29 なぜ人間は魔族を敵視しているのか
護衛たちが執務室から出て行くのを見届けると、レクスは厳しい表情でキングを振り向いた。
「いつか聞かなければならないことでした。なぜ、人間は魔族を敵視しているのですか?」
この国への視察を申し出ておきながら、レクスが視察へ向かった先では敵意を剥き出しに勇者パーティの三人を連れて来た。さらにレクスに差し向けられた五人の襲撃者。王宮は自分たちの責任ではないと主張したが、視察の申し出の際に国交を結びたいと書かれていたのが王宮からの伝達でなかったことがはっきりとした。
「フェンテたちのときは、人間の王が暴走したものでした。けれど、代替わりしたいまもなお人間が魔族を執拗に狙うのはなぜなのですか? 因縁だとキールストラは言っていましたが、それだけではないように思うんです」
キングは一呼吸を置いたあと、静かに口を開いた。
「簡単なことだ。人間にとって魔族が脅威であるから。それだけのことさ」
なんとなくそんな気はしていた、とレクスは考える。脅威であるから排除しようとしている、ということである。
「魔族は、確かに文明は遅れている」キングは続けた。「だが、実力は魔族のほうが上だ。五人掛かりでもお前を倒せなかっただろう? それに、私のもとへ辿り着けたのはあの三人だけ。いまのうちに芽を摘んでくということだよ」
「それで戦争になれば、人間には勝ち目がないと思うのですが」
「だから空間分断を使ってお前を狙ったんだよ」
五人掛かりでもレクスを倒せなかったことは事実だが、あの五人はレクスの護衛がいれば彼に傷ひとつつけることすらできなかっただろう。
「人間は、先代魔王は死んだと思っている。現代王を狙えば国が壊滅すると思っているんだろう」
「王を殺したくらいでは魔族が壊滅するとは思えませんが……」
「王と魔族は繋がっているんだよ」
キングの言葉に、レクスは首を傾げた。
「お前が
先の戦いでキングは死んだことになっている。キングのもとへ辿り着けたのは勇者パーティの三人だけだが、もしキングが倒されていれば、魔族は弱体化し多くの被害者を生んでいたということだ。先の戦いで魔族にひとりの死者も出なかったのは、キングが“討伐されたことにする”ことで魔族の弱体化を防いだためだ。
「なぜ人間がそのことを?」
「……いたんだろうね。密告者が」
冷ややかに言うキングに、レクスは背筋がゾッと凍り付いた。魔族の中に魔族を裏切った者がいる。それも、国を滅ぼそうとするほどの悪意を持った者だ。
「だから、私たちはなんとしてもお前を守らなければならないんだよ」
もし勇者パーティの三人がそれを知っていたなら、護衛として申し出てきたことにも納得がいく。勇者パーティの三人は、魔族を滅亡させたくないのだ。
「もし、あのとき私が死んでいたら……」
「絶好の機会を得た人間が、戦争を仕掛けて来ただろうね」
ふと表情を和らげたキングが、レクスの頬に触れる。
「だから、私の嫁になって私の祝福をお前に与えるのが安全策なんだよ」
祝福、それはあらゆる効果を付与するものだ。レクスの名の祝福を受けた魔族は、様々な能力が向上しているということだ。
「具体的にはどういう効果なんですか?」
「先にも言った通り、耐性が強化される。もっと言えば、結界に囲まれる感じだ。攻撃が通らなくなる、と言えば簡単かな」
それはあらゆる耐性が極限まで上がるということだ。物理攻撃、魔法攻撃、そのどちらも通らなくなれば、簡単に死ぬことはなくなる。
「それはもう無敵なのでは……」
「そうだね。私が王になったときに身に付いたものだよ」
「ということは、勇者パーティの三人がキングのもとに辿り着けても、彼らには勝ち目はなかったということですか」
「そうだろうね。私に戦う気がなくて、彼らはついていたよ」
レクスは心の中で考え込んだ。自分が死ぬ可能性がなくなれば、魔族を守り続けることができる。人間に戦いを挑まれたとしても、負けることはない。つまり、魔族にとって利点しかないのだ。
レクスが口を開こうとしたとき、執務室のドアが乱暴に開け放たれた。飛び込んで来たのはアンシェラだった。
「大変! 大変よ!」
レクスはキングと顔を見合わせ、即座に立ち上がった。
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