第23話 どうにか無事に

 もと居た世界にはいなかったタイプの人の登場に驚きが隠せなかった。(もっとも人付き合いは最低限だったので、どこかには存在していたかもしれない。)イケメンで喧嘩が強い。普通に少女漫画のキャラクターとして出てきそうだ。この男、絶対もてる。


 俺の返事が中途半端だったからか、ランスさんの顔が少し困った顔になった。


「…すまない。縄で縛る方だったのだろうか」


 天然さんか!?それとも真面目さんなのか!?


「いえ、そっちは見てたので大丈夫です!助けてくれてありがとうございました。お礼…と言っても本当に大したものは持ってないんですけど」


「そうか。…この件については気にしないでほしい。彼らの捕縛は私の仕事だ」


「あ、ありがとうございます。おかげさまで、ちょっと掴まれてた腕が痛むくらいで済みま…し…ああああ!!!」


 俺は大事なことを思い出した。俺の為に頑張ってくれた小さな友達のことだ。

 驚いて飛び上がっていたランスさんは、すぐに切り替えたらしく、鋭い雰囲気になった。


「どうした?何か問題でもあったのだろうか?」


「あの…!白い小鳥を見ませんでしたか!?俺を助けようとして…!あいつに吹き飛ばされて!それで…それで…その直後までは声が聞こえてたんです!どうしよう!はやく探さないと…!」


「そうか…。なら、私も探すのを手伝おう。どの辺りに飛んでいったのかは覚えているか?」


 俺は気が急いていて、ランスさんに場所を伝えるより早く、最後にティーの声が聞こえた方に走り出した。


「多分、あっちだった…と思います!」


「! リッカ嬢、危険があるかもしれない。私が先行する」


 ランスさんが俺の前へと走り出て、やんわりとした手つきで俺を止める。この人といると、まるで自分が要人にでもなったような気分になってくるなぁ。


「…分かりました。お願いします」と言って、焦る気持ちを抑えながら大人しく後ろについていく。こういうのは慣れた人の邪魔したら駄目だよな。


 少し歩いた先で、ランスさんが低木の前で膝をつき中を覗き込んでいる。


「あの、いましたか?…ぅわっ」


 俺が声を掛けると、低木の奥の茂みからネズミのような生き物が勢いよく逃げていった。


「…小動物の気配を感じたのだが違ったな。別の場所を探そう」


「けはい」


 この男、ただ者じゃない。






 2~3回、似たようなことを繰り返した頃。未だティーは見つかっていない。


 もしかして、他の生き物に攫われてしまったんじゃないだろうか。打ち所が悪くて、あの後…。

 むくむくと嫌な想像が膨らんできて、俺は半泣きになりながらティーを探し続ける。ランスさんは何も言わず、ティーを探してくれている。


「ティー~…!俺の初めての友達なのに…俺がもっとちゃんとしてれば…」


「リッカ嬢。…静かに」


 グズグズ言っていたらランスさんに注意されてしまった。少しくらい弱音を吐かせてくれても良いじゃないか…と思ったけど全面的に俺が悪いので黙った。


 何となく居心地が悪く、チラッとランスさんの方を窺ってみると、真直ぐ前を見据えて何故か槍を構えていた。そして。


 振りかぶって。


 投げた。美しい投擲フォームだ。


 外から自分を見ることができたなら、俺はぽかーんと間抜けな顔をしていただろう。


『ギャァッ!!』


 何かに当たったらしい。わ~…やっぱり当たるんだ~。


『…リッカ~…』


「ティー!」


 ティーがどこかにいる!


「ランスさん!どこかにティーが!」


「…こっちだな」


「あ、はい。お願いします」


 ランスさんは迷いなく小さな葉と枝が密集している低木の下の方の枝を持ち上げた。パキパキという音と一緒に『ひぇっ』と声が聞こえた。ランスさんが枝を持ち上げた状態で固定してくれているので、俺は地面に頭が付くくらいに姿勢を低くして茂みの奥を覗き込んだ。


「ティー!大丈夫か?怪我は?」


『…リッカ!無事だったんですね…!ちょっとクラクラしますけど私は大丈夫です!』


 俺は隙間に両手を突っ込んで、ティーを拾い上げる。良かった。血とかは出てない。


 ティーの真っ白ボディを確認していると、ランスさんが興味深そうに顔を近付けてきた。


「君の友達はとても賢いな。魔物に気付かれないよう、この中に隠れていたようだ。気配に集中していなければ見落とすところだった」


『あっ、そうなんです!あのフォレストハウンドがいて声も出せないし出られないしで…クラクラして飛ぶのも難しかったので…じっとしてました』


 俺は両手でティーを包み込んだまま、立ち上がる。


「そうなんだ!さすがティー!良かった~…」


「念のため、回復魔法をかけておこう。本職には劣るが何もしないよりは良いだろう」


 そう言ってランスさんが手をかざすと、淡い緑色の光がティーを包み込んだ。

 目を閉じて受け入れているティーは、とても気持ち良さそうにしている。


『ふわぁ…癒されます…』


「えっ、魔法まで使えるんですか?」


「ああ、そうだな。しかし得意という程でもないから、あまり期待されても困る」


 ランスさんは困ったように笑う。伏し目がちに笑う顔は何故か影があるように見えた。

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