27 自分の気持ち

 私室のベッドに倒れ込むと、どっと疲れが押し寄せてきた。無理は禁物だと仕事はほとんどしていないが、キングと母の結託に頭がついていかない。

 確かにキングのそばにいることで危険度は限りなく低くなるだろうが、それとこれとは話が別である。お付き合いするということは、ふたりの関係が大きく変わることになるのだ。

「やっとお付き合いが始まったんですね」

 イーリスが嬉しそうに微笑んで言った。

「どうしてそれを……」

 あの場にイーリスはいなかった。レクスとキングがお付き合いから始めることを、彼女は知らないはずである。

「カルラから聞いちゃいました。もうお付き合いしていたようなものでしたけど」

 他の侍従は知らないはずだが、イーリスはキングが私室に来てレクスを愛でることを目撃している。お付き合いしていないと言うほうがおかしい、と思っていたのかもしれない。

 レクスは溜め息を落とした。

「生まれてこのかた、恋なんてしたことないからわかんないよ……」

「キングに対してドキドキしませんか?」

「それはするけど……。でも、あんなの誰でもドキドキしてしまうよ」

 可愛いと言われて頬を撫でられ、あんな優しいキスをされれば、誰だってどぎまぎしてしまうはずだ。そのドキドキが恋心なのかがわからない。

「僕はどうしたらいいんだろう……。キングは僕にどうしてほしいのかな」

 キングがレクスに何を求めているのかは判然としない。嫁にほしいと言うからには、何かをレクスに求めているのだろう。

「愛って、見返りを期待するものではないんですよ」

 イーリスの言葉に、レクスは首を傾げた。

「ただその人が愛しいだけなんです。だから、キングはただレクスにそばにいてほしいと思っているだけだと思いますよ」

「……本当にそれだけでいいのかな。どうしたらいいかはわからないけど、それだけじゃダメな気がする」

「ご自分の気持ちと向き合われてみてはいかがですか?」

「僕の気持ち……」

 自分がキングに対してどう思っているのか、それを考えるということだ。よく考えてみないと、すぐにはわからない。

 部屋のドアがノックされる。応対に出たイーリスが、お茶を淹れて参りますね、と微笑みながら出て行った。部屋に入って来るキングに、レクスは体を起こして溜め息を落とす。

「どうした」

「……誰のせいだと」

 キングは困ったように笑って、レクスを膝に抱えソファに腰を下ろした。レクスはいつも以上にどぎまぎして、キングから目を逸らす。しかしキングはそれを許さず、頬に手を添えて自分と視線を合わさせた。

「外堀から埋めるような真似をして悪かったとは思っているよ。ただ、お前を私のものにするためには、こうするしかなかったんだ」

 キングは優しくレクスの頬を撫でる。触れられたところが熱くなって、顔が真っ赤になるのを感じた。

「私の想いはいつまでも伝わらないようだったからね」

「……でも……僕はどうしたら……」

 視線を泳がせるレクスに、キングは優しく微笑んだ。

「お前はいつも通りにしていればいいよ」

 そう言って、キングは触れるだけのキスをする。心臓が爆発しそうだ、とレクスは思った。

「お前は本当に可愛いな」

 これまでの人生の中で経験したことのない状況と気持ちに振り回され、頭の働きが遅くなるのを感じる。キングが見返りを求めずレクスにそばにいてほしいと思っているだけなら、それに応える必要があるだろう。いつか、自分も自然とそう思うことができればいいのだが、とレクスは心の中で呟いた。

「僕は、キングと同じ気持ちなのかわかりません」

「いまはそれで構わないよ。ただ、お前が私のものだと忘れないでいてくれれば、それでいい」

 イーリスの、自分の気持ちと向き合う、という言葉が頭の中を巡った。キングのためにも、それは必要なことのように思えた。

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