第19話 俺の救世主
「おい、お前は辺りを警戒してろ」
「へ~い、わかりやしたよ。でもよぉ兄貴、俺もあとで…」
強面男AがBに命令している。隙を見て逃げ出さなければと思ってはいるものの、足がプルプルしてしまって上手く走れる気がしない。その震える脚のせいで立っているのが精いっぱいだ。歩き通しで疲れているせいか、はたまた恐怖のせいか。武者震いでないことは確かだ。
「ったく、ここじゃムリだろうが。逃げ切ってからだ。さっさと行け」
強面男たちの会話が終わってしまった。
どうにかこうにか足を動かして後ずさるが大して意味をなさない。焦っている間にも強面男Aが距離を詰めてくる。ああ、そうだ結界を!と思ったが遅かった。無意識に胸のあたりでカーテンを握り締めていたらしく、強面男に手首を掴まれてしまう。
「うわわ、は、放せよ!」
「ちっ暴れんな。おとなしくしてなきゃ痛い目みるぜ?」
おとなしく有り金全部よこせって!?ジャンプしたって小銭の音もしないけどな!
…あっ、俺お金持ってないじゃん。
「ま…待って待って!俺、お金持ってない!だからさ、こんなことしたって何も出てこないって!」
話してる間にカーテンが引っ張られてブローチがひとつ弾け飛ぶ。他のブローチはまだ持ちこたえているがカーテンから嫌な音がする。これ以上引っ張られたらよろしくない。
俺の必死の呼びかけに相手の力が少し緩む。手首は離してくれないが、今のうちに体勢を整える。片手でしか押さえられないのが辛いところ。出来るだけ胸元のカーテンを手繰り寄せておく。
「あ?くくく、お前、どこの箱入りだ?…ま、安心しろよ。俺らが楽しんだあとで、お前が金になるんだよ」
「俺が…お金になるとか…!意味分かんないこと言うなよっ!」
こいつは不味い。まさか人を甚振るのが趣味なやつらなのか?しかも俺が金になるって?こんな異世界にも臓器売買とかあるんだな!
俺の言葉に強面男Aは気持ち悪い笑い方をやめて、呆れ顔になった。
「本気でわかってねぇのか?…いや、好都合か。これから嬢ちゃんがどんな顔で泣くのか見ものだなぁ?ええ?」
強面男が厭らしい笑みを深めてカーテンを握っている手を取ろうとする。
なんか赤ら顔になっててマジで気持ち悪い。
ていうか、あいつ何て言った?俺のこと、嬢ちゃんって言った?何言って…
…あ、そうだった。
今の俺、超絶美少女だった。
青年漫画とか深夜アニメとかラノベで美少女が荒くれ者に絡まれた場合、高確率で読者、視聴者の男子の目が釘付けになるような、今の俺にとっちゃとんでもない事態になる!なお俺の場合、結界以外の戦闘力は皆無、助けてくれる主人公はいないものとする!すなわち、マジでヤバい!!!
「うわあああああ!!!やめろよーーー!!!やだって!!誰かーーーー!!!」
「こんな森の中で叫んだって無駄だぜ。おら、来い」
強く引っ張られた衝撃で、カーテンがビリっと音を立てた。はやくどうにかしなければ。余裕のない頭で必死に考える。
そうだ、威嚇だ!こういうときは威嚇をするんだ!い、いざとなったら、こいつの…う、腕を結界で…切り…、切り落としてでも逃げないと…!
「本気でやめろよ!おっ、俺が怒ったら怖いんだからな!お前ら【結界】ってスキル知らないのか!?」
強面男がチラッと、こっちを見た。成功か?
「ぶはっ、何を言い出すかと思えば…。知らねぇな、そんなもん。はったりにしたって、もうちっとマシな嘘にするだろ」
バカにしたように笑われた。
「えっ!?」
何故…。こんな便利で危険なスキルだったら持っている人は重宝されるだろうし、誰だって欲しがるはずだ。それを知らないということは…。
まさか、俺の貰ったスキルって…、大御神様と女神様お手製の世界に一つだけのスキルの可能性が!?
いや、あの御二柱かなり張り切ってたもんな!有り得る!!!
「うぐぐぐぐ…!いーやーだーーー!!」
必死で脚を突っ張って抵抗するも、ブローチで留めている部分のカーテンの裂け目が大きくなっただけで終わった。相手との力の差も大きくて、抵抗も空しくどんどん引きずられていく。本当に不味い。本気でこの強面男を攻撃することを視野に入れなければならないのか。
「ちっ、いい加減にしろ!痛めつけられねぇと分からねえのか!?」
「ひぃっ!!」
その時だった。
『リッカ!?大丈夫ですか!?』
待ち望んでいた声が響き渡る。非力な彼女にこんなことをさせるのは正直気が引けるのだが、もう頼れるのはティーしかいない。
「ティー!助けてーーー!!!」
『分かりました!任せてください!!』
やっと帰ってきてくれた…!なんて頼もしい返事だ!ティーが強面男をかく乱してくれれば、なんとか逃げ出せるかもしれない!
ティーが急降下する。
『リッカを放せー!!!!やあああああ!』
決まった!ティーの渾身の体当たりだ!
「いってぇ、くそ、ンだこの鳥は!」
『このっ!このっ!えいっ!えいっ!』
縦横無尽に飛び回るティー。いいぞ!その調子だ!
頭の周りを飛び回り体当たりを仕掛けてくる小鳥に強面男はたまらないといった様子で、俺を掴んでいない方の腕を振りまわす。ティーはその腕をかわす。体当たり。かわす。体当たり。ぱしぱしと軽い音だしダメージを与えているわけではないが、確実に俺を掴んでいる手が緩んできている気がする。
よし!今のうちに全力でこの手を振り払って…
『このっ!このっ!…っぴゃん!!』
ティーが森の茂みに吹き飛んでいった。
…バシッという音とともに。
「ティーーーーーーーーーーー!!!!!!!」
飛んでいった彼女を追いかけることも許されない俺は、パニックになりかけている頭で「誰か、誰か助けて!」と思うことしかできなかった。
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