第19話 再会
「村の者たちを呼んで参ります!」
「はい。では私たちは竜の塔へ戻りますので」
「え! そんな、なにかお礼を……!」
「それでは法に則り、聖女と竜王へ祈りと感謝をお願いいたします。我らは供物を受け取ってはならぬ身。どうか祈りでもって、我らをお支えください」
スカートを摘み、頭を下げる。
公爵令嬢として培ってきた仕草。
それにボーッと驚かれてしまったけれど、私たちの生活は国と王家が面倒を身のが決まり。
私たち、というか、聖女は、だけれど。
少なくとも、国民には余裕があるわけではない。
魔力不足で国全体が貧しくなっている。
もしも聖女へ感謝を伝えたいというのなら、国へ寄付を行うのが法律で決まっているのだ。
聖女へ直接食べ物や贈り物をするのは、法で禁じられている。
なぜかと言われると、歴代聖女様は常に“憧れ”に曝され続けてきた。
確かに聖女は結婚を禁じられているわけでも、純潔を重んじられているわけでもない。
手篭めにして、益を独り占めしようという輩からの様々な手出しを受け続けた結果、法で『聖女は国以外の何人から、なにも受け取ってはならない』『聖女になにも贈ってはならない』と決まりができた。
例外としては身内からの手紙、一部物資、食糧など。
もちろん、国で検品が行われたものが届けられる。
しかし、ベルが『聖女は食べなくても生きていける』と言っていた。
歴代聖女の中には毒殺された方もいたと習ったことがあるし、私も気を引き締めなければ。
聖女に害をなそうというのは、利益の独り占めだけが目的ではない。
他国の間者とも考えられる。
ヴォルティス様は五年間、人間の姿に化けるのに忙しくて選定を先延ばしにしていた——的なことをおっしゃっていたけれど、大陸最大国の我が国の力を削ぎたい国は多い。
それだけが理由ではないかもしれないけれど、警戒するに越したことはないわ。
……あのアホ王子が、諦めているとも思えないし。
一応、一昨日帰ってきてからすぐに“迎えにきた”ことを王家に報告した。
すぐさま「対応する」と返事はきたし、昨日今日は何事もなかったけれど……本当に一体なにを考えているのやら。
なにも考えてない? ありえる。
「それでは村の皆様の健康とご無事をお祈りします。失礼いたしますわ」
「本当にありがとうございました、聖女様」
こうして水晶柱の建設は終了。
竜の塔に戻ると、階段の前でベルが待っていた。
「ベル、ただいま」
「お帰りなさいませ、ご主人様。お客様がお見えです」
「え? お客様? 私に、かしら?」
「はい。ルイーナ様と、シュレ公爵様という方々です。別棟にてお待ちいただいておりますが、本日はお帰りいただきますか?」
「いいえ! 会うわ! すぐに着替えてきます!」
「かしこまりました」
二階の自室に戻り、着替えてからすぐに外へ戻る。
ベルに案内されたのは、竜の塔の横にある結界に囲われた別棟。
ここは聖女に王国側からの食糧や物資が運び込まれる場所。
ベルに聞いたところ、食糧は地下倉庫——魔法で時が止まっているそう——に運ばれ、保管される。
私がベルに作ってもらったご飯の材料はここにあったもの。
そして別棟二階には客間や応接室がある。
「お父様! ルイーナ!」
「おお、レイシェアラ!」
「レイシェアラ様、ようやく会いに来れましたわ! お元気でしたか!?」
「ええ! ルイーナも元気そうで嬉しいわ」
入室してすぐに二人と抱き合う。
お父様、親友のルイーナ。
二人にこんなに早く会えはなんて、嬉しいに決まっている。
「食糧と着替えなどを持ってきたから、あとで確認しておくれ。母さんも会いたがっていたから、今度連れてくるよ。竜の塔にも我らのような聖魔法適性が低い者が入れる場所があるとはな」
「ええ、楽しみにしています」
「そうだわ、これ、国王陛下と王妃様から。謝罪とお礼状。……それと、五番目以降の婚約者たちの一部支援継続に関しての報告書」
「もう対応してくださったの!? さすがね」
一昨日、あのアホ王子が私を「迎えにきた」と現れた日の夜、陛下に抗議の手紙を送った。
その時にニコラス殿下の婚約者たちに、シュレ公爵家と王家で行っていた支援を、婚約破棄後もしばらく継続してもらうことはできないかとお願いしたのだ。
「よかった……陛下が直接相談に乗ってくださるみたい……。ミルティとオリアはお取り潰しが濃厚だけど、学園の講師や働き口を用意してくれるみたい」
ニコラス殿下の六番目の婚約者ミルティ子爵令嬢は、親が領地運営才能なし。
やることなすことがすべて裏目に出てしまい、他の子爵家に相談したら適当な助言を受け、本気にして実行してしまうのだそうだ。
優柔不断で、領民たちにも甘く小馬鹿にされる始末。
九番目の婚約者らオリア男爵令嬢は親が散財癖ありで、稼いでもすぐにお金がなくなってしまう。
父親はギャンブル依存、母親は買い物依存らしい。
現在親戚が実権を握っているような状況で、すでに他領の貴族からオリアを嫁にしたい、という声が多数寄せられていた。
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