第6話 魂のお話

 説明に一区切りつけ、「ここまでは大丈夫ですか?」と問いかける女神の言葉に実は頷く。実の様子を確認し、女神が続ける。


「今回、誤作動を起こしたのは転移転生に関わる因子でした。境界の穴から魂が流れ込んだことによって、転移が成功したと見なし、『日月 蓮也』さんにスキルを与えてしまったのです」


「おお…そういうのもあるんですね」


「ええ、魔法のない世界の方々には大変な世界ですから、救済措置のようなものです。」


 なるほど、と相槌をうっていた実だが、どうも引っかかるものを感じ記憶をたどると、とある疑問に行き着いた。


「魂の形?は大丈夫なんですか?俺みたいに馴染めなかったりとかないんですか?」


「その点は大丈夫です。形、ええと…なんて説明したらいいのか…」


 そう言いながら、女神は助けを求めるように大御神の方に視線を送る。


「うーむ…そうじゃ、丸い玉を想像すると良い。それが地球に住まう魂。そして、【フォーグガード】に住まう魂には魔素をコントロールする器官がついておるから、雪だるま型じゃ。」


 実の目の前に、球体の模型と雪だるま型の模型が現れる。


「地球から【フォーグガード】への転移は簡単じゃ。転移前には妾たち神の所に必ず来るようになっておるから、その時に着ぐるみの要領で後付けの器官を被せてやれば良い。ラノベとやらにも多い設定じゃが、転移者の潜在魔力が多いのはこの為じゃな。『日月 蓮也』の場合、前任の神はもう【フォーグガード】にはおらぬ。魔法陣に組込まれた術式が慣例に従い多くの魔力を使い、器官を再現したと考えるのが妥当かのう。」


 球体に着ぐるみの雪だるまが装着され、テーブルには【フォーグガード】の魂雪だるまと、着ぐるみを着て大きくなった地球の魂雪だるまが並ぶ。


「そうなのです!流石は大御神様です。魂を覆う…ええと、着ぐるみ?部分すべてを魔力器官として使用できるのです。その上、救済措置としてスキルも与えられるため、地球の魂が救世主として召喚されやすくなってしまったのには、こういった背景がありました」


「はぁ〜…そうなんですね…。『日月』さんは俺TUEEEE状態だと…。あれっ?じゃあ、逆はどうなるんです?【フォーグガード】から地球に転移するパターンはないんですか?」


 女神は【フォーグガード】の魂雪だるまを手に取り、雪だるまの首に指を当てる。


「現在組み込まれている因子では、不可能です。仮に転移したとしても、魔素がないために消滅してしまうでしょう。実さんの魂は地球にお送りする前にこちらへお招きし、永久器官の因子を埋め込みました。この雪だるまの頭の中で魂を維持する為の魔力を回転、循環させて消滅を免れています」


「世界が発展すると魔素を徐々に減らしていくと言ったが、そういう訳じゃ。急に消してしまっては魂が順応せん。少しずつ慣らし、器官が退化し消えるのを待つ目的もある。」


「うーん…なんとなく分かりました。それが試験的な魂保護だったと。」


 実に永久器官の因子を埋め込まれた記憶はないが、地球でも前世を覚えている人など少数。気にするような問題でもないと思い直す。

 その時、テーブルの上では雪だるまの模型が姿を消したところだった。


「はい。実さんは、禁術により失われた命に宿っていた赤子でしたが、母体が失われた為に亡くなりました。その周辺では、まだ禁術の魔法陣が起動していて、実さんの魂が吸い込まれる直前、どうにか私の使徒が助け出したのです」


 とは。実が日本に生を受けて、かれこれ二十数年。彼も立派なアラサーだ。しかし、二柱の神の口振りでは数十年も前の話には思えない。


「覚えていなくて申し訳ないんですけど、その説はありがとうございました!…あっれ?でもその事件って、そんなに前じゃないですよね?俺もう二十八年生きてますけど…」


「はい。今は、禁術が使われてから約一か月が経とうとしています。私は二度とこのような事が起きないように、魂に組み込む新たな因子を考えました。それが、【フォーグガード】から他の世界への転移です。禁術により肉体が消滅した際に、自動で発動し、それぞれの魂が均等に別の世界へ送られる仕組みになっています」


「他の世界の神にも禁術に悩まされた者がおったからの…皆で父上と母上を説得して、ちょうど女神のもとにいた実の魂で試験的に運用することになった。結果を急いでいたのでな、時を司る神に協力を仰いで過去に捩じ込んだのじゃ。結果的には魂が似た形の世界なら問題なく転移出来そうじゃな。…実には悪いことをしてしもうたが、実際体験してみた感想を聞いても良いか?」


 実は、突然のリサーチに面食らいながらも答える。


「あー、そうですね…。娯楽が豊富だったんで、ぼっち耐性さえついてしまえば割と快適だったかもしれないです」


「なるほどなるほど。娯楽が多ければなんとかなるやもしれぬか…」


 なにやら思案し始めた大御神の隣で、女神がガックリと肩を落とした。


「その娯楽が今、【フォーグガード】を大変な事態に追いやっているのですけれどね…」

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