第42話 邪竜復活
ジータ様の家の馬を借り、竜の塔へと急ぐ。
ここから竜の塔まで馬を急がせても、三時間弱かかる。
馬に回復魔法をかけながら走らせると、雨雲を抜けて街道に出た。
これなら少しは速く着くかもしれない。
「ヴォルティス様……」
「ひぃ、ひぃ、レイシェアラ様ぁ! お馬さんにお水を飲ませてあげないと、脱水症状を起こしちゃいますよぉ!」
「! そ、そうね」
いくら疲労は回復魔法でなんとかできるとしても、水分と栄養はちゃんと摂らせなければ。
気持ちが焦れる。
私とベティ様とニコラスの馬それぞれを休ませ、食事と水を与えてから帰還を再開。
陽は、傾き始めていた。
落ち着くのよ、レイシェアラ。
日付が変わるまであと六時間はある。
大丈夫、間に合うわ。
「陽が落ちたな。レイシェアラよ、暗がりに馬を走らせるのは危険だ。馬が転んでしまうぞ!」
「くっ……ならば! 夜道を照らせ! [聖光]!」
「わあ! すごく明るいですね!」
「お、おい、こんなに明るくしては魔物が寄ってくるのではないか!? まあ、魔物が来ても勇者の血を引く私が倒すが!」
「ではその時はお願いいたします」
とはいえ、やはり陽が出ている時ほどの速さは出せない。
グッと落ちたスピード。
時間が無駄にすぎるように思えて、手綱を握る手が震える。
ラックなら、空をひとっ飛びなのに。
ああ、お馬さん、ごめんなさい。
もう少しだけ頑張ってください。
「! あ、竜の塔が見えてきましたね! ……でも、あれあれ? なんかおかしくないですか?」
「あれは……」
竜の塔は王都より西に離れた大森林の中心部。
正確には竜の塔こそが紫玉国の中心なので、王都は国のやや東に位置するのだが。
竜の塔の大森林、と呼ばれるそれは、全長五十メートル前後の巨木が半径三キロにも及び生い茂り、無数の紫水晶が生えて進路を塞ぐ。
一度立ち入ればその背の高い木々に阻まれ、塔を見失い樹海の藻屑となるであろう。
だからこそ、塔へ行くには正式なルートを通るのがもっとも安全。
しかし、今その正式なルートの手前には、王宮騎士団が鎮座している。
「なにかあったのですか!?」
「レイシェアラ様……聖女様! お戻りになられたのですね!」
「ご無事でよかった!」
私が声をかけ、馬を近づけると騎士たちは笑顔で——というか安堵に満ちた表情で私の無事を喜んでくれた。
いえ、待って。
無事を疑われていた?
「あの、どうして騎士様がこんなにいらっしゃるのですか?」
「突然魔力供給が絶たれたので、聖女様になにかあったのかと国王陛下自ら塔へ確認にいらしているのです」
「ええ!? 塔は高濃度の魔力で——あ」
「はい、国王陛下もまた勇者の血筋。聖魔法が使えます。その他にも聖魔法の使い手が護衛についておりますので、大丈夫です。それよりもなにがあったのですか?」
「よせ、なにがあったかなどあとで確認すればよい! すぐに聖女様を塔へお届けしよう!」
「そ、そうだな。聖女様、こちらへ」
「はい! ありがとうございます!」
事態を大まかにだが把握し、騎士様の案内で森の中心部——竜の塔へと駆ける。
お馬さん、あと少し頑張ってください!
「はぁ、はぁ」
しかし……正しいルートでなくても、今日は迷わなかったかもしれない。
竜の塔は、それほどまでに渦巻く黒雲に囲まれていた。
見上げれば雷鳴が轟き、ヴォルティス様の怒りが肌で感じ取れるかのよう。
お待ちください、もうすぐレイシェアラは帰ります。
あなたのところへ、もう間もなく。
「!」
近衛騎士団の馬と、神官が数名。
その奥、竜の塔の入り口である階段に、ベルが佇んでいるのが見えた。
そしてベルに話しかけるのは国王陛下と王妃様!?
「レイシェアラ、ただいま戻りました!」
「! ご主人様!」
「レイシェアラ!」
「陛下、兵をお引きになって! 私がすぐにヴォルティス様のお怒りを鎮めます! ベル、ヴォルティス様は!?」
「あ——あそこです!」
「!」
兵たちの間をすり抜け、陛下たちの前に立ち塞がるようにベルのもとへと急ぐ。
そうしてベルが指差した先は塔のてっぺん。
そこには、渦巻く黒雲を纏う紫水晶の鱗の竜。
『ゴァアアァアアアアアアアァァァ』
翼を広げ、魔力が瘴気になるほどの濃度巻き上がる。
咆哮が雷鳴となり、雲の合間を駆け抜けて広がっていく。
まさか、邪竜になりかかっている?
こんな短期間で——なぜ!
「ヴォルティス様! レイシェアラは帰りました! 怒りを鎮めてください!」
「危険だわ、レイシェアラ! ……あれはもう伝説の邪竜! ここはわたくしたちに任せてあなたは逃げなさい!」
「王妃様っ!?」
まさか、そのために兵を連れてきたの!?
よく見れば陛下も王妃様も鎧を纏い、武器を手にしている。
魔力供給が停止したその時から、王家はなにかを感じ取っていたのだろう。
ヴォルティス様が、おかしい、と。
「レイシェアラが戻らぬとの竜王の言葉が届き、我らはニコラスを疑ったが探すよりも先にヴォルティスが邪竜として覚醒する方が早いと踏んだのだ。我々の代わりはもういる。邪竜が復活するのなら、我らが命を賭して退けるまでよ」
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