第38話 テスト終了
「5分前です」
『…………で、心臓、もしくは核近くの、魔石を取り出す。さらに、魔石は、放置すると、別の魔物を、誘引するので、やむを得ない、場合を除いて、持ち帰る、または、破壊しなければならない。誘引の理由として、魔石を摂取した、魔物が変異した、ケースが、認められており、魔物の本能が…………』
手が…!手がぁ…!!
『…………から、適切な解体が、求められる。お疲れ様でした!終了です』
「おわった~…………つかれた」
めちゃくちゃ肩が凝った。ペンを元の場所に返して右手を振る。
天井を見つめて目を休めていると、コロコロと鈴のような鐘のような音が鳴った。
「終了です。ふふ、時間ギリギリでしたね。用紙は回収させていただ…きま、す。」
笑顔で用紙を回収しに来た受付のお姉さんこと、ヘサさんが固まる。その目は解答用紙の文字を追いかけているようだ。
「…………。あっ、失礼しました。採点は時間がかかりそうなので、結果は後日ご連絡させていただくということでよろしいでしょうか?」
「あっ、全然!いいですよ」
「では、こちらの札をお持ちください。採点が終わりましたら、こちらの札が震えて色が変わります。そうしたら、この札を持ってご都合のいいときに再度ギルドにお越しください。その時の結果が合格でしたら戦闘試験をその日のうちに受けることになりますので、そのつもりでよろしくお願い致しますね」
「はい。分かりました」
ギルドのホールに戻ると、ランスとその肩に乗ったティーがこちらに向かってきた。
『お疲れ様です!』
「疲れただろう。宿に戻る前に食事にしないか?」
そう言われて、ここまで来るのに飲み物しか飲んでいないことに気が付く。意識してしまったが最後、盛大にお腹が鳴った。
「そうなんだよ~!おなか減ったし疲れたよ。腱鞘炎になるかと思った」
「ああ、それは分かる。あれは問いが曖昧でどこまで詳しく書くか分かりづらかったな」
「うんうん!まさか欄いっぱいまで書かされるとは思ってなかったよ…」
『ですです!でも、最低限の情報は抑えたと思いますので、きっと満点ですよ』
誇らしげにティーが胸を張る。かわいい。
「だといいなぁ。……というかギルドでご飯食べれるんだな!何が有るんだろ」
取り敢えず肩の荷が下りた俺は皆と異世界料理を楽しむことにした。
リッカが温かい異世界料理に舌鼓を打っていた頃、ギルドではリッカの試験監視を担当していたヘサがギルドマスターの部屋を訪れていた。
「ギルドマスター。少しお時間よろしいでしょうか?」
「おう。どうした?……その顔は何か問題でも起こったか?ったく、あいつらが投げた仕事が山ほどあるってのに…」
あいつらというのはドーンソルダート砦の兵士のことだ。流石にギルドも砦の動きに違和感を感じているが、仕事が増え過ぎて手が回らないのが現状である。
ギルドマスターと呼ばれた男は面倒だと言わんばかりに机に突っ伏した。
「問題といえば問題なのでしょうか……。今日、冒険者志望の方が試験を受けられたのですが」
「またかよ。……で?あの男前みたいに完璧な解答をよこしやがったか?面倒だから他の奴らみたいに素直にFランクから始めてくれないもんかね…」
「まあまあ、優秀な冒険者が増えるのは嬉しいことじゃないですか」
「そうだけどさぁ~」
ヘサは、ギルドマスターにリッカの解答用紙を差し出した。
「それよりも、こちらを見てください!」
だるそうに用紙を受け取ったギルドマスターは解答に目を通した瞬間、目を見張った。
「はぁ!?ランスも相当訳ありかと思ったが…。こいつは何モンだ?学者か何かだったのか?」
困ったようにヘサが呟く。
「そんな個人情報、聞けるわけないじゃないですか」
「…そりゃそうだな」
冒険者ギルドでは基本的に個人の実力さえあれば出自は関係ない。余程大きな犯罪歴がない限り、詮索は禁止されている。
これは冒険者ギルド創始者である、シズマ・ウェームラとロアール・コルテルが打ち立てた冒険者ギルドの在り方のひとつだ。彼らは言った。冒険者とは自由であるべきだ。国境に縛られてはならない。冒険者とは未開の地を探求する人全てを指す言葉であり、人種や身分などの隔たりがあってはならないのだと。
結果的には、ギルド運営資金や冒険者の収入源の兼合いで国との協力や商業ギルドとの取引、人民の理解が必要で、指名依頼等の義務が発生する運びとなってしまったのだが、それを上回る魅力があるのは確かだろう。
なぜなら実力をつけ名を上げることができれば、スラムの孤児であった人間でさえも大金を手に出来るのだ。貴族のように豪華絢爛な生活が出来る可能性だってある。危険な仕事においての担保は自らの命だが、もちろん命の心配をしなくても良い仕事も用意されている。これは貧民の生活を少しばかりでも向上させるきっかけにもなった。
このような理由から、問題が全くないとは言えないものの冒険者ギルドの在り方は多くの人々に好意的に受け止められている。
「ギルドの指針は絶対だ。信用問題に関わるからな…。ああ、ちょうど定期監査のやつと学者先生がくるのが明日だったろ。先生に答え合わせしてもらえばいいんじゃねえか?」
定期監査とは世界各国の冒険者ギルドの運営が適切であることを保証する為に行われるものだ。
加えて新種の魔物、薬草、ダンジョンなど様々な情報共有の為にも設けられているため監査員とともに各分野の専門家も共に訪れる。
「そうですね。色々な資料と照らし合わせてみたのですが、確認できない情報がちらほらと見受けられるので専門家の方に見てもらう方が確実でしょうね……」
「は~…。めんどくせぇけど、そうすっか…」
そう結論を下し、彼らの時間外勤務は幕を閉じたのだった。明日の残業の気配を感じながら…………。
「美味かった~!ごちそうさまでした」
『美味しかったです~』
「口に合ったようでなによりだ」
「いや~、海外のご飯とか食べたことないからさぁ、ちょっと心配してたんだよな。ほら、よく聞くじゃん。味付けが合わないとかさ?でも全然心配いらなかったな~。お腹いっぱいだよ」
お腹をさすりながら周りを見てみると、いつの間にやらギルドの中の雰囲気がガラっと変わっていた。
昼間は食堂のような感じでおばちゃんたちが準備をしてくれていたのに、今はバーのマスターみたいな人が切り盛りしているようだ。何て言うか、こう、語彙力がないけど大人な感じだ。今まで味わったことのない空気にわくわくする。
「ランス!何かここ酒場みたくなってない?」
「みたくではなく酒場そのものだな。昼間は食堂、夜は酒場になる。さぁ、食べたなら帰るぞ」
「えっ、もう帰るの!?ちょっとくらい飲んでも良いんじゃ…。ああっ!駄目だお金無い!ランス!ここのご飯代いくらだった!?」
ランスが呆れた顔でこちらを見る。
「リッカ…。まさか飲むつもりだったのか?未成年は飲酒禁止だ」
「俺、未成年じゃないんだけど…。ってあれ?俺って何歳だっけ?」
ランスの発言に反論しようとして、ふと考える。そういえば、この体の年齢を知らない。
ゲーム設定ではどうだったかな…。ミリアンヌちゃんは18歳だった。じゃあ、リッカは?設定では勝気な天才少女だったっけ。少女というからには未成年っぽいけど。
そもそもの話、この世界における成年が何歳からなのか分からない。
え?まじで俺、今何歳?
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