第29話 フォーグガードの通貨単位はタビン
お金ください。
楽しかった時はいずこへ。
どうやら街に入るには入場料がいるらしい。ランスさんは冒険者ギルドの冒険者証を持っていて、滞在の許可を得ているのだとか。手続き済みの冒険者証があれば基本的にはフリーパスだという話だ。俺も欲しい。
ランスが立替を提案してくれたけど、流石に申し訳なくて丁重にお断りさせてもらった。一応、砦で貰ったものがあるし、それを売ればどうにかなるだろうか。
こればかりは自分で判断できないので相談してみると、街の外は税金が掛からないから外にも店はあるという話だ。ゲームでは基本的に町の外にお店は無い印象だったのにな。やっぱりゲーム知識は当てにしない方が良いかもしれない。
外に店が有るなんて便利じゃないかと思ったけど、話を聞いてみれば良いことばかりじゃなかった。
街の外での商売のメリットとしては税金が掛からないし手続きも簡単。デメリットとしてはモンスターなどの対処は各自で行わなければならない。その分、商品の状態や金額は店によるのだという。
お店をやっている人も色々で、冒険者上がりの人や街の中で商売できない訳ありの人、流浪の旅商人などが街の外でお店をやっていることが多く、しっかり目利きが出来ないとぼったくられる事もあると言っていた。
あと、特に口酸っぱく言われたのが宿の話だった。外の安宿などには女性一人で泊まるのは絶対にやめた方がいいと忠告された。まあ俺にはマイホームがあるし関係のない話だ。
ちなみに、フィリコスネーブの外にある店はドーンソルダート砦のお膝元だから、他の街よりは治安がしっかりしているそう。俺としては、それ以前に老若男女筋骨隆々の強面さん達が沢山いるので、今みたいな事情が無い限りはお近づきになりたくない。
でも街の中で買い物をするには入場料が必要で、入場料を得るためには外でアイテムを売らなければいけない。ということは外の店を利用しなければならない。怖いから嫌だとは言っていられない。すっごい嫌だけど。
結果から言えば、大金と言う程ではないがお金は手に入った。売っている物の相場が分からないから不安だ。足りるように祈るしかない。
俺もランスも見た目が怖くないからか、ファンタジー系の物語でよく有る物騒な男たちに絡まれる案件もあったけど、ランスがサクッと追い払ってくれた。
俺?俺は後ろで空気に徹してた。男としてどうなんだ俺。いや、今の俺は美少女だからセーフだ。…セーフだと思いたい。
さて、色々あったけど街に入ることが出来た。
ランスは強面男たちを入口の兵士に預け、何かの札を貰っている。聞いてみれば、ギルドで成功報酬を貰うために必要らしい。
リアル冒険者ギルドか…!これは行ってみなければ!
「リッカ。君はまず…その服を着替えたほうがいい。案内しよう」
「あ、そっか。そうだった。ありがとう」
ランスに言われて自分の姿を見る。留め具として使っているブローチはピンの部分がひしゃげてしまっていて今にも壊れそうだ。カーテンも傷んでいる。街中で脱げでもしたら俺は変態さんの仲間入りだ。
異世界物の物語で定番の冒険者ギルドに行く気満々だったけど、いつまでもカーテンに頼りっぱなしじゃ良くない。冒険者ギルドは後の楽しみに取っておこう。
そして辿り着いた服屋で、俺は絶望していた。
そう。全財産で衣装一式も買えないのだ。
つまり、脱カーテン出来ない。けど、カーテンのHPは尽きかけ。HPバーがあるとしたら赤色だ。
考えろ俺。
俺にはマイホームがある。
脱衣所に置けば勝手に洗濯済みになるから、ひとまず最低限。洗い替えは必要ない。最低限の装備を整えればいいだけだ。
さあ!俺は服についてはよく分からないから店員さんに聞く!
「すみません!下着と、長袖のシャツみたいなのと…なんかこう…足をガード出来そうな服ってありますか!?」
「はいはい!あら…!ボロボロじゃない!何があったのかは聞かないけど…、かわいそうに…。ちょっとまってね」
何か子供扱いされてる気もするけど、店員のおばさんは笑顔で対応してくれた。優しそうな人で良かった。
「えーとえーと、一番安いので…」
「分かったわ。…そうね、この辺りかしら。下着は一式で良いの?」
「一式?…えー、えっと、多分。はい」
「サイズは?」
「サイズ!?えー、えー…」
服を選び終わる頃には俺は酷く消耗していた。
自分の体のサイズも把握できてなかったのは痛かった。店員さんが試着を勧めてくれるのはいいけど、そうなるとカーテンを脱がなきゃいけなくなる。イコール俺がとんでもない格好をしていることがばれる。まだ変態とは呼ばれたくない。いや、永遠に呼ばれたくない。街にビキニアーマーでも装備している冒険者でもいればいけそうなものだけど、誰一人としてビキニアーマーみたいな露出度高めな服を着ている人はいなかった。服が大体のサイズになってしまうけど、危険は冒すべきじゃない。ちゃんと服を着て、お金を貯めてまた来たらいい。
「じゃあ、これ全部で1086タビンね」
「あ、はい」
財布の中を覗く。まだ慣れないフォーグガードの通貨なので並べて数えてみないと分かりづらい。これは足りるのか?
「ん、ん~?」
トレーに中身をひっくり返す。数えてみよう。
「いーち、にー、さん……」
店員さんも覗きこんで一緒に数えてくれる。
「………たりない」
「そうね…、133タビン足りないわね…。お父さんお母さんはいるの?」
どうしよう!!!足りてない!!!!
「ちょっと待っててもらっても!?」
「え?ええ、いいけど…」
俺はダッシュでランスの待っている店の外へ走る。
「ランス…!」
「?…どうした?その様子からして買い物は終わっていないようだが」
ごめんよ、ランス…!
俺には、もう…この手しか思いつかないんだ。非常に良くないかもしれないけど、俺には今すぐ服が必要なんだ…!
「ごめん、133タビン貸して…!」
両手を合わせて頭を下げる。
これ大丈夫か。出来立てほやほやの友情にひびが入ったりしないだろうか?
誰か今すぐ友情の守り方を教えてくれ…!
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