第36話 初めての冒険者ギルド
俺たちは今、冒険者ギルドに向かっている。
道中、宿屋に寄って部屋も確保してきた。外から来た人間が宿に泊まらないのは不自然だとランスに言われたら流石に断れなかった。ランスと同じ宿屋は満室で別の宿に泊まることになってしまったけど、お互いにマイホームの鍵は持っているからすぐに合流することになるだろう。
宿屋の料金はランスが立て替えてくれた。
また借金が増えてしまった。183タビン。メモしておかなければ…!
当面の問題はお金が不足していることだけど、今はそれよりも気になることがある。
「なぁ、ランス?何か俺たち、すっごい見られてる気がするんだけど気のせい?気のせいじゃないよな!?」
「ああ、そうだな。…だが、ここではいつもこのような感じだから気にしない方がいい。それほど酷い害意も感じられないからな。そのうち慣れる」
「ええ…」
『…あの女性、リッカのこと睨んでます!あっちの人も!突いてきていいですか!?』
「ははは。ティーは俺の肩で休んでいようね~」
不満そうなティーを宥めながら歩く。
そう。ランスは全く気に留めていないけど、ランスは街行く女性陣の注目を浴びている。隣を歩く俺は、とてもじゃないけど落ち着けない。
ゲームと妄想でしか恋愛を知らない俺でも分かる。視線が痛いとはこのことだ。これは嫉妬されているやつだ!俺とランスはただの友達なのに…。俺、男なのに…!
俺がイケメンだったなら言ってみたい。「ああ、いつもの事だから(キリッ)」って言いながらキラキラエフェクト飛ばすやつな。
夢を見たって仕方ないし、現状の居た堪れなさを誤魔化すために俺はランスに話しかけた。
「…ランス~。ランスってさ、リリアナさん以外に告白されたり、アプローチされたことないの?」
「ないな。女性はもっと話が上手い男の方が好きなのではないか?……まぁ、リリアナはこのような私で、いや、私がいいと言ってくれたわけだが」
「…ふ~ん」
ランス、普通にのろけを会話の中にぶっ込むようになってきたな。仲良くなれてきてる証拠だろうか。
…ただ、今のランスの言葉を、男として大事な煩悩を奪われる前の彼女いない歴イコール年齢だった俺が聞いたら血の涙を流していたと思う。もしくは心の中で爆ぜろ!って叫んでいるか。
そう考えると今だけは抑制されていて良かった。友達に嫉妬とか、きっと辛いもんな…。でも、ティーには聞いてもらおう。
「ティー、聞いた?ランスがもてないとか絶対ウソだよね?」
『そうですね…!ここまで鈍感さんだとは思ってなかったです。取り付く島がなさ過ぎてアプローチできないだけだと思います。きっと涙を飲んだ女性は数知れずですよ!』
「だよなー」
二人で盛り上がっていると、ランスが「楽しそうだな」と声を掛けてきた。こうやってたまに声を掛けてくれるのはティーと話していても怪しまれないようにしてくれているんだろう。安心してティーと喋れるのはランスのお陰なんだけど、やっぱり視線が痛い。
「ていうか、男もこっちチラチラ見てない?ランスって男にももてるの?イケメンってすげー」
「いけめんというものが何かは知らないが……リッカ。君は自分の外見を客観的に見ろ。私の経験上、華奢で身なりの良い年頃の少年少女は犯罪に巻き込まれる確率が高い」
「うわ~。まじで?カツアゲに遭わないように気を付けなきゃな」
「人攫いにも注意するように」
「はーい」
『う?う~ん。二人とも、どこかずれてるんですよね…』
そうして辿り着いた冒険者ギルド。
俺は、受け付けのお姉さま方から熱い視線を向けられている。主に嬉しくない方の視線だけど。顔は笑ってるんだけど怖い。なんか怖い。顔面に穴空きそう。
ランスの後ろに避難しようとしたら、ランスは普通に受け付けに歩いていってしまったので仕方なくついていく。正直、近付きたくない。
「依頼を達成した。確認を頼む」
「はい!お疲れ様です。早かったですね。処理致しますのでしばらくお待ちください。…………ところでランス様。そちらの可愛らしいお嬢さんは……?」
確認作業を終えた受け付けのお姉さんは、依頼達成の確認札と書類を他の事務手続きをしているらしい人に渡すと、俺の存在に切り込んできた。
「彼女はリッカだ。彼女の冒険者登録とパーティー登録も頼みたい」
ランスの言葉にギルド内がざわついた。
心なしか受け付けのお姉さんの笑顔が引き攣っている気がする。
「かしこまりました。ただ、初回登録でFランクスタートですのでランス様とすぐに同パーティーを組むのは難しいかと…。初回登録のFランク冒険者は余程実力が認められない限り、Cランク以上の優良冒険者から1か月程、教育指導を受けなければならない規則があります。もちろん、ランス様は仕事が完璧で信用がありますが、現在のランクはD+ですので教育指導には別の方についてもらわなければなりません」
「ああ…、そういえばそんな制度があったな」
「えっ!?ランスってDランクなの?」
勝手にランスの事を高ランクだと思っていたので、うっかり声に出してしまった。ランスに話しかけたつもりだったけど、その答えは受け付けのお姉さんから返ってきた。後ろの方で呼び捨てがどうとか聞こえてきたのは気にしないことにする。
「はい。とても凄いことですよ。ギルドで筆記試験、戦闘試験をクリア出来ればFランク以上から始めることが出来まして、教育指導のほうもギルドの方で数日の講習のみになります。ただ、ランクは実績が無いことからDランクまでになりますけどね」
「そうなんだ…!」
ランスは冒険者登録してから、まだ日が浅かったのか。砦で働いてたって言ってたもんな。
ということは、俺がこのまま冒険者登録するとランスと別パーティーに入らないといけないのか。
それは嫌だ。時間がもったいない!
