第2話白狼のヴェラ
数日後……
―――ループス領、領主の城
「おかえり、ヴェラ。何も無かったか?」
ヴェラと声をかけられたは白髪の女性。彼女は肌まで白いアルビノである。
「えぇ、父上。特に威嚇などはされませんでした。私が驚いたのは私と同じくらいの歳の領主が2人もいたことです。……私もそう遠くないうちに領主となるのですよね」
ヴェラの瞳は少し揺れ、静かに目を伏せた。彼女の父、ロボ・A・ループスは苦笑した。
「私も若いままではいられないからな。ヴェラ、お前は賢い上に強い。そう簡単には潰されないのはお前自身がよくわかっているだろう?」
「……それに、しおらしくしても父の目は誤魔化せないからな?」
そう言われた瞬間、俯いていたヴェラはニヤッと笑うと、獣化して走り出した。
「コラっ!待ちなさい!」
ロボも獣化して走り出す……これがオオカミが治めるイヌ科の領、ループス領の日常。
「フフッ、父上ったら、私に追いつけるの?」
余裕の表情で廊下を駆け抜けるヴェラ。彼女の着ている服は獣化の際に邪魔にならないように仕立てられた特注品だ。それでいながら気品を感じさせる美しい服…をはためかせ、彼女は外へとまっしぐら。
「待ちなさいヴェラ!いくら今日が獣化訓練の日だからと言って廊下を獣の姿で走るな!」
父ロボも駆け抜けているが、彼の服は領主の服なので走りづらく、ドンドンと差が開いていく。城の使用人達はいつもの光景にクスクスと笑いながら、2頭のオオカミの全力疾走を見守る。
「ちょっ……ロボ様、ヴェラ様。廊下を走らないでください」
執務室の扉を開け、廊下に出てきたヴェラの執事フォルテ・ウルフレムが彼らを呼び止めるがお構いなしに城の庭まで突っ走る2頭。
「父上、覚醒獣化の制御練習に付き合って!」
ニコニコで呼びかけるヴェラに対し、少し息が切れかけているロボがグルルルと唸って呆れた様子。
「フォルテが着くまで私は獣化服に着替えてくる。お前も訓練服に着替えておきなさい」
獣化を解いて、人の姿に戻ったロボは壮年のシルバーグレイの男である。
「はーい、父上!」
覚醒獣化…戦闘特化の獣化であり、血が純血に近いほど強くなる為、純血ということはかなり重要視される。かつての獣の能力を最大限に引き出す為、未習得者がやろうとすると暴走する為、訓練をしなければならない。そして…覚醒獣化で理性の限界を超えてしまうと『怪物化』と呼ばれる身を滅ぼす状態になってしまうので、訓練は必要不可欠なのである。
「全く、廊下に出た途端お二人が全力疾走しているんですから……やめてくださいよ」
書類の束を抱えたフォルテはジト目で獣化訓練服に身を包んだ2人を睨む。ヴェラはケラケラと笑い、ロボはスマンと呟く。
「まぁ、いいでしょう…では、訓練開始!」
両者が光に包まれ、通常の獣化よりもより筋肉質な体つきとなってその美しい姿を現す。覚醒獣化の姿は美しく、強い。
しかし、己の理性をいかに保てるかが勝負である。銀狼のロボ、白狼のヴェラ。両者睨み合うと、ヴェラが動いた。相手の喉笛に噛みつこうと地を蹴る。ロボは体勢を低くし、逆にヴェラに噛みつこうと構える。すんでのところでヴェラは身を翻し、ロボの追随を躱し、咆哮をする。長く尾を引くその咆哮は、父ロボをも怯ませた。その隙を逃すまいと彼女は喉笛めがけて―――
「そこまでです、ヴェラ様、ロボ様」
フォルテが鋭い声で待てと止める。
「……ついに、私を倒せるまで成長したか」
娘の成長を満足げに、誇らしげに見つめる父の目には、少し寂しげな表情も浮かんでいた。
「父上、手加減してたでしょ?私を誤魔化そうとしないでよね?」
プンスコと怒るヴェラだが、ロボは苦笑する。
「いや、そんなことはないさ。私も老いてきたなぁ……ハハッ」
オオカミとは、連携で強さを発揮する種族だ。加えて、足で獲物を狩ると言うほどスタミナで勝負をする戦い方をするのである。
「全く、領主様達は本当に俊敏でいらっしゃいますね、貴方達には敵いませんよ」
領主ロボは48歳、娘ヴェラは22歳である。執事のフォルテは32歳だ。彼らオオカミは、群れを作る種族だ。リーダーであるロボとルーが最高位、ついで子供達の中で最も賢く強いヴェラが続き、その他兄弟、そして血縁関係のない者達…となるのだ。血縁が大事と言えど、近親相姦を繰り返すなどといったことはしない。一族諸共滅ぶことになりかねないからだ。ヴェラは、美しく賢い為……求婚者が絶えないのも事実だ。
「フォルテ、貴方は力で捩じ伏せるからそれはそれで私は戦いづらいわ。頼れる執事さん」
そう言ってニッコリとフォルテに微笑む。しかし、そんな彼女が男勝りでお転婆な性格だということを求婚者達は誰も知らない。
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