28 作戦会議
翌日。レクスは、キングと護衛の五人、ブラムとカルラを執務室に集めた。レクスの緊張が伝わって、彼らも一様に真剣な表情を浮かべている。
「いつまた人間が攻めて来るかわかりません。防護ラインを強化しようと思います」
もとより魔族の国の防護ラインは手厚い。対人間用に特化したものが設定してある。それを五人の人間が越えて来たとなれば、さらに強化する必要があるだろう。
「いまは国境の関門に騎士隊が一隊いるだけです。増員などで対処する必要があるでしょう」
「そもそも」フェンテが言う。「あの五人はどこからどうやって入ったんでしょうか」
「魔防壁……魔法による防護壁を掻い潜ったテレポートの魔法だと思います」
それは国を覆うように張り巡らされている。魔族の中でも最も強い魔力を持つ者により設置されたものだ。
「魔防壁はどうなっている?」
キングの問いに口を開いたのはルドだった。
「自分を含めた魔法使い六人で結界を張ってますね~。そう簡単に越えられるものじゃないと思ってたんですけどね」
「いままではそれで防げていたが」と、キング。「人間の魔法が進化しているということか」
「そういうことですね。……アンシェラ、キールストラ。協力していただけますか」
レクスがそう言うと、アンシェラは拳を握り締め、キールストラは力強く頷いた。
「なんでも任せてください!」
「僕たちが結界を張ればよろしいですか?」
「それが手っ取り早いですが、あなた方の魔力回路を鑑定させていただきたいんです」
鑑定で魔力回路を解析すれば、どういった魔法を使えるかがわかる。それがわかれば、対応する魔法を確定することができるのだ。
「魔族の魔法が人間に対応する必要があります。そのためには、人間の魔法を知ることが肝要です」
「私たちは一度、魔防壁を越えたってことですもんね」
「その僕たちと同じ魔法を、あの五人も持っていたということですね」
「ええ。あなた方の魔力回路を鑑定して、それに対応する魔法を作ります。それを基に結界を張らなければなりません。あなた方には、魔族のために手を煩わせてしまいますが……」
「なんてことないです! これでキングへの恩を返せるなら、なんでもやります!」
「ここにいることを許してくれたレクスへの恩返しでもあるんです」
「……ありがとうございます」レクスはひとつ息をついた。「魔族のため、その知恵を貸してください」
アンシェラはスカートの裾をつまみ、キールストラは胸に手を当てる。そして――
「王の御心のままに」
辞儀をしてそう声を合わせた。
魔力回路の鑑定のため、ブラムとルドがアンシェラとキールストラを執務室から連れ出す。それを見送ってから、レクスは地図に目を落とした。
「あとは国境警備隊の強化ですね」
この国と人間の国の国境は魔防壁により防衛ラインが敷かれている。この国で最も優れた騎士の六人が関所を厳しく閉ざしている。先日のように人間が通ろうとした際に、関所を越えることを防ぐのだ。
「俺に協力させてくれませんか」フェンテが言う。「そもそも、魔王に人間の攻撃が届くのはおかしいんです」
「おかしい……ですか」
「魔王には、特別な武器でないと攻撃が通らないんです。魔王の名を持つ魔族には、特殊な防護の魔法がかかっていますから」
レクスが振り向いて視線を遣ると、キングは肩をすくめた。
「王の名に付随する恩恵だ。お前にはさらに私の祝福も与えていた。あれだけ傷付いたのは異常だよ」
「そうですか……」
知らなかった、とレクスは心の中で呟く。ただ自分が弱いだけだと思っていた。キングとフェンテの言うことが本当なら、人間は随分と卑怯な手を行使したものだ。
「俺の剣がそうなんですが、この特殊な武器を作れる者は人間の国にはひとりだけです」
レクスは思わず顔をしかめた。
「フィリベルト。五人の武器は押収していますね?」
「はっ!」フィリベルトは敬礼する。「人間が持っていたすべての武器を押収したっス!」
「それを解析して、それに対応した防護魔法を作りましょう」
「はっ!」
魔王に攻撃を通すことのできる武器を作れる者のことは慎重に調べたほうがいいだろう。魔王に攻撃の通る武器は、他の魔族にも効くはずだ。そんな危険極まりない武器を、もう二度と魔族の国に持ち込ませてはならない。
「その武器職人を、人間の国の信用できる者に調べさせます」と、フェンテ。「その武器職人が五人に武器を渡したということですから」
「わかしました。調査のことは一任します」レクスはひとつ息をつく。「魔族のため、その力を貸してください」
フェンテは胸に手を当て、辞儀をする。
「王の御心のままに」
フィリベルトに連れられ、フェンテも執務室をあとにする。カルラもその補佐のためふたりについて行った。
人間から魔族を守るために人間の知恵を借りる。なんとも皮肉なものだ、とレクスは心の中で呟いた。
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