第2話 神対応が思っていたのと違う

「ゲーム内での二つ名が『癒しの聖女』、名を『ミリアンヌ』といいます」


「この田中実!異世界へ行っきまぁぁあああああす!!!!!!!!」


 実の勢いの良すぎる返事に、女神は一瞬目を丸くするが、すぐに元の微笑みを取り戻す。


「まぁ!ありがとうございます。その言葉を聞けて安心しました。…では、これから説明を」「はい!心残りとしては!ガチャで引いたばっかりのミリアンヌちゃんを心ゆくまで鑑賞出来なかったな〜とか!新しいガチャ期待してたのになぁ〜とか!冷蔵庫の中のプリン食べ損ねたな〜とか!PCのデータどうしようかな〜とか!ありますけど!いえいえ!行かないわけじゃないですよ!?」


 言葉を遮りながら始まったマシンガントークに驚き、女神は固まっている。

 女神に悪いと思いつつも実は止まらない。どうせ転移するなら出来るだけ安全に、尚且つ有利な状態で転移するために、更に策を打つ。


「日本には戦なんてないですし?戦いとか不安だな、とも思うわけですよ!魔法も使ったことないですし!きっと食生活とか、ライフラインも違いますよね?」


「は…はい。その辺りはどうにかします」


(よっし!言質取った!でも、まだだ!)


「あっ、そうでした!俺の家族については心配要りません!親と兄弟の仲裁に入ったら、何故か兄弟の痴情のもつれに巻き込まれて一緒に勘当されてますし!その兄弟とも、勘当されたのはお前のせいだって言いがかりをつけられて疎遠になりましたし!体質もあって友達もいません!っ…何なら年齢=彼女いない歴ですから…!」


 涙目の実に真っ直ぐと見つめられ、女神は微かに体を震わせながら悲しそうな表情を浮かべている。

 実としては、女神の罪悪感を刺激して転移時にサービスしてもらおうという考えで言ったことで、涙目は予定していなかったのだが、己の言葉に思った以上にダメージを受けてしまっている。開き直りはしているものの傷つかないわけではないらしい。


「私たちのせいで、実さんは受け取るべき愛情までも…未来に築く絆さえ失っていたのですね…。本当にすみません…」


 そう言いながら、女神は涙を流し始めてしまった。

 罪悪感が込み上げてくるが、実もここで引くことは出来ない。出来ないのだが、女性の、ましてや神の慰め方も分からない。


(えええ、この女神様優しすぎない?!異世界転生ものの小説とかでは罪悪感の欠片もないような対応が多かったのに!これでも足りないかと思ったけど、やり過ぎた!泣かせちゃったよ!どうしたらいいの?!)


 悩んだ挙句、実は正直に自分の意図を話すことにした。


「あの…謝らないでください。その辺のことは、転移の時に色々とサービスしてもらえたら…それで良いので…」


(あぁ…がめつい奴だと思われたろうな。怒られたらどうしよう…!)


 恐る恐る女神の様子を窺うと…



 ポロポロと流れていた涙が、滝のように溢れ始めた。


(何でぇぇぇえ!?悪化した!?騙されたと分かって悲しくなっちゃった!?)


 会話がままならなくなってしまい、魂云々以前に、やはり自分はそういう星のもとに生まれたのではないだろうかと実が思い始めたときだった。

 号泣していた女神が、嗚咽を堪えながら何とか言葉を紡ぎ始めた。


「私はっ…ぐすっ、とてもっ…感動しました…っひっく、うぅ…なんて欲がないのでしょうか…ぐすっ、生きやすい人生ではなかったはずなのに…よく…っ健やかに育ってっ…」


(あぁー!まさかの価値観の違い!?全力で高望みしたつもりが、女神様にとっては大したことないやつ!?)


「もしかしたらっ…事情を知ってっ…しまえば…話も聞いて貰えないかもしれないと…っひぐ…思っていました…。最悪の事態になるかもしれないと…っですが実さんは…話を聞いてくれたどころか…うぅっ、【フォーグガード】へ行ってくれると…っ」


「あのっ、本当に…心配しなくても行くんで!魂うんぬんも終わったことだし?!気にしないでっていうか、ね?もう泣き止んでください!」


 どうにか泣き止んでもらおうと、実は少しの恥ずかしさを堪え漫画によくあるようなセリフを投げかけてみる。


「女神様は、笑っているほうが素敵ですよ?」


(お願いだから泣き止んでくれ〜!いたたまれないから!)


「な…で…そんなっ…優…し……………………っ!!……………………………っ!!!!」


 ついに女神は言葉を発することもできないほどに泣き始めた。


(駄目…かぁ〜)


 実は遠い目をして、青々とした空を見上げながら心を無にする。

 色々と言いたいことはあったが、女神が落ち着くまで待つことにした。

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