第31話 新機能
ランスに案内された場所は、まばらに商店が並んだ通りにある路地裏だった。あまりにも人気のない場所だと、そこまでに行くまでに目撃されてしまうらしい。確かに滅多に人が来ない場所に行こうとしている人がいたら俺も珍しくて見ると思う。
ということは、ここは人が来てもおかしくない場所と言うことなんだけど、ティーの目とランスの気配察知能力があれば問題ないらしい。すごい。
不自然に見えないよう速さでゆっくり歩きながらティーの合図を待つ。
『今なら大丈夫です!』
「オッケー。ランス、大丈夫だって」
「ああ、こちらも問題ない」
「りょーかい」
二人のオーケーを貰って俺はマイホームを召喚する。
「【ここを今日のマイホームとする】!」
「なっ…!」
扉の出現に驚くランス。
だけどいつ誰が来るか分からないので早く入ってもらおう。
「早く入って入って!」
ティーを肩に乗せて、ランスをマイルームに押し込み扉を閉める。
「ふう~……、あれ?なにこれ」
「こ…これは…どうなっている?照明は全て魔法灯か?どれだけの魔石を使っているんだ…!」
マイホームに驚きを隠せないランスも気になるけど、俺としては別の事が気になる。
「ティー!?この前と何か変わってるよね!?」
初めて入った時は部屋に直通だったのに、今日はお洒落な玄関風だ。
『あ、そうなんです。お仲間のお部屋も出来るように作られてますよ!まだ登録していませんので今は、デフォルト共有設備のダイニングキッチンへ続く扉が増えています。なので、最初に入ったリッカのお部屋のキッチンは簡易のものに置き換えられています。これらの設定の変更は端末から可能です。…さぁ、これでランスのお部屋を作りましょう!』
ティーがゲームのチュートリアルみたいなことを言いながら端末っぽい機械に飛んでいく。
「そうなの!?そんなカスタム自在なの…!?」
ローグライクゲームの自動生成ダンジョンみたいに、入った時々で構造が変わるのかと勘違いしそうになった…。
まぁ、居住区しかないから気分転換には良いだろうけど。
『ルームのデザイン変更も端末から可能ですよ!』
「あ、出来るんだ…」
サービスが凄すぎる。端末を覗き込みながらフリックでページを捲っていくと、アンティーク調から和風モダン、カントリー調など多種多様のラインナップだ。せっかくだから、気が向いたらたまには変えることにしよう。
「それはそうと登録したらランスも部屋が出来るって言ってたけど、この端末どう使うの?」
玄関の扉横の壁に設置されている大小二つの画面を指差す。
『これはですね、手の平を下のパネルに当てて、上のパネルに目の高さを合わせて覗きこむと登録が完了するらしいです』
「生体認証的なものだったの!?」
女神様たちの気合いが凄い。
「…リッカ、この部屋は一体何なんだ?このような設備は見たことがない」
俺が戸惑っていると、俺よりもうろたえているランスが声を掛けてきた。
「えっと、こっちに来るときに女神様が持たせてくれたスキルだよ。こっちきて」
ランスを端末の側へ呼びよせて、さっき聞いた手順を実行してもらう。チカチカと点滅するパネルにおっかなびっくり手を当てたりパネルを見つめる姿は、いつもの隙がないランスとは違って少し親しみが持てた。
作業が終わり、ゆっくりと端末から離れるランス。
「?…これで何が…」
そう言いかけた途中、ランスの前に光り輝くカードキーが現れる。それは彼の手に収まると光を失った。
「おお~、カードキーだ」
「カード…キー?キーとは…、この薄い板が鍵なのか?」
「うん、そうそう。使い方は多分ティーが知ってると思う」
ランスとカードキーについて話していると、今度は部屋が薄っすらと光り始める。
すると、一般家庭の玄関と廊下を合わせるほどしかなかった空間が広がり、部屋に続いているだろうドアが増えた。
さらに、玄関横の広くなったスペースには休憩に丁度良さそうなテーブルと椅子が鎮座している。近くにはカップ式の自販機まであった。ジュースからスープまで飲み物のラインナップが様々だ。自販機を確認すると、なんとタダで飲めるやつだった。もちろんティーの止まり木もある。
「ええっ、すごっ。最高じゃない?というか何で?こんなんあるなら最初から欲しかったんだけど!」
普段、何を飲むか考えるときに水を除外してしまう俺にとっては非常に嬉しい設備が増えてくれた。水なんて飲食店で出されたときか薬を飲むときぐらいしか選ばない。お茶でも何でもいいけど味が付いていたほうが飲みやすいと思う。
『女神様が言うには、リッカが認めたお仲間をホームに招待した際に、役立つ設備が増えるそうですよ!』
「そうなんだ…。やっぱり俺の作戦は間違ってなかった訳だ!それにしても、女神様やるなぁ…」
設備のアップグレードがあると分かれば俄然やる気が湧いてくる。そこから友達作ろう大作戦が捗れば味方が増える訳で、味方が増えれば女神様からのお使いを達成できる確率も高まるということだ。これは頑張らねば!
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