31 愛しているから

 カーテンから漏れる優しい朝日に揺り起こされ、レクスは目を覚ます。自分はどうなったのだったかと考えたところで、視界の端にキングを捉えて飛び起きた。

「キング! 傷は……!」

 本から視線を上げたキングは、穏やかな笑みを浮かべる。

「あれくらいなんということはないよ。これでも先代王だ」

 レクスが安堵の息をつくと、キングは厳しい表情になった。

「それより、お前だ。あんな無茶な戦い方をして。魔法は使うなと言ったよな?」

「……はい、すみません……」

 俯くレクスに、キングは優しく彼の手に触れる。

「目を覚ましてよかった。お前の魔力が尽きて死ぬのではないかと、今度こそ心臓が止まるかと思ったよ」

「他のみんなは無事ですか?」

「ああ。ただ、アレイトという人間は逃がしてしまった」

 魔防壁の結界が破壊された隙を狙い、アレイトはこの城に侵入したのだろう。もし魔族の中に協力者がいたとすると、アレイトがレクスを討とうとしていると知った上での行動だと考えられる。魔族の中にレクスが王の座に就いたことをよく思わない者がいることは承知していたが、よもやその死まで望んでいるとは思わなかった。

「……キング」

「ん?」

「私に祝福を授けてください」

 手元に視線を落としたままレクスが言うと、キングは彼の手を優しく包み込む。

「レクス、私がお前に嫁に来いと言ったのは、そのためだけではない。お前を愛しているからだ」

 真剣な声で言うキングに、レクスは目を合わせることができずに俯いた。そんなことは、改めて言われなくてもわかっている。レクスの母に許可を求めたくらいだ。その愛が筋金入りだということは明白だ。

「お前に祝福を授けることで、お前のことを誰にも渡さないようにしようという私の浅ましさだよ」

「……だからです」

 声が震えないようにすると、どうしても声量が下がる。それでも、キングの手を握り返し、絞り出した。

「キングが私を愛してくださっていることはわかってます」

 その行動を見れば、誰もがそうだと思うだろう。キングの愛は疑いようがない。一度だけ疑ってしまったことはあるが。それでも、キングが深く愛してくれていることは、レクス自身が一番よくわかっている。

「それと同じ気持ちなのかは、まだわかりませんが……でも、近付いているんじゃないかと思うんです。だから……その、お嫁にもらってください」

 キングが後頭部に手を遣るのでレクスは顔を上げる。キングは優しいキスを落としたあと、ふっと微笑んだ。

「じゃあ、これはこっちだな」

 レクスの手を取ると、キングは右手の薬指に嵌めていた指輪を左手の薬指に移す。それだけのことなのに、右手だけではなく全身が温かさに包まれたようだった。

「なんだか私がプロポーズされたような気分だよ」

「う……忘れてください……」

 真っ赤になる顔を手で覆うレクスに、忘れないよ、とキングはまた微笑む。

「自分の祝福で愛しい者を守れるなんて、私は幸せ者だよ」

 頬を優しく撫でる温かい手は、キングの愛をひとつ残らずレクスに伝えるようだった。

「午後にはまた会議が待っている。もう少し眠るといい。お前がまた目を覚ますまで、私はここにいる」

「……はい」

 自分を心から愛してくれる人がそばにいてくれる安心感に、レクスは微笑んで頷いた。


   *  *  *


 レクスが静かに寝息を立て始めると、キングは頭を抱えて深く溜め息を落とした。

 ――自分の理性を称えたい。

 初めて見ることのできたレクスの微笑みの威力は凄まじく、もしレクスが弱っていなければ押し倒していてもおかしくなかった。

 そうして、キングは決意を新たにした。

(なんとしてもレクスを守り抜く)

 もし戦争の引き金となったとしても、レクスの命を狙う者はひとりとして逃がさない。裏切り者など、もってのほか。誰ひとりとして、レクスを傷付ける者は許さない。

(……キングの名に懸けて)

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