第15話 マイホーム

 住宅地区にもかかわらず、開けた広場のような場所には思いのほか露店が多かった。とにかく片っ端から声を掛け続け、物資をひとつずつ手に入れていったのは良かったが、カーテンローブを押さえつつ荷物を持つのは、なかなか骨が折れる。


「うーん。これ、どうするかなぁ…。要るには要るけど…」


 街行く人々の流れは落ち着いてきているものの、抱えている荷物のせいで移動が難しい。なぜなら、油断するとカーテンローブから手を離してしまいそうになるからだ。いくら気にする人がいないとはいえ、あの露出度で歩くのは厳しすぎる。堂々と歩ければ楽なんだろうけど、現代日本で生きた記憶が邪魔をしている。

 俺が困り果てて動けずにいると、ティーが帰ってきた。


『リッカ、ただいまです!』


「あっ、ティー、おかえり!なぁ、この荷物どうしたらいいと思う?一応、売ってお金になりそうなものもゲットしたんだけど、思いの外かさ張っちゃってさ…」


 露天商の人たちに売ってみようとしても、彼らは決められた会話が終わると俺のことは眼中にも入らないようだった。さっさと片付けて帰っていってしまう。


 ティーは俺の頭に着陸する。


『あっ、ごめんなさい…。行く前に説明しておくべきでしたね…!荷物が収納できる、結界の使い方があるんです。まず、小さめで良いので箱形の結界を作ってみてください』


「?…うん、分かった」


 言われるがままに箱形の結界を作る。

 これをどうするのだろうか。俺も荷物を結界に入れて運ぶことは考えたけど、荷物が入った透明の箱を浮かせて追従させるとなると、かなり目立つのではないだろうかと思って止めたのだ。


『そこからですね、【空間収納付与】と唱えてください』


「おっけー。【空間収納付与】!って、うわ」


 結界の箱が光る。それは2秒程度で終わったが、空間収納付与する前と変わったところは無いように見えた。


「これに荷物を入れれば良いってことか」


『ですです!ちなみに、その収納結界に向かって、もう一度【収納】と唱えると消えるので便利ですよ。荷物を出したいときは【収納一覧】と唱えて表示された一覧から出したい荷物を選ぶだけです!』


 試しに、貰った保存食を箱に近付けてみると、保存食が箱に吸い込まれて消えた。


「おお!」


 次に収納一覧に表示された保存食を選択してみると、箱形結界のうえにポンッと今しがた収納した保存食が現れた。なんだか楽しくなってきたので、水筒以外の手荷物を全てしまうことにした。


「おおおおおお!すごい!どんどん入っていく~」


 荷物をしまったところを見届けたところで、ティ-が再び飛び立つ。きっと水が飲める場所に先導してくれるのだろう。なんて出来る子なんだ。


『リッカ!こっちです!ついてきてください!』







 ティーに導かれるままに辿り着いた場所は、砦内の端にある小さな木立の中だった。日も暮れかかっているので薄暗いその場所をぐるりと確認してみたものの、水の気配すらない。どういうことか聞いてみようとティーを見ると、彼女は木の枝から枝へと飛びまわりながら辺りを警戒していた。


「ティー?どした?なんかあった?」


『いえ!何もなかったので、ここなら大丈夫そうです!今からお教えするスキルは、ちょっと目立ってしまうので念のために人目に付かない場所に案内させてもらいました』


 ティーが言った『目立つ』という言葉に、気持ちが浮足立ってくるのを感じる。


「まさか…!魔法で水を出すとか…?」


 その問いかけに答えるように胸を張るティー。かわいい。


『ふふふ、魔法で水を出すよりも、もーーーっとすごいですよ!この世界でリッカしか使えません。さぁ、【ここを今日のマイホームとする】!と唱えてください!』


『どやぁ』といった感じのティー。固まる俺。


「…え?」


『…え?あれっ、ちょっと速かったですか?じゃあもう一回…【ここを今日のマ…』「あっ、うん大丈夫、そこはちゃんと聞こえてた。うん、ばっちり…」


 なんだろう、このどこかで聞いたようなフレーズは。ていうかそれは呪文扱いなのか。


「ところで、さ…それ考えたのって誰?」


『リッカが言うところの女神様と大御神様が共同で開発したスキルですよ?そんな素晴らしいものをこの目で見られるなんてラッキーです!なんとなくの機能は把握してるんですけど、見るのは初めてなんです!』


 わくわくキラキラしているティーに急かされるように、ひとまず異世界離れした呪文に対する違和感を無視してスキルを使ってみることにした。


「【ここを今日のマイホームとする】!」


 スキルを使用すると、目の前に長方形の光の筋が空間を切り取るようにして出現。そして、その長方形が光ると玄関ドアが鎮座していた。一瞬の出来事だった。


 これはまるで…、あの国民的アニメに出てくる『どこでもド…いや、これ以上は考えるのをやめよう。俺は何も知らない。


「さーて、じゃあ中に入ってみようか」


『はいっ』


 ティーは既に俺の肩に乗っていて準備万端だ。よほど楽しみなのか尾羽がピコピコ動いている。可愛い。


 ドアノブに手を掛け扉を開けると、そこには。


「なんだこれ!すご!うわっ!すご!」


『ふわぁ!わあああ!』


 俺たちが語彙力を失う光景が広がっていた。

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