第28話 友達作ろう大作戦

 シャルロッテ様による自作自演の余波を受け、友達作ろう大作戦が頓挫しそうになっている俺は必死にランスさんを説得した。

 それはもう容赦なく真実を突き付けた。先代神子の華麗なる善行から悪行まで。全てはティー情報だけれども。その中には、シャルロッテ様が仕組んだ貴族没落のトリックの解説まであった。貴族没落については、有名な歴史家も疑問視している題材だったようだ。

 これが決め手になり、その結果。


 ランスさんは遠い目をしている。


「…今まで私が学んだ歴史は何だったのだ」


 フォーグガードに来て間もない俺ですら驚きの情報で満載だったのだから、この世界に慣れ親しんできた彼の心境は相当なものだと思う。

 なんか本当にごめん…!


「私は、この真実を世に打ち明ければいいのか…?墓場まで持っていくべきなのか…?」


 なんかランスさんの悩みを増やしてしまったような気がする。でも目的の為だ。可哀想だけど気にしないことにした。


 これでやっと友達作ろう大作戦が進められる。

 ランスさんが俺と友達になって気安い関係になれば、神子が貴族に不幸をもたらす存在ではないとアピールできる!そうなれば俺は晴れて、親しみやすく可もなく不可もない神子として活動できるのではないだろうか。提案としては良い感じだと思う。


「えーっと、まぁ、その辺はランスさんが身をもって体現していくという方向性でどうですか?」


「身をもって、体現…ですか?」


 言い方が遠回し過ぎて伝わらなかったみたいだ。こういうのは直球で言った方がいいのだろうか。

 なんだか緊張してきた。


「ランスさん!俺と友達になってくれませんか!!」


「えっ?」


 いつもの引き締まったランスさんはどこへやら、口はぽかんと開いていて何を言っているのか分からないといった風だ。


 おかしい。ランスさんがフリーズしてしまった。

 失敗した?友達ってどうやって作るんだ?

 ああ、そうか。会って一日で友達って普通はないのか?趣味とか性格とかお互い知らないものな!気が早かった。もう少し距離を詰めてからの方が良かったか…!


「えーと、えーと…!いきなり、こんなの困りますよね!すみません!…俺、ずっと誰とも友達になれなくて、すごく友達ってものに憧れてたんです!いつも一人だったし、こんなときじゃないと友達作ることも出来ないし…?あはは、こっちに来て、ティーが友達になってくれたからって調子に乗り過ぎました。すみませんでした…忘れてください」


 焦った俺は早口で言い訳を並べていく。なんだか情けなくなって語尾に勢いがなくなってしまった。

 諦めてないで日本で友達の作り方について調べておけば良かった。

 友達とはどうやってなるものなんだろうか。経験がないから全く分からない。絶対変な奴だって思われた。ここから巻き返すにはどうしたらいいんだ…!


 俺が頭を抱えてどうしようかと悩んでいると、先に動いたのはランスさんだった。


「すまない。驚いただけで友人になりたくない訳ではないんだ。分かった。今日から私たちは友人だ」


「え…」


 やった。やってしまった。

 これは気を使わせたやつじゃないのか。嫌な汗が出てきた。


「で…でも」


 ランスさんの顔を見上げてみると、何故か微笑んでいる。どういうことだろう。


「そして友人として言わせてほしい」


「はい?」


 その表情からスッと微笑みが消え、厳しい顔つきになった。


「君は無防備が過ぎるのではないだろうか。今日は私が通り掛かったから良かったものの、管理が甘い見通しの悪い森を歩くべきではなかったように思う。誰の助けも入らない可能性すらあったんだぞ。君は自分の外見について客観的な目で認識した方がいい」


「うっ…、はい」


 唐突にランスさんのお説教が始まってしまった。


「出会ったのが私だったから良かったものの他の者だったらどうなっていたか分からないぞ。私は歴史教育を受けているから君の言葉を信じることが出来たが…。教育を受けていない者が聞けば、先程の話は受け入れる者の方が少ないだろう。そして、私が邪な人間だったらどうするつもりだったんだ?甘言を弄して君を騙していたかもしれない」


「でも、女神様がランスさんは大丈夫って…」


「でもじゃない。それは完全に安全を保障するものじゃなかったろう。実際この盗人に襲われていた」


「ぐうぅ…。それは…そうだけど、ランスさんも人のこと言えないじゃないか。こっちは助かったけど、俺のこと簡単に信じたし?」


 ランスさんに対抗して俺も言い返す。この件に関しては俺だって気になっていたのだ。

 ジトっとした目で見てやるとランスさんは今まで見せていた柔らかな笑みとは違う、楽しそうに白い歯を見せて笑った。


「それに関しては大丈夫だ。私は嘘を吐くのは不得手だが、嘘を見抜くのは得意なんだ。リッカ、君は心配になるくらい分かりやすい」


『たしかに!それは分かります!』


 横からティーまで同意してきた!


「ティーまで!?俺ってそんなに分かりやすいの!?」


『はい!感情表現が豊かでとっても良いと思いますけど、ちょっと心配ですね!…ふふふっ』


 ティーがランスさんの方に移動して、ランスさんと一緒に笑い始めた。


「ははっ。これに関しては使徒様も俺と同じ考えらしい」


「ちょっ、ランスさん!ティー!酷いぞ!」


 俺はムッとして二人を睨むと、ランスさんが手を差し出してきた。不思議に思ってランスさんを見上げる。


「やっと普通に話すようになったな。さて、素の私はさっきのように気になったことは口に出す性格だ。厳しいことも言うかもしれない。それでも私と友人になってくれるのか?」


「え…」


 差し出された手をじっと見つめる。

 じわじわと胸のあたりが熱くなってきた。いつぶりだろうか。今すぐ走り出したいような、こんなにワクワクした気持ちを感じたのは。自然と笑顔になっているのが自分でもわかる。

 会って一日目だし、気を使ってくれているのも分かる。だけど友達になろうと言ってくれた。そうだ、これからだ。これから仲良くなっていけばいいのだ。


 俺は両手でランスさんの手を掴んだ。


「うん!よろしく!」


「ああ、よろしく。リッカ、俺のことはランスでいい」


「うん!うん!ランスな!」


 俺が年甲斐もなくはしゃいでいると、ティーが俺の肩に戻ってきた。


『私も!私もお友達になりたいです!』


 どうやらティーも俺と同じく友達作ろう大作戦を実行したいらしい。俺の顔に頭を擦りつけて催促してくるティーは可愛い。


「ランス。ティーもランスと友達になりたいって」


「そうなのか。それは光栄だ。ティー、と呼べばいいのか?」


『ですです!よろしくお願いします!』


 ティーも嬉しくて堪らないのか俺とランスの周辺をクルクルと飛び始めた。


「ティーは何と言っているんだ?」


「よろしくって言ってる!めちゃくちゃ喜んでるよ」


「そうか。良かった」


 そうして俺たちは楽しくフィリコスネーブへと歩を進めたのだった。

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