第10話 俺の身が危ない
「椅子~…。さんざん探し回ったし、この部屋にはないよなぁ。ベッドは壁固定で動かせないし…」
ベッドに座り考える。
選択肢は二つ。
一つ目は、この部屋を出て椅子を持ってくる。…ないな。出られないからカーテンが欲しいんだよ。出られるんだったら椅子やら布やら、そんなもの探してない。
二つ目は、引っ張って無理やり取る。…頑張れば取れそうだけど、破れないだろうか。
そんなこんな思案した結果、カーテンを引っ張るために準備運動をしていると、突然ドアをノックする音が響き渡る。
「~~~~ッ!?」
ビックリして声が出そうになったのを、すんでのところで抑え込む。心臓がバクバクして口から飛び出してきそうだ。
…大丈夫。大丈夫だよ。部屋を確認したときに鍵はかかってた。居留守決め込めば大丈夫だよね!?
俺は、そっとドアに近づき耳を当ててみる。ドアの外から聞こえてくる声は男のものだった。
「リッカ?お~い、いないのか?……な。…………けど」
よく聞こえないな。誰だろう。そういえば、女神さまがサポートを付けてくれるって言ってた気がするけど、この人がそうなのかな?…いやでも万が一違ったら、俺は恥ずか死ぬ。布が欲しい。いっそドアの前の人に布を頼む?いやいや、まずはこの人が誰なのか確認したい。
外の声に神経を集中していると、急に声がはっきりと聞こえ始めた。声の主は独り言を呟いている。親近感が湧いたのも束の間、そいつはとんでもないことを喋っている。
『う~ん。イベントでは今日…何かミスったか?いや、それは無い。俺がリッカの選択肢をミスる訳がない。愛しのリッカと、あんなことやこんなことが出来るチャンスを逃す訳ない…!』
ちょっとまって。一人で盛り上がらないで。なんか不穏なこと言ってるけど、絶対こいつ『日月 蓮也』さんだよね?いきなりドア越しエンカウントしちゃった俺はどうしたらいいのかな…。
『はあ…合成のスキルもアプデで補正されたのか、前みたいな自由度はなくなったし、リッカには会えないし踏んだり蹴ったりだ』
それは多分、女神様の因子のお力だよね。うん、女神様ばんざ~い。女神様、俺に現実逃避の因子を組み込んでください。…あ、転移済みだから手遅れか。
というか日月さん、ひとり言多いな。それにアプデとか言ってるところからして、本当に現実を自覚してないんだ。
『街に出てみるか?もしかしたらリッカに会えるかも…』
『レンヤさまぁ~♡こんな所にいたのぉ?』
声が増えた。知ってる。この喋り方のキャラいたぞ。一番イラストとかイベントがエロかったキャラだ!あからさまなネーミングだったし!ちょ…ちょっとだけやったけど、俺の一番はミリアンヌちゃんだから!ミリアンヌちゃんなんだからな!
『フェロモニカ。どうした?俺に用か?』
『やだぁ、もう分かってるく・せ・に♡今夜こそ、あたしと…ね♡』
『はは、悪いな。一番はもう決めてあるんだ』
『…もぉ、またリッカ?妬けちゃうわぁ…。じゃあ、あたしと今からデートして?それで許してあげる。でも、リッカの次は絶対あたしだからね♡』
『ああ、分かってる』
足音がだんだん遠ざかっていたから、彼らもこの場から離れたのだろう。俺は静かにドアから離れ、フラフラとベッドに倒れ込む。
「嘘だよね?一番?そっか~、日月さんは好きなものは最後まで取っとくタイプか~。なるほどね~…それで接触が少なかったのか~。うっ…ぐす」
泣きたくなってきた。というかもう泣いてる。はやく脱出しないと俺の身が危ない。女神様のお仕事をするにしても、あいつは後回しにしよう。近付ける気がしない。近付いたらリッカでないことがばれるだろう。
なぜなら、俺はリッカの育成をしていないからエピソードの解放もしていない。リッカについてはミリアンヌちゃんのエピソードにチラッと出てきたときの会話から、強気な子なのかな?という印象しかない。
だって俺、美乳派だったしリッカのは…こう、ささやか過ぎるというか。小さ過ぎても大き過ぎてもダメというか。
じゃなくて。
「あいつが戻ってくる前に布を…」
なんとか起き上がってカーテンに手を伸ばした瞬間、窓からコツコツと音が聞こえた。開けて確認するべきか、音が止むまで放置するか迷っていると、ヒヨヒヨと鳥が鳴いている。
「なんだ…鳥か~。まぁ、そうだよな!さすがに窓から日月さんが現れるわけないよな」
そっとカーテンの隙間から窓を開くと、そこには真っ白で可愛らしい小鳥がとまっている。可愛さに見入っていると小鳥が部屋に入ってきたので、一旦窓とカーテンを閉めることにした。
小鳥はベッドのヘッドボードに着地すると、背伸びするみたいな動作で俺を見つめて、嬉しそうに羽をパタパタと軽く羽ばたかせた。
『ようやく到着しました!こんにちは!あなたが田中 実様で間違いないですね?私は、今日から実様のサポートをさせていただきます、【ティルエラ】と申します!』
「わああ!?鳥が喋ったぁ!ていうか、サポートって鳥!?なんか色々と大丈夫!?」
わざわざ来てくれたティルエラに対して失礼かもしれないけど、小さな鳥に、どんなサポートができるのか疑問しかない。頼りなさそうなサポーターに俺は困惑を隠せなかった。
それを見たティルエラは、苦笑しているような…そんな感じで体を揺らす。
『あはは、ですよね~…。前は色々と出来る事はあったのですが、今は殆ど力を失っていて、戦闘能力はからっきしなので、そこはご理解いただければな、と…』
「そっかぁ…」
少し残念だけど、よくよく考えてみればフォーグガードに来て初めての会話だし、異世界人と話す前に予行演習ができて良いかもしれない。普通に人と関わることができるという神様たちのお墨付きをもらっても、今まで上手くいった経験が女神様たちとの会話だけでは心許無い。そんな思惑もあり、なんとなく好奇心でティルエラに質問してみた。
「よく分かんないけど、大変だったんだね…。えっと…ところで、前?は何やってたの?」
『ふふふ、なんと前は使徒の端くれとして仕事をしていたんですよ』
ティルエラは誇らしそうに胸を張っている。可愛い。うっかり指先で首をウリウリと撫でてしまった。嫌がられるかな、と思ったけどティルエラは気持ち良さそうにしているので結果オーライ。癒されながら会話を続行することにした。
「そうなんだ。女神様から聞いたけど、因子とかを起動したりするお仕事だっけ?そういうこともできるの?」
『そうですそうです!残念ながら因子系の力は殆ど失いましたが、探知能力は生きてたので実様が使用した魔力を頼りにここまで来れました』
また、エッヘンとでも効果音が付きそうなほどに胸を張るティルエラ。撫でてほしそうにこちらを見ている!
撫でる。可愛い。
「…あれ?俺、魔力使った記憶ないんだけど」
『そうなのですか?う~ん…無意識でしょうか。これはもしかしたら実様が使える能力から、ご説明した方がいいかもしれませんね』
「あっ、そうだった。何かスキルとかくれるって言ってた。じゃあ、説明をお願いしようかな?」
『分かりました!それでは、お持ちのスキルの説明から入りますね!』
そして、ティルエラによるチュートリアル…もといスキルの説明が始まった。
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