第11話 与えられた力
ティルエラの長時間にわたる説明が終わった。
要約すると、俺のメインスキルは結界らしい。他にもあるけど時間が時間なので、またの機会に教えてもらうことにした。
メインスキルについては、ただ堅い壁というだけではなく細かく効果を付与出来るという壊れ性能だった。さらに、いちいち効果を設定しなくても、俺の意思が反映されるから細かい操作は不必要。ドア越しに日月さんの独り言が聞こえたのは、そのおかげらしい。話を聞こうと集中したことによって、無意識に結界を微粒子状に広げて振動を拾っていたのだという。おまけに結界内を繋げて自分の耳まで届けるという荒技。
あ、でもティルエラには場所ばれたしステルスっていうのでもない…。
「ちょっと待って?魔力を使ったからティルエラは場所が分かったって言ってたよね。ということは、日月さんにもばれてた?…やばくない!?」
焦って挙動が不審になっている俺に、ティルエラはのんびりと答える。
『大丈夫ですよ!ある程度の魔力を動かさない限り、人は感知できません。それに、実様は空気中の魔素に混ぜるように結界を粒子状にしていましたので、それこそ感知できるのは使徒くらいなものです』
「そ…そっか!良かったー…。俺もう何にも分かんないからさ、やっぱりティルエラがいてくれて良かったよ」
そう言った瞬間、ティルエラの瞳がキラキラと輝いた。とても嬉しそうだ。
『この世界の知識はお任せください!あと、小鳥ですので怪しまれずに偵察も出来ると思いますし、実様が使いたい術の座標を見ることもできますよ!あとあと!私の視覚は実様と共有することができます!』
ピョンピョンとジャンプしながら元気いっぱいにアピールするティルエラに癒される。向こうに帰ったらペットでも飼おうかな…。
「っと、やばい!日月さんが戻ってくる前に、ここから脱出しなきゃいけないんだった…早いとこカーテンをむしり取らなきゃ…」
わきわきと準備運動しながらカーテンに近付いていると、ティルエラは不思議そうに声をかけてくる。
『何をしているのですか?』
「いや~…俺、こんな格好じゃん?まずは布面積を増やすために、一旦、塔から脱出しようかな~…なーんて…。ほら、今は凌げてもいつまでもカーテンじゃかっこつかないし?」
要領は得ないし、明らかに私事が入った言い訳だ。ティルエラには怒られるか呆れられるかと少し覚悟したけど、ティルエラは大して気にしていない…どころか頷いて賛同してくれた。
『そうですね!ここに辿り着く間に街の様子を見てきましたが、おかしな様子でした。まずは味方を作るべく、砦の外へ出た方がいいと思います』
「砦?ここって街じゃなくて砦なんだ?って今はそんな場合じゃない。やっぱり、ここって不味いの?女神様が色々としてくれたのに、太刀打ちできないほどやばいの!?」
そういうと、ティルエラは困ったように羽をモゾモゾ動かした。
『いいえ…実様の結界を突破できる人はいないと思います。でも、やむを得ず攻撃が必要な場合と、戦線からの離脱ができない場合が問題ですね。おそらく、スキルの使い方は感覚的に分かるようになってると思うので、どうやって敵意を向けてくる相手を退けるか想像してみてください』
なるほど、と言われた通り想像してみる。
一の案。
単純に立方体の結界を作って移動させる要領でブン回す。…生き物って、どの位の打撃に耐えられるんだろうか。角が入ったら最悪死ぬんじゃ…。でも弱過ぎたら足止めにもならないし。しかも、相手が多過ぎたら流石に制御しきれない気がする。加減さえ分かれば…って、どこで覚えるんだ。却下。
二の案。
結界に空気遮断の効果を付与して閉じ込める。…残酷過ぎない?気絶するまで閉じ込め続けるのは俺の精神状態が持たない気がする…却下。
三の案。
結界と壁、もしくは結界同士でサンドイッチする。…下手したら圧殺しちゃうよな。拘束は出来そうだけど…数がいたら制御しきれる自信がない。絶対に何割かは圧殺しそう。加減分かんないし。却下。
四の案。
対象を横断するように結界を作って…切…
「ぅぉえっ…」
『ふぇ!?大丈夫ですか!』
猛烈な吐き気に耐える。
「大丈夫じゃない…。全部ムリ。俺グロ耐性ない…。加減分かんないし、殺傷能力がエグい…」
なぜだ。女神様たち、そういった耐性とかは付けてくれてないのか。それとも、やってみたら分かるのか。
「うん。よ~く分かった。目的の人物に近付くにしても、代わりに戦ってくれる…隙を作ってくれる人がいたほうが絶対いい。その人には申し訳ない気がするけど…。ティルエラ、何か良い案はない?」
『はい!まずは、ここを脱出して、南にある隣接した街【フィリコスネーブ】を目指しましょう!そこで協力してくれそうな人を探せばいいと思います』
「うん、じゃあそれで。それにしても…ここって砦なんだよね?この塔の中にも兵士っているのかな?」
『いる可能性もあります。ですが、街の中では兵士さんも住人の皆さんも目が虚ろで…、鍛練や日常生活は普通に行われているようにみえるんですけど…変な違和感を感じました。何かあると考えて行動した方が良さそうです』
ティルエラは悩ましげに首を傾げている。
砦に住む人たちは皆、目が虚ろで違和感がある?操られているのだろうか。
「それって俺が女神様たちに貰った力でどうにかなるかな?」
『出来ないことはないと思いますけど…、規模が現実的ではないですよ?もしかしたら、魅了とか催眠にかけられてる可能性もあります。それだったら術者か、術式に使われている媒体をどうにかするだけで終わるかもしれませんし…。ただ、この規模の大きさから考えると術者が複数いるのか、何か別の方法を使っているのか…調べてみないことには分からないと思います…』
相手の状態から見極めなければいけない現状に、俺はため息をつきながらベッドに倒れ込んだ。
「はぁ~、なんか開始から大変じゃん…。見つからないように逃げ出すって言っても、相手の位置も分かんないのに…」
『それでしたら私が見てきますよ?』
「え?」
平然と言ってのけたティルエラに驚いて、ベッドから体を起こす。
『さっきも言いましたけど、私の視界は実様と共有できます!』
誇らしげなティルエラの言に希望が見えてきた俺は、勢いを付けてベッドから立ち上がった。
「そうだ!それだよ!もしかして、ステルス盗聴結界をティルエラにかけたら会話も聞けるかな!」
『はい!可能だと思います!お任せください!』
そう言うや否や、ティルエラの色がカメレオンのように変わり始める。そして数秒で『スズメ』みたいな色合いになってしまった。
「おお!?」
『えへへ。ビックリしましたか?街中などでは白い鳥は少し目立ってしまうので、一般的な【スモーメ】という鳥の色を真似てます!…あ、カーテンと窓を少しだけ開けてもらっていいですか?』
【スモーメ】…。やっぱり、スズメ的な鳥っているんだなと、どうでもいい感想を抱きつつ窓を開ける。
そういえば、日月さんの外見を知らない。あの手のゲームの主人公は大概のっぺらぼうだし。たしか、フェロモニカとデートって話をしてた。キャラデザを思い出さなければ。おっと、結界も忘れずに。
「えっと、じゃあ気を付けて。盗聴結界はもうかけたから…。あと、俺とティルエラで話ができるように通信結界も付けといたよ。日月さんは多分…胸元が大きく開いてて、ものすごい切れ込みが入ったスカートの派手な金髪美女と一緒にいると思う」
『了解しました!情報ありがとうございます!では、いってきますね』
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