どうするか考えてみるけど、受けるか受けないかの二択しかないことに気が付いた。
それなら俺も試験を受けてみればいいじゃないか!もしかしたら、女神様達のお力でどうにかなるかもしれないし…。結界の使い方がなんとなく分かるのと同じように、試験問題も分かるかもしれない。なんだか名案に思えてきた。
「それって、俺も受けられますか!?」
「はい。誰でも受けられます…けど、大丈夫ですか?」
お姉さんは困った顔でランスを見た。俺もそれに倣ってランスを見上げると、ランスも不安そうな顔をしている。
…強面男を撃退出来なかった負の実績があるからな。気持ちは分かる。
でも、あれから俺だって、どんな戦い方ができたのか考えたんだ。今回は不意打ちみたいなことは無いだろうし、大丈夫なはず。…多分。だって試験だし。失敗しても命までは取られないはずだ。
「……勝算はあるのか?」
時間が限られているのはランスも同じだから反対はしてこない。やっぱり顔は不安気だけども。ここは自信を持って言いきって…!
「あるよ?………多分。何も無ければ。……きっと、いけないこともない…気がする」
…………。しまった。いつもの癖が出た。ランスがジトっとした目でこちらを見ている。
だって、しょうがないじゃないか。大風呂敷広げといて結局…ってなったら恥ずかしい。
「自信がある者のもの言いではないが…、分かった。やってみるといい」
「お、おう!頑張るよ…」
受け付けのお姉さんも心配そうにこちらを見ている。
「では、受けられるという方向性で話を進めていきます…。ではまず、おおまかな流れをご説明いたしますね。始めに冒険者として必要な知識の筆記テストを受けていただきます。合格であれば戦闘試験を受ける資格が得られます」
まずは筆記か。ぶっつけになるけど何も分からなかったらどうしよう。いや、わからなかったとしても俺にはティーがいるからなんとかなるだろう。…なるよな?
「…分かりました」
「では、ご案内いたします」
「リッカ。私はギルド内で待っている。何と言っていいか分からないが…、無理はするな。焦っても良いことはない」
「うん…。分かった。ありがと…」
やばい。どうしよう。めちゃくちゃドキドキしてきた。俺、大丈夫かなぁ。やると決めたのに徐々に不安になってきた。
俺の緊張が伝わったのか、静かにしていたティーが声を掛けてきた。
『大丈夫です!私がリッカをサポートさせていただきます!では、ちょっと外の小鳥に交じってきますね』
ちょっと待って。一緒にいてくれるんじゃないのか。そう声に出したかったけど、目の前には受け付けのお姉さんがいる。
挙動が不審になりそうな体を押さえつけて静かについていく。
色々な事がグルグルと頭を巡って不安が募る。勢いよく受けると言ったものの、試験内容も知らない、自分がどのぐらい強い人と渡り合えるのかも知らない。
マジでどうしよう、難しいのかな…。
……って、そもそも俺、この世界の文字を書けるだろうか。道中の看板は読めたからって筆記を軽く考えすぎていたかもしれな…
「こちらになります」
「ぅぁはいっ!」
急に話しかけられて焦って変な返事になってしまった。
「ふふ、そんなに緊張しなくても大丈夫ですよ。席にどうぞ」
開かれた扉の中。机の上に準備された用紙と筆記用具。
俺は席に着いた。
どうか…!どうか…!少しでも希望が持てる選択問題であれ!もしくはマークシート!
そう願いを込めて見た解答用紙には、すっきりと広い欄が設けられていた。
これは俺、やらかしてしまったのでは?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます