしくはー。


ポツ

 いつの間にか雨が降ってきた。だが、生憎俺は傘を持っていない。

「…はぁ」

 土砂降りの中、俺は走り出した。



「何でそんなにびしょ濡れ何ですか。三崎さんざきくん」

 副担任の新村先生が、少し怒った口調で話す。

 遅刻した上に、こんなびしょ濡れなんだから。そりゃ怒るよな。

「はい」

と短い返事をして、教室を後にした。

 誰かの笑い声が聞こえた。今日は何かと運が悪い。


「あれ、ジャージがない」

 家に持って帰ったんだっけ?自分より背が高い、ロッカーの上から下まで探したが、そこにジャージはなかった。

 にしても、どうしようかな。このびしょ濡れの制服で一日過ごすわけにもいかないし。

「誰かに借りるのもなぁ…」

「どうしたの?」

「あ、高村さん」

 彼女の名前は高村真怜。クラスでけっこう人気のある女子だ。

「ってか、何でここにいるんだよっ」

「何でって、更衣室で着替えてたら、三崎くんの声がしたからきてみたんだよ」

「え、着替えてた?何で?」

高村さんが目を丸くした。え、何。

「覚えてないの?一限目は体育って、今朝も言ったのに…」

「今朝ってなに…?俺たち今日は、今初めて会ったよね?」

この学校が呪われてる説が濃厚になった。



 






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