第20話 経過報告
耳触りのよい婚約話だが、実質乗っ取りの話だ。
オリアはそれから逃れ、領地と家を守るためにニコラス殿下の婚約者になった。
ニコラス殿下の婚約者から外れたとなれば元の木阿弥。
しかし、陛下が介入すれば、少なくとも領地と領民が食い荒らされることはないだろう。
彼女自身は献身的で努力家だ。
就職先に実家の兄や弟の婚約者の侍女を任せてもいいかもしれないわ。
「まったくお人好しなんですから。他の婚約者たちのことにまで気を回されて」
「ルイーナに任せてもいいと思ったのだけれど、あなただって私と同じように殿下に振り回されっぱなしだったでしょう? 負担を増やすことはしたくなかったの。陛下には——多少の意趣返しくらい許されるかと思って」
「まあ、そうですわね。でも、私たちも婚約は解消しましたから」
「!」
聞けば私が去った翌日には、ルイーナたちも婚約解消に動いた。
実はルイーナ、イザベラ、エリー、フリーダの四人は、家の格式が高いことからご両親が殿下下ろしの話が出始める前から準備だけは進めていたらしい。
もちろん、我が家も。
私は筆頭婚約者なので、婚約解消は難しいと思っていたがお父様がどうしても嫌だったという。
うふふ、私もです♡
……冗談はさておき、つまりこれで殿下の婚約者はベティ様しか残りそうにない。
ベティ様の実家も困窮していると聞いているけれど、実家を窮地に追い詰めているのはまさに彼女とそのお母様だ。
おそらく貴族であれば「このくらいの贅沢当たり前」ぐらいに思ってるのだろう。
それなのにベティ様は、私たち他の婚約者のドレスや装飾品の
「王太子ではなくなった今のニコラス殿下は、イザベラ様やエリー様の侯爵家が後ろ盾になっていた状態。でも、両侯爵家はそれを拒否。だから事前準備していた解消の手続きを翌日には行ったの。わたしとフリーダ様の家も同じね」
ルイーナとフリーダ様は歴史が古く発言力もある伯爵家。
かつて王族が輿入れしたことも何度かある、由緒正しい家柄だ。
新興の伯爵家とは権威が違う。
その家からも見放された殿下に残されていた婚約者たちは、皆窮困して殿下に寄りかかっていた立場。
支えのない殿下に寄りかかっても共倒れする未来しかないが、私が陛下に相談して救済の手が差し出されることになった。
彼女たちもこれで殿下と婚約解消できることだろう。
ベティ様以外。
「殿下はこれからどうなさるおつもりなのかしら」
なにも考えてないんだろうなぁ。
むしろ、今の自分の立場とかも全然わかってないんだろうなぁ。
「冒険者になる、とかなんとかおっしゃっていたけど」
「ほ、本気かね? 等級の低い冒険者はその日暮しだろう? 確かに剣と魔法の才能は無駄におありだから、やってできないことはないだろうが……」
「世間の厳しさを多少なりとて学び、揉まれればよいのですが」
「揉まれたところで吸収変換しそうですわよね」
「「「…………。ハァーーーーーー」」」
まあ、つまり殺しても死ななさそう。
王族として、死亡の心配が無駄に必要ないのはどうかと思うというか。
「あのアレなお方の話で思い出したが、次期王太子にはエセル様が立たれる予定だ。まだお若いが、兄がアレなので大変しっかりと成長されたようだからな。ルセル様もおられるし、心配はいらなさそうだよ」
「まあ、やはりそうなりましたの? 私はお兄様でも良かったのではと思いますが」
「確かにお前の兄、レイントールにもその資格はあるが……やはり正当な血筋は尊重されるべきだろう。レイントールは宰相として、エセル様が成人するまで支える役割だ」
「そうですか」
双子の王子であるエセル様とルセル様。
お会いしたことはほとんどないけど、お兄様がついていれば大丈夫よね。
兄がアレなので反面教師にしてくださっているみたいだし、きっと人の話が聞ける良い王になられることだろう。
「それから、シュレ公爵家及び紫玉国から“聖女”への生活用品の納入品一覧だ。目を通しておいてくれ。必要なものは今後、こちらの紙に書いてその都度[転送]してくれればいい。急を要するもの以外は一ヶ月に一度、城で手配した業者が運び込む」
「はい、わかりました」
「あとこちらは婚約解消手続きの証明書類だ。まあ、無事婚約解消が叶った、ということが書いてあるものだな。本来であれば公証人と法務大臣の前で双方宣誓の上で執り行うものだが、お前が聖女に選ばれたことで出廷は免除されている。おめでとう、正式に婚約解消だ」
「ありがとうございます!」
この書面でいただくのが、これほど感動するとは思いませんでしたよねぇ!
婚約解消。
自由!
「わたしたちも、殿下抜きで書類のみの婚約解消になりそうです」
「そう、おめでとう、ルイーナ!」
「はい!」
「ルイーナはこれからどうするの?」
「新しい婚約者を探して、お婿さんにきていただきます。元々わたしの家には子どもがわたししかいなかったので、殿下と結婚したあとも“伯爵家当主”として養子を引き取るか、重婚で夫を迎える予定でしたから」
「そうだったわね。でも、これで晴れて一夫一妻なるのね、ルイーナ」
「はい!」
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