第91話 08月21日【1】

 「……暑いわね」

「うん」

「どうして私、ここに居るのかしら…」

「今更なに言ってんの。発案者が参加しないなんて、おかしいでしょーが」


モデルのイベント当日。集合場所の駅前で、私と共に残るメンバーを待っていた薬局王キングが、だった顔で自問自答した。

 当初、薬局王キングは今回のイベントに参加するつもりは無かった。単にアドバイスだけのつもりだったらしいが、それでは人が足りないのでなかば強引に彼女を連れ出した。

 「自分は背が高くないから」「モデルなんてやったことがないから」と薬局王キングはゴネていたが、説得を重ね渋々ながらも承諾させた。

 にも関わらず待ち合わせに一番乗りするあたり、責任感の強い彼女らしい。

 念のため今朝は私も早めに家を出たのだが、約束の30分以上前にも関わらず、薬局王キングは駅前に一人で仁王立ちしていた。


 「……というか、なんで私が車も出さないといけないのよ」

「仕方ないでしょーよ。僕の車じゃ5人も乗ったらすし詰め状態になっちゃうよ。って言っても…」


口籠もりながら、私はすぐ傍のコインパーキングを見やった。視線の先にあるのは、2シーターの真っ赤なスポーツカー。


「なんで二人乗り?」

「仕方ないでしょ!」


顔を赤らめ、薬局王キングはプイとソッポを向いた。

 キラキラと輝くようなスポーツカーの隣には、乗り古した私の普通乗用車が並んでいる。なんだか、差を見せつけられた気がする。

 そうこうする間に、綾部あやべさん、お嬢ちゃん、そして光希みつきさんが順に到着した。


 「皆さん、今日はお忙しい中、本当にありがとうございます」


皆が集まったと同時、お嬢ちゃんが平身低頭に挨拶をした。

 ゆっくりと頭を上げたお嬢ちゃんは、そのまま光希みつきさんを見やる。


「あの……はじめまして神永かみなが先生……小篠こしのと言いま。きょ、今日は急なお願いを、すみません…」


恐縮を全身に表しながら、言葉噛みつつお嬢ちゃんはまた頭を下げた。

 そんな彼女に、光希みつきさんも「ふふ」と優しい笑みを浮かべる。

 

 「そう硬くならないでください。改めまして神永かみながです。今日はよろしくお願いします。お力になれるよう、精一杯協力させていただきますね」


大人を感じさせる光希みつきさんの言葉に、お嬢ちゃんは「ほっ」と安堵の表情を見せた。それは私もだが。


 「それじゃあ皆、車に乗って下さい」


と、私が声を掛けた途端。4人は一様に顔を見合わせた。


 「翔介しょうすけさん。車は2台で行くんですか?」

「はい」

「誰が、どちらの車に乗るんです?」

「……」


けたたましい蝉の鳴き声が、静寂の空に木霊する。



 ※※※



 結局、私の車には綾部あやべさんと光希みつきさんが。薬局王キングの車にはお嬢ちゃんが乗車した。

 目的地は予め伝えられていたが、念のため薬局王キングのスポーツカーを先導に、お嬢ちゃんが道案内をする形となった。

 正直に言うと、私はこの移動中の車内が非常に不安だった。

 あちらに乗車している薬局王キングとお嬢ちゃんはともかく、こちらの二人の関係性が計り知れないからだ。

 不安を抱えながら私は運転席に乗り込み、二人を後部座席に乗せて発進した……その数分後。


 「じ、事務長! 薬局長やっきょくちょう様の車が見えなくなりました!」

「だって薬局王キングがウインカー出すの遅いから!」


 「あ、翔介しょうすけさん! 見えました! あちらの側道に!」

「なんであんな所に!?」


 「事務長! 信号が黄色に変わりました!」

「いや、もう無理だよ…」


 「というか、ここ制限速度50kmですよね?」

「そうですね…」


 などと薬局王キングの運転するスポーツカーを追いかけるのに必死で、車内の会話は殆どそれに費やされた。

 おかげで目的地のシオンモールに到着した頃には、我々は既にグロッキー状態だった。


「どうしたのよ3人とも。まさか車酔い?」


薬局王キングは「翔介しょうすけの運転が下手なのね」などと言い加えて得意気に笑った。

 もはや言い返す気力も無い。


 「あ、皆さん。あちらです」


乱暴な薬局王キングの運転にもお嬢ちゃんはケロリとした様子で、私達を引き連れシオンモールに向かった。

 冷房の効いた建物内に入ると、お嬢ちゃんの先輩とおぼしき女性の方が出迎えてくれた。スタイルの良い、少し気の強そうな中年女性だ。


 「皆さん、今日はお越し下さりありがとうございます。無理なお願いをお引き受け頂き、感謝いたします」


恭しく頭を下げると、女性は嬉しそうに「美人揃いね、やるじゃない」とお嬢ちゃんに耳打ちした。

 お嬢ちゃんは照れ臭そうに笑った。



 ※※※



 女性陣は衣装合わせのために、スタッフ通用口の向こうにある控室へ向かった。私は一足先に会場へと赴く。

 会場と言っても、そこはモール内の吹き抜け広場に簡易なステージが設営されただけのもの。

 おまけに先輩が個人で開いたイベントではなく、いくつかの企業や事務所が協賛しているらしい。

 並べられたパイプ椅子には既に数名の客が陣取っていた。私も前の席で開始を待つ。


 そうして、約2時間後。


 イベントは順調に進み、会場は徐々に観客らで溢れるようになった。

 100脚ほど並んでいるパイプ椅子はとうに満席となっていた。立ち見の客まで居る。


 司会進行のお姉さんが、アナウンスを行う。


 とうとう、お嬢ちゃん達の出番が回ってきた。




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 いつも拙作をご覧くださり、誠にありがとうございます。

 この謎文字列も早いもので90話超となりました。

 これほどに話が続けられているのも、御覧下さる皆様の御陰です。


